ちん〇ん!
「い、いいけど……」
「では失礼する」
許可するなり、リムルはずかずかと部屋に上がる。
肩肘張ったその様は女騎士に相応しい勇ましき姿に見えなくもないが、ぎこちないとも思えるし、なんだか少しの違和感を感じる。
「風呂はこちらか?」
「そ、そうだけど」
風呂釜を水で満たすと淡々と湯を沸かすリムル。
揺らぐ炎をじっと見つめている。
「いやに静かだね」
「ソうか? いつも通りのつもりだがが……」
出始めの声が裏返ったし、おまけに語尾はどもってる。
俺も十分動揺しているけれど、リムルはそれ以上に様子がおかしい。
「雑用みたいなことさせて悪いね。それに皆には宿代まで出してもらって……俺って本当にどうしようもないヒモ男で……」
「そんなことはない!」
風呂焚きの手を止めて振り返ると、突然リムルは声を張った。
威勢はいいのだが……あれ、肩が震えてる?
「なぁネクロ、そんなことはないんだよ。私が好きでやってるんだ。それに突然別の世界に連れて来られたら、誰だって困るに決まってるよ」
「そ、そうかもね……ありがと」
不謹慎なのだが、リムルがまともなことを言ってることに驚いてしまった。
「なんかさ、いつものリムルと違うね」
はっとして俯くリムルの顔は火照っていて、下手に誘惑するより艶やかだ。
「ち……」
「え?」
「ちんちん!」
「…………」
良い雰囲気に温まった部屋の空気を、荒んだ風が流れて冷やす。
「え、ええと……突然何を……」
「だって……そうなんだろ? 男の子はえっちな言葉を言えば喜ぶんだろ!?」
どこで仕入れたのか、これまたなんて歪んだ知識だ。
いつも通りリムルは変態で淫乱で、でも逆を言えば、そんな浅はかな知識を信じてしまうほどに純粋無垢だった。
俺が魅了したことで、きっと初めて異性を好きになって、喜ぶことをしたかったに違いない。
「人によるんじゃないかな。でも少なくとも俺は、そんなことを言わずとも、リムルはとっても魅力的な女性だと思うよ」
「ふ……ふぁぁぁ……」
桃色の顔は更に紅潮し、真っ赤に染まり上がった。
俺の気を惹きたいリムルは、今までずっと無理をしてたんだろう。
でもホントのところは、一番純粋な女の子。
「ネクロ……私はこんなに幸せでいいのか? 一夜明けてしまったら、私の目の前からいなくなってしまうんじゃないか?」
「そんなことはないよ。俺は消えたりしないし、明日からもずっと一緒だよ」
このことを知られたら、ハルモニアとドールには激怒されちゃうだろうけど、その日に俺はリムルと共に一夜を過ごした。
俺の腕の中で安らかな寝息を立てるリムル。
リムルは天使でもなく人間で、遠慮してしまうような歳の差もない。
この魅了の力を使った以上、誰かと結ばれなければならないとしたら、この俺が選ぶべき女性は――