口姦スカトロジー
ここまで追い詰められているのに、カーラはなお変身を躊躇った。
目的は勝って敵を倒すことではなく、負けてでも、あまつ死んでさえも俺を守ることだから。
「ふふ、それは脅しのつもりかなぁ?」
今この密閉された空間では危険なのか、はたまた館を超えてどこまでが脅威なのか。分からないが、ただ一つ言えることは、カーラはハッタリを利かすようなタイプではないということだ。
「けれど私のレベルを超える魔物はラグナの他にいはしないよ。仮に変身したところで結果は同じさ」
「おるじゃろうが」
カーラの返答に瞬間の間を挟み、スカーの嘲る笑みは呆れ笑いへと移り変わる。
「先代魔王とでも言いたい訳? 遠い昔、ラグナがこの世界に突然現れて、同じく先代は突然いなくなった。世界を呑み込むと比喩された先代が、身を隠す場所もないだろうに。つまりはラグナとの覇権争いに敗れたんだよ」
「……恋心も知らぬ癖に、知った風な口を利くでない」
カーラの反論にスカーの蔦が首を巻き、肉に食い込むほどに締め上げる。
「神々の審判が誤りだと下しても、強い方の言い分が全て正しい。え? そうだろ? ワルキューレ・アナテマのカーラよ」
「……無知の極みぞ……愛が足らんな……」
飄々としていたスカーに怒りの様相が垣間見える。
彼? 彼女? 例え性別がなくとも、スカーに人格があるのなら……
「なぜスカーはワルキューレ・アナテマを!? 同士討ちじゃないか!」
スカーの緑眼が俺に向く。
鼻で笑ってみせるが、その目は明らかに怒りを湛えている。
「同士討ち? 君、本当にそんなことを言ってるのか?」
「だって、同じ魔王に仕えた者同士……」
「愛人なんだよ? ワルキューレ・アナテマは」
そ、そうだ。そうじゃないか。
例え魔王に仕える者たちでも、それが愛人の関係ならば、横の繋がりは存在しない。それは今の俺に付いて来る仲間と、まるきり同じものだ。
「私はねぇ、ラグナの女だった奴らは許さないよ。当然、私を捨てたラグナはもっと許さない。だからね、ワルキューレ・アナテマを取り込むんだよ」
「嫉妬……スカーの行動原理は、妬みに満ち満ちている」
「私はラグナを超えてみせるんだよ。ラグナ以上のハーレムを作り上げ、強さも欲望も、そして残忍さも。全てに於いて、いずれラグナを上回る」
体で十字を切るスカーの眼差しは、虚空を見上げ遥か遠くを見ているよう。
けれどその目は未来でなく、過去に向いているような気がするのは俺だけだろうか。
「上回り……それで……ラグナに振り向いて欲しいとな」
「は?」
「とんだ構ってちゃんじゃ」
巻いた蔓をぐんと引き寄せ、鬼気迫るスカーはカーラに顔を寄せた。
「てめぇ……もう許さないよ。人格は残したままに地獄の苦しみを味わわせてやる。体の自由は奪うが、感覚だけは残しておいてやる」
透いた表面にうっすらと緑色が浮かぶスカーの葉皮。葉の真ん中に一本入る、中肋のように通る鼻筋。
その下に窄んだ口が、まるで花咲くように大きく開くと、口腔の奥から粘膜の貼った、生々しい管を覗かせる。
「これは排種管といってね、私の口づけが奴隷の誓いとなるんだよ。君の口腔を無理やり犯し、喉を凌辱して屈服させるんだ」
「口の初体験がイラマチオとはのぉ。わらわ上手くできるかどうか……」
「そういう生意気を黙らせるのが、口姦の醍醐味さ!」
キスなどと淫靡なものではなく、まるでエイリアンかミュータントか。
貪るように唇を奪うと、排種管なるものが侵食し、カーラの喉は目に見えて膨れ上がる。
「おえ……」
「んー♪ イイ! とてもイイよ! この支配感がたまらない! 唾液の粘りと胃液の苦み、そして吐瀉のエグみ! 君の口膣……とっても淫乱だぁぁぁ……」
き、気持ち悪い……
見た目のエグさも相当だが、何よりその思考が気持ち悪い。
涙を浮かべるカーラを見ると切ないが、これはあくまで生理現象。決して屈服した訳ではなく、切れる眼は依然敵意を燃やしている。
だがその敵意も、オルルのように体の自由が奪われてしまったら……
「カーラが操られたら勝ち目はないよ! やっぱりハルモニアも共に戦ってくれ!」
「その隙にネクロさんを奪われれば、それが私たちの負けなんです。部屋はスカーの体で覆われています」
「でもこのままじゃ……」
「癪ですが、本当に本当にムカつきますが。ドールがここに来ることを祈りましょう。ラーズに打ち勝ち、彼女がこの部屋に辿り着けたなら、あとは分かりますよね?」
「それは……帰還――」
続く言葉を言い掛けて、ハルモニアの白指が口に押し当てられる。
「スカーはそのことを知りません。知ればドールの侵入を阻むでしょう。今なら向こうさんから招き入れる可能性だってあるのです。なんとかそれまで耐えましょう」
「うう……カーラ、なんとか持ち堪えてくれ」
「持ち堪えるのはスカーの方ですかね。あの淫らな管が、早漏じゃないことを祈りましょう」




