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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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半人半霊の庭師

 お盆が近付く人里で今日も私と小兎姫先輩が見回りに勤しむと、


「泥棒だぁー! 誰かそいつを捕まえてくれ!!」


 叫び声に私は手錠を片手に、人混みを押し退けて走る泥棒に向けて手錠を二つ投げた。

 手錠は泥棒の背後から円を描いて、回り込むように泥棒の両手両足に引っ掛かる。

 地面を頭から転ぶ泥棒に先輩が駆け寄り、


「確保! 人里で泥棒だなんて甘かったね!」


 泥棒の身柄を抑えた。

 こうして群衆が見護る中泥棒を捕まえた私と先輩は、被害に遭った霧雨店に盗まれた商品を返してから泥棒を自警団の牢屋に放り込んだ。


「い、いつになったら出られるんだい?」


「私が飽きるまで」


 先輩のそんな返答に泥棒が青褪める。

 人里は外の世界のような法律と呼ばれる細かい決まり事はないからね。だから自警団の局長でもある先輩の匙加減で決まる。

 前に捕まえた妖怪なんか一年は捕まってたっけ。


「これに懲りたら泥棒なんて二度としないことね。……先輩は中々飽きないよ?」


 私が追撃すると泥棒は項垂れて牢屋の床に座り込んでしまった。


「さてと無事に道具も取り戻せた事だし、見回りの再会と行きますかね」


「うん、鍵はしっかり掛かってるから逃げ出そうなんてしない方が良いよ」


「わかったよ。あんたのあの手錠の前に逃げられないって理解もしたさ」


「その前に反省してよ。度が過ぎると人里から追い出されるんだから」


 以前人里で殺人事件が起こった事が有ったけど、殺人犯の扱いは非常に単純で淡白だ。

 殺人犯の扱いは里から追い出すことで解決されていた。

 だから人里では滅多なことでは殺人事件は起こらないのだ。


 ▽ ▽ ▽


 見回りを再会させた私と先輩が大通りに到着すると、集まった人々が何やら騒ついてるではないか。


「何か有ったの?」


 近くの人に話を聴くと、


「いやぁ、何でも大切な物を失くしたとかで泣きそうになりながら探し回ってるんだ。半人半霊の少女がさ」


 言われて私と先輩が甘味処に視線を向けると、そこには長椅子の下や屋根の上にを必死に捜す魂魄妖夢さんの姿が有った。

 失くし物を捜すのも自警団の仕事だ。だから私と先輩は妖夢さんに近寄る。

 そして先輩が、


「自警団だ! 話しを伺おうか!」


 誤解を招く聞き方をわざとやらかした。


「えっ!? 刀を携帯してるけどまだ斬ってないよ!」


「まだって事は斬るつもりだったの?」


「あっ、いや違うよ」


「それで、あなたは妖夢さんだよね?」


「確か自警団の絢音と小兎姫だったよね」


「うん。しばらく人里で見掛けなかったけど、今日はどうしたの?」


「実は幽霊を先導する送り提灯を何処かに落としちゃって……どうしよう! このままじゃ幽々子様に叱られる!」


 あれ? 前にも妖夢さんは送り提灯を何処かに置き忘れてたようなぁ?


「落としたって言うけど、甘味処を探してたってことは一腹の時に置き忘れたんじゃないの?」


 先輩の指摘に妖夢さんが視線を逸らした。

 なるほど、甘味を味わって送り提灯を置き忘れたと。それで気が付いて慌てて戻って来たらもう無くなってたと。


「店員には話しを聴いたの?」


「うん。聴いたら確かに見たけど、気が付いたら無くなってたって言ってた」


「じゃあ誰かが持ってたのかもね。送り提灯なんて珍しいだろうからねぇ」


「うぅ〜、アレが無いとお盆で溢れた幽霊を連れ帰れなくなる」


 幸いここは人間の多い往来だ。

 だから誰かしら送り提灯を持っていた人を目撃してるかもしれない。

 そう考えた私と先輩は様子を見守っていた人集りに振り向く。


「此処に置かれていた提灯を誰か見た人はいない? この子の大切な物らしいんだ」


 先輩の質問に里の人間はお互いの顔を見合わせ、お前は見たか? 如何だった? 有ったけ? 見てない。という反応があちこちから返ってきた。


「本当に見てないの? 誰かが持って行ったとか」


「あっ! そういえば霧雨の所のお嬢さんが手にしてるのを見たぞ!」


 有益な証言を得た私達はお互いに顔を見合わせ、厄介な人に拾われたもんだと溜息を吐いた。

 魔理沙さんは落ちてる物を自分の物に……そういえば幻想郷の住人は普通にやるよね。名前が書いてない落とし物を私物にするのなんて。


「魔理沙が何処に行ったのか知ってる!?」


「あぁ、それなら塩屋敷に立ち寄るとか言ってましたよ」


 次に得た証言に私達は急いで塩屋敷に走り出した。


 ▽ ▽ ▽


 私達が塩屋敷に辿り着くと、そこには外堀から屋敷の様子を観察していた魔理沙さんの姿が有った。

 その手にはしっかりと拾った送り提灯も。

 これで交渉なりすれば妖夢さんの探し物は帰ってくる。なんて安心した束の間、妖夢さんが楼観剣と白楼剣を抜刀して魔理沙さんに駆け出すではないか。


「ちょ!? 妖夢さん待って!」


「ん? なんか騒が……うわぁぁ!?」


 魔理沙さんに妖夢さんが斬り掛かると、魔理沙さんは寸前のところで尻餅を付いたから刃から逃れる事ができた。

 私は急いで妖夢さんを羽交締めに取り押さえると、


「離して絢音!」


「人里で刀を振り回すのはダメ! あと魔理沙さん、その提灯を返して!」


「なんだってんだ? それにコレはわたしが拾った物だ」


 あぁ、やっぱり返す気は無いらしい。

 私は如何したものかと先輩を見る。すると先輩が、


「私、弾幕ごっこが見たいわぁ〜」


 突然そんな事を……あっ、その手が有ったか。

 私は弾幕ごっこをしないからすっかり失念してたわ。幻想郷らしい幻想郷の解決法を。


「えっと、魔理沙さんと妖夢さんが今から弾幕勝負をして勝った方が送り提灯を手にするというのはどう?」


 妖夢さんが勝てば問題は解決する。


「ま、わたしはそれで文句はないが」


「私もそれでいいわ!」


 こうして合意の末に妖夢さんと魔理沙さんの弾幕勝負が人里の上空で行われることに。

 空で繰り広げられる弾幕ごっこに私と先輩は目を奪われ、二人の出す弾幕を美しいと絶賛した。

 もちろん今回は妖夢さんを応援するけど、ここまで美しい弾幕をみせられては何方も頑張って欲しいと思ってもしまう。


「妖夢さんがんばれー!」


「負けたら主人の説教コースよ!!」


 そう叫んだ先輩の声に妖夢さんは負けられいとスペルカードを唱えた。


「人鬼『未来永劫斬』!」


 魔理沙さんはスペルカードの攻略に入るも、妖夢さんの気迫に押される形で被弾してしまった。

 墜落する魔理沙さんを私は受け止めて、


「勝負ありね」


 微笑んで語りかけると、魔理沙さんは悔しそうに帽子を深く被った。


「折角レア物を拾ったのになぁ」


「素敵な弾幕を見せて貰ったからね、今晩は奢るよ」


「おっ、絢音の奢りか。それなら悪くないな」


 こうして妖夢さんは無事に送り提灯を取り戻すことができたのだ。

 妖夢さんは白玉楼の主に怒られることはないだろう。そう私が呟くと、先輩は隠し事はいずれ露見するものだと笑っていたわ。

 確かに幽霊は何処にでも居るからね、案外白玉楼の主には既に伝わってるのかもしれない。

 

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