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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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塩屋敷の再調査

 私と先輩が支度を整えて、いざ見回り開始という時に来客が訪れた。

 訪れた人は人里で塩の取引を一手に取り仕切る塩屋敷の若旦那だった。

 如何して彼が此処に訪れたのか、私は彼の訪問に嫌な予感を感じてならない。


「貴女達に父の死の真相について再調査して頂きたい」


 私と先輩に若旦那はそう切り出してきた。


「病死で亡くなったと聞いてるけど? それに随分時間が経ってるからねぇ」


 何か事件性が有ったのなら証拠は無いかもしれない。先輩が暗に語ると、若旦那は首を横に振る。


「父は確かに奇行が目立っていた。それでも急死するような病を患ってはなかったんだ」


「それで改めて調査して欲しいと?」


「えぇ、もしかしたら父の死に妖怪が絡んでるかもしれませんからね」


 若旦那の言葉に私と先輩はお互いに顔を見合わせた。

 すると先輩は笑みを浮かべ、


「調査なら絢音を連れて行くといいわ。この子は半妖だから人間が気付き難いことにも敏感よ」


「えっ? 私に任せるの?」


「調査するにしても屋敷と外部を調査する必要が有るでしょ? だから此処は二手に別れるべきだ」


 なるほど。確かにその方が調査も進めやすいか。

 その前に若旦那には釘を刺しておかないと。


「調査するのは構わないけど、何も成果を得られないかもしれないよ。それでもいいなら協力はするわ」


「それでも構わない。元よりこちらの疑問から始まったことだからね、調査して何も出なければそれでいいんだ」


 それなら父は急死だったと諦めが付く。若旦那はそう語って立ち上がった。

 こうして私と若旦那は塩屋敷を調査することになったのだ。


 ▽ ▽ ▽


 塩屋敷の旦那さんの部屋に通された私は、庭先で見た物について若旦那に尋ねた。


「そういえばアセビを植え直したのね」


「あぁ、あれでも昔は父が大切にしていたからね。なのに父はアセビを伐採してしまった。思えば最後に伐採してしまったのがいけなかったのか?」


 アセビは馬を酔わせるって阿求から聞いた事もあるし、魔除けとしてのご利益が有るとも。

 ただ、馬を酔わせる性質から馬を飼う家では禁忌とされているという話だ。

 私はアセビに纏わる話しを思い出しつつ、当時のままにされた旦那さんの部屋を隅々まで調べた。

 刀で乱心した際の傷が当時のままで、私は傷跡に触れる。

 あれから時間が経ち過ぎてるせいか何も感じられない。

 何度も調べ直しても証拠らしいものは出なかった。

 もうこの部屋には証拠と呼べるものは何も残されてはいないのだ。

 なら調査の視点を変える他にないわね。


「傷跡には妖気の痕跡も無しと……質問だけど、旦那さんは馬を大切にしてたんだよね?」


「ん? あぁ、何故かその大切にしていた馬を生きてる内に殺してしまったけどね」


「……それは如何してなの? 例えば馬刺しを食べて味を占めたとか、何か原因に思い当たることはない?」


「そういえば父は、馬飼いの旦那から馬刺しを貰って食べたとか言っていたね。それが大層美味だったらしいけど」


 馬を殺しはじめたのは、馬刺しが目的だった?


「じゃあ馬を殺し始めたあとぐらいに使用人の解雇、乱心、アセビの伐採指示、馬の屠殺を?」


「確かその順序だったはず。……それが何か父の急死と関係が有るのかい?」


「うーん、まだ何とも言えないわ」


 ……そう建前では語ったけど、これは一度阿求の所で調べ直す必要が有るわね。

 これは明らかに馬の怨みを買う行動だし、何より当時は首の無い馬が鈴奈庵で目撃されていたわ。

 そういえば数日前に魔理沙さんがこの屋敷の様子を探っていたけど、偶然かな?


「いずれにせよ、此処では調べようがないから資料を探ってくるわ」


「はあ? 資料を読めば何か分かるのかい?」


「過去との前例を照らし合わせることができるよ」


 私はそう言ってさっそく稗田邸に駆け出した。


 ▽ ▽ ▽


 私は阿求に事情を説明して資料庫に通され、


「それで? 調べたい内容はなに?」


「アセビの木と馬、家族同然だった馬の屠殺とその後の前例かな」


 そう伝えると阿求の眉が歪むではないか。

 きっと阿求は塩屋敷の旦那さんの死に付いてとっくに勘付いているのだろう。

 だけど阿求の口から言えない事情が有る。


「あんた、塩屋敷の再調査を頼まれたんだってね」


「終わったことをほじくり返すのは気が引けるけど、若旦那が納得しなきゃ何も終わらないのよ」


「そう。……家族同然だった馬の屠殺に付いては『因果物語』なんかに記されてたわね。前に読んだことが有るでしょ?」


 あぁ、随分前に読んだことが有るなぁ。

 確かあれは塩屋敷の旦那さんと同じく、馬を無惨に扱った者が殺した馬に取り憑かれ、奇行の果てに死亡してしまうという話しだった。

 その妖怪の名は馬憑きと呼ばれ、頭から入り込み身体を乗っ取ると言われている。

 あの日に目撃された首無し馬は殺された馬の怨念、首は既に旦那さんに入り込んだ後だったとしたら説明も付くかな。

 つまり塩屋敷の旦那さんは馬憑きに取り憑かれて……元に戻せないから何者かに退治されてしまった。

 誰にも気付かれずに侵入して馬憑きを退治できるのは、幻想郷の中で限られてるわ。特に人里で起きた事件だから介入できるのも非常に限られてくる。


「その様子だと謎は解けたようね」


「解けたって、こんなのは解決した事件の後追い。単なる答えられない答え合わせをしたに過ぎないじゃない」


 塩屋敷の件は自警団として何もすることはできない。

 塩屋敷の若旦那には急死してしまったのだとそう説明するしかないわね。

 人里の長者が妖怪に取り憑かれるだけでも大騒ぎだけど、元に戻せないから人間ごと退治となれば動揺も大きくなる。


「絢音、塩屋敷の件はああする他に手段が無かったのよ」


「うん、理解してるよ。守るべき人間がもう居ないんじゃ、あとは妖怪を退治するしかないからね」


「そう。それにしても難儀だったわね」


「遺された側は如何しても真実を知りたくてしたかないんじゃないかな?」


 若旦那は本当に父親の死の原因に付いて疑問を宿していた。

 だから全て終わってることも承知で自警団を頼ったのだろう。

 責めて自分なりに折り合いを付けたいから。


「それじゃあ私は報告に戻るわね」


 そう言って私は小さく阿求に手を振って塩屋敷に戻った。

 それから塩屋敷の若旦那には、調査から得られた結果を伝えた。

 結果は急死、そこに妖怪の関与は得られなかったことを伝えたのだ。

 若旦那は調査結果に納得していたけど、私は去り際に一つだけ伝えた。


「大切な家畜もアセビも傷付けちゃダメだよ」


 こうして帰路に着いた私は深く溜息を吐く。

 すると物陰から先輩が姿を見せ、


「お疲れさま!」


 労いの言葉と共に笑みを浮かべていた。


「何がお疲れさまよ、先輩は既に真相が分かってたんでしょ?」


「若旦那が要件を伝えた時にはわね。でもそれじゃあ若旦那は納得しないでしょ?」


 相変わらず先輩は僅かな情報を拾って理解する力に長けるなぁ。


「むー、確かにそうだよね。先輩があの場所で答えても変な人扱いで終わってたもんね」


 私はそう言って歩き出すと、背中から先輩が酷い言われよう! って嘆いていたけど普段の行いが悪いのだ。

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