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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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鼠妖怪

 気が付くと鼠妖怪の頭領らしき妖怪が私を凝視していた。

 両腕は縛られてる。油断はしてなかっけど、多勢に無勢だったわね。

 こんなことなら霊夢さんと先輩を呼んでおけば良かったわ。

 己の未熟さに嫌気が差してると鼠妖怪の頭領が口を開く。


「娘、オイラの嫁になるチュ」


 ……聞き間違い?


「今なんて?」


「オイラの嫁になるチュ」


 如何して私は鼠妖怪に求婚されてるのだろうか?

 そもそも人里の人間を襲った妖怪を私が許す訳ないじゃない。

 とは言え、拘束されてる状態じゃあどうにもならないか。

 おまけに十手と手錠の束は不用心に入り口の近くに転がってる。

 此処は隙を作る他にないわね。


「えぇ? 私をお嫁さんに? 如何して?」


「雨の降る中、草の中で見上げた人間の娘に一目惚れしたチュ」


 あの時の視線はコイツか!?

 ってことは私はあの時点で妖気に気付かなかったってことか。

 これじゃあ亡くなった老人に申し訳が立たないわ。


「えっと、私は人間じゃないんだけど」


「妖怪チュか? 神チュか?」


「半妖よ。私は半人半妖」


「なら問題無いチュ、嫁になるチュ」


 普通に嫌だけど?


「ねえ、話は変わるけどさ。今日ね人里で老人が妖怪に襲われたの、その犯人って知ってるかしら?」


「それは我々チュね。人間は酷いチュよ、変な置物でオイラ達が嫌う音を出して追い出したチュ」


 私は黙って鼠妖怪の頭領の言い分に耳を傾けた。


「最初は神社の備蓄を奪ってたチュが、次第に変な置物が置かれたチュ。食糧に困った我々はしばらくあちこちを放浪したチュよ」


「でも気が付けばどこも変な置物だらけ、天敵の化け猫や野鳥に襲われる日々が続いたチュ。それからはこうなった元凶の人間を怨みながら飢えに倒れる日々が続き、気付いたら妖怪になってたチュ」


「だから手始めに人間を襲ったチュ、これは虐げられた鼠の復讐チュよ」


 やっぱりか。鼠妖怪は人里に鼠避けが普及したことが原因で怨みから妖怪になってしまった。

 人間の行動で妖怪が産まれる事も有るけど、誰の悪意も介在しない出来事で鼠妖怪が発生してしまった。

 鼠避けという便利な道具に頼り過ぎたツケ、連中の雨が続き野鼠が人家に現れる自然の流れを堰き止めたのも原因の一旦かぁ。

 だけど私は鼠妖怪に決して同情はしない。


「事情は分かったわ。拘束を解いてそこに転がってる私の道具を渡してくれたら……その、ね? 考えてもいいよ」


「おお! 分かったチュ! さあ娘の拘束を解くチュ!」


 鼠妖怪の頭領に命じられるがままに手下鼠が拘束を解く。

 そして十手と手錠の束を渡された私は立ち上がった。


「ごめんなさい」


 同情はしないけど、里に住む者として今回の事件は決して無関係じゃない。

 だから謝罪の言葉と一緒に私は十手の霊力刀で鼠妖怪の頭領を貫いた。

 霊夢さんの強力な退魔符で作った霊力刀は成り立ての妖怪にとって致命的だ。

 驚愕と怨念に染まった頭領の視線に霊力刀を引き抜く。

 同時に鼠妖怪の頭領は消滅し、そのまま私は無我夢中で襲い掛かる鼠妖怪に霊力刀を振り続けた。


 気が付けば夜だ。

 周りを見渡すば静かな廃墟同然の足洗い座敷。


「絢音ちゃん無事!?」


 霊夢さんの呼び声に私は振り向き、


「油断して捕まっちゃったけど何とか退治はできたよ」


 少し咬まれたりしたから服があちこち破けちゃったけど、身体はほとんど無傷だ。


「無事なら良いけど、こっちも鼠妖怪共は退治したわ」


「里の被害は?」


「あれ以降は無いわね」


「そう、良かったぁ」


「ところで絢音ちゃん、鼠妖怪は群れだったけど……全部退治したの?」


「無我夢中だったけど、足洗い座敷に潜んでた鼠妖怪は全部退治したかな」


 これも霊夢さんの退魔符のお陰だ。

 それと私は霊夢さんに今回の事件を話さなきゃいけない。

 全て話し終えると、霊夢さんは頭を掻いて。


「今回は人間側の落度ってことか。どう対策したもんかなぁ」


「もう鼠避けは里の生活に浸透しちゃったからね」


「むー、これは阿求達と相談していくしかないわね」


 霊夢さんと言えども里の生活に関わる道具を全て回収することは難しい。

 特に蓄えに被害が出ないという事は人間が飢える危険性が減る。

 でも鼠妖怪が誕生してしまう危険性が残ったままではまた同じ被害が出る。

 私が頭を悩ませていると、霊夢さんは名案を思い付いたのか手を叩き、


「あっ! 動物と言えば華扇が居たわね! あいつなら野鼠を何とかできるかも」


「確か博麗神社に頻繁に出入りしてる山の仙人様だったよね?」


「あいつは動物と心を通わせることができるからね」


「えっ、すごい。それなら今回の一件は全部解決じゃない」


 こうして私と霊夢さんは里に戻って妖怪退治が完了したことを人里の人々に伝え、一先ず里に安寧を取り戻すことができた。

 と言っても私が足洗い座敷に向かってる時には、小兎姫先輩が混乱する里の人々を退治する傍ら落ち着かせ回っていたから混乱は最小限に留まったそうだ。

 退治も大事だけど、人間を安心させる事も大切なんだと私は改めて気付かされた。

 それに今回の鼠妖怪の一件は私と霊夢さんの胸の内に仕舞うことにした。

 里の人間が安心して暮らして行くには、余計な不安要素を伝える必要は無いからね。

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