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お楽しみタイム

 失神から目覚めると背には柔らかい感触を感じる。天井が見えるので恐らくベッドの上なのだろうが……

 両脇にも温もり感じて左右を見てみると、寄り添うハルモニアとリムルが静かに寝息を立てている。

 動けん……ピュアな俺は何をどうしていいのかも分からない。おまけに心臓も高鳴って、再び寝ることだってできやしない。


「起きたんですか?」


 左側のハルモニアが眠気眼を擦りはじめる。

 一度は顔を向けたものの、とにかくハルモニアの顔が近くって、正視が憚れ再び天井を見上げた。


「うん……迷惑掛けたね」

「こちらこそ驚かせてすみません」

「これからどうしよっか」

「ネクロさんは魔王を倒すために転生したんです。魔王討伐に向かわれてはどうでしょう?」

「俺が!? 無理に決まってるよ……」


 相手が女性ならなんとかなるが、男や魔物相手ではそうもいかない。

 一発貰えば即KO。俺が戦うなんてのは不可能だ。


「ねぇ……私も頑張りますから。お師匠様に認められて、晴れて私が神に認定されれば、誰にも邪魔されない永遠の世界を共にできます」

「だけど現実的に考えて……」

「私ももっと強くなります。あとはレベル2000で生み出した勇者を探しましょう。今頃は更に強くなっているはずです。ネクロさんは傍にいて、応援してくれるだけで構いません」

「う、うん……」


 正直勝手にやってくれって感じだが、ハルモニアは一時も俺と離れたくはないのだろう。

 そういう想いが触れた素肌から伝わって、ひしひしと感じられた。


「ならば私も共に行こう」


 右側からリムルの声が。

 もしかして二人とも寝たふりをしてたのか?


「勝手に話を進めるとは。私が聞いていないとでも思ったか」

「だって寝てると思ってたし」

「ネクロを横にして寝られるか。今も心臓はバクバクだ」

「リムルが言うのはムカつきますが、それは私も一緒です。目が冴えて、とても寝てなんかいられません」

「それは俺も……同じだよ」


 すると更に身を寄せる二人の顔が眼前にまで迫ってきて、生暖い息が頬に触れる。


「どっちですか!?」

「当然、私を想って寝られないんだよな?」

「私ですよね!?」

「いいや、絶対私だ!」

「どっちも……てのは駄目かな?」

「駄目です!」

「駄目に決まってるだろ!」


 そうだよね。でも俺、優柔不断だから決められないし。


「とにかくこれからは冒険なんだから、今日はちゃんと寝ようよ。緊張するなら一旦距離を離そう」

「えー」

「一緒がいいー」

「それじゃあ寝れないでしょ! 俺は床で寝るから、二人はベッドで寝てて」

「ネクロさんを床で寝かせるなんてできません! せめて私のおっぱい枕を使ってください!」

「地べたに這いつくばるのは私の方がお似合いだ。私をベッド代わりに上から圧迫してくれ!」


 くそ、変態どもめ。

 それじゃあベッドから下りても何も変わらないんだよ。


「もういい! 俺は寝るから、二人とも勝手に寝ててくれ!」


 ベッドの隅で丸まって無心になって瞼を閉じる。

 ようやく眠気が訪れるころ、なにやら荒い息遣いと共にぴちゃぴちゃという音が聞こえたが、何も考えずに寝ることを決め込んだ。

 寝るまでに時間は掛かったが、そもそも宿に入る時間が早かったので、翌日は朝早くに目が覚めた。

 さすがの二人も本当に寝ているらしく、物音立てても反応しない。

 そしてなぜだかベッドのシーツはぐちょぐちょに濡れていた。


 宿代は先払いだったので、先に準備を済ませて宿を出る。一人考え事をしたかったからだが、日の出前だというのに通りにはちらほらと人気がある。

 魔法があるとはいえ、通電はしてないのだ。明るい内が活動時間で、うっすらと青い薄明の時間から、町は目覚めはじめるのだろう。


 道脇に座って物思いに耽る。

 男なら誰しも憧れる能力を得たものの、本能のままに使おうという気はあまり起きない。

 ハルモニアもリムルも、本来の彼女らの性格は、俺を好きになるなんてことは微塵もなくて、その性質を捻じ曲げて俺を好きにさせる。

 それってハルモニアもリムルも、ハルモニアとリムルじゃないってことなんじゃないだろうか。

 頭がこんがらがってくるが、本来の人格とは違う人格に書き換えるのと同じこと。姿や記憶は同じでも、彼女らは既に違う人間なのでは?


「……あー、訳わかんなくなってきた。魅了の解除方法も不明だし、とにかくこの能力は極力使わないようにしよう」


 暫くするとハルモニアとリムルが宿を出て来て、涙ぐみながら身を寄せる。


「もう! 一人でどこかに行っちゃったかと思いましたぁ」

「お前がいなければ生きていけない。頼むから勝手にどこかに行かないでくれ」


 俺には俺のプライベートがあるし、俺の好きなように人生を生きたい。

 でも彼女らの自由であるべき”好き”を奪ったのは俺の力で、ならば彼女らの言うことを少しでも叶えるのが、この力を扱う上での責任なのかもしれない。


「ごめんごめん。じゃ、行こうか」

「はい!」

「ああ!」

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