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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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命蓮寺の大阿闍梨

 夏も終わり秋に入った頃、私と先輩は見回り休憩にと甘味処で栗饅頭に舌鼓していた。


「甘ぁ〜。やっぱりこれを食べないと秋が始まらないなぁ」


「それで夕飯は栗ご飯ってこと?」


 先日阿求から貰った大量の栗に私の頬が緩む。


「沢山貰っちゃったからしかたないね」


「甘党ねぇ〜。ま、私も嫌いじゃないけど」


 今は実りの秋、夏の猛暑が稲に影響を与えるかと思われたけど今年の夏は雨も多かったからその心配は無いようだ。


「今年も豊作になりそうだね」


「秋の収穫祭には秋穣子を呼んでの祭り。自警団は今年も大忙しだ」


 私はこの時期が来るといつも疑問に思うことが有る。

 秋穣子様は収穫祭の前に呼ばないと豊作を約束できないんじゃないかと。

 でも誰も指摘しないし、あろうことか穣子様も指摘しないから私の疑問も杞憂なのかなぁ。

 そんな事を思いつつ栗饅頭をひと口齧ると、私の隣に誰かがやって来た。

 なんとなくそっちに視線を向けると、


「こんにちわ。今年も無事に収穫祭が迎えられそうですね」


 穏やかな笑みを浮かべる白蓮さんに、私はあいさつを返す。


「こんにちわ。夏の暑さが心配だったけど杞憂でしたよ」


「今年は例年以上に暑かったですからね」


 ふと私は白蓮さんの方に視線を向けると、いつも誰かしらお供が付いて居るのに今日は珍しく一人だ。

 私は何か事情が有るのだろうと聞かないことにすると、


「今日は一人?」


 先輩が無遠慮に聞いていた。

 

「えぇ、困ったことにあの子達は昨晩度が過ぎる酒盛りをしていましたから、そのお仕置きで少し南無三を」


 お仕置きで里に来られなかったんだ。

 白蓮さんの南無三は物理的なお説教って人里から命蓮寺に通ってる人から聴いたことが有るけど、あの噂は本当なんだぁ。


「それは起き上がれない筈だ」


 先輩は一人納得すると、近場を通った看板娘に追加の栗饅頭を頼んだ。


「あっ! 私も追加で栗饅頭を!」


「はーい! そちらのお方はどうなされます?」


「そうですね。では、私も栗饅頭を」


 さっそく注文を受け取った看板娘が店に引っ込み、私がお茶をひと飲みすると。


「こうして見ると絢音さんは、幸せそうに食べるんですね」


 そんなに私は顔に出てるのだろうか?

 

「あ〜、絢音は甘い物を食べる時はいつもこうだ。見てるこっちも嬉しくなるよ」


「むぅ、そう言われると照れればいいのやら」


「食に喜びを見出すのも良いことですよ。なんならウチに入門しますか?」


 食の喜びと仏門に入門することとどう関係が有るのだろうか?

 というか脈絡が無さ過ぎるような?

 

「私は半妖だけど人間の味方として人里に居たいです。それに眼を離すととんでもない事をする人が側に居ますから」


「あ〜? そんな迷惑な奴が居るのかしら?」


 あなたのことだよ。そう言ってやりたいけど、先輩は分かった上で惚けてるのだ。


「そうですか。気が変わったらいつでも命蓮寺の門は開いてますよ」


「えぇ、先輩に愛想が尽きたら考えておきます」


「……かわいい後輩を誘惑しないでくれる?」


 先輩が私の肩を抱き寄せてそんな事を言っていた。

 なんだか先輩の顔には必死さが現れてて、少しは危機感を抱いてくれたのかな?

 先輩の様子に私と白蓮さんはお互いに笑うと、丁度栗饅頭のおかわりが運ばれてくるではないか。

 さっそく白蓮さんが栗饅頭をひと口食べると、彼女は微笑を浮かべていた。


「まあ、これは中々美味しいですね。……一輪達にもお土産に持って帰ろうかしら?」


「きっと喜んでくれると思いますよ」


「南無三の後に栗饅頭……鞭と飴ね」


「ふふっ、確かにそうですね」


 それから栗饅頭を完食した私と先輩は見回りに戻る。

 白蓮さんは命蓮寺の弟子達に栗饅頭を買って帰ることに。

 ……それから程なくして、私と先輩が里の門を通り掛かると命蓮寺に雷が落ちた。

 まさか白蓮さん不在中に酒盛りをしたとか?

 私と先輩はお互いに苦笑を浮かべる他になかったのだ。

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