不可解ララバイ
船旅も進み、見渡す限りを水平線が囲む絶海まで訪れるが、今は夜天の色と混じって境が朧げだ。
船首を垂直に結んで正面には、月に似た一際大きな星が煌めいて、海面を照らす銀波の架け橋を滑るように船は進む。
マルメア国を発ってからというもの、船の中はギスギスしてた。
元から仲良しという訳ではないが、それでも彼女らはこれまでに、互いに会話の一つ二つは交わしていた。
けれど今はそれが皆無。特にハルモニアとドールの間には見えない壁が張られているよう。
そんな空気に耐え兼ねて、今は一人きりで海を眺める。
そうさせてくれと頼んだのだが、甲板で寝そべるリーヴァはそれを知らない。
「寝れねぇのか?」
「部屋に居づらくってさ」
「子守唄、歌ってやるよ」
リーヴァの口ずさむ唄はどこか懐かしい、故郷を思わせる異国の民謡。
「ケルティックっていうのかな? とてもいい歌声だね。だけど外で寝たら風邪引いちゃうな」
「そしたらあたしの翼で温めてやるさ」
俺には限りない優しさを見せてくれるリーヴァだが、今は穏やかに見えても彼女はエイルを喰い殺した。
野生に生きる以上、何かを食べなければならない点だけは理解しなければならないが……
「ねぇ、リーヴァ」
「ん? どうした?」
「人を殺すってどんな気持ち?」
身も心もなだらかだったリーヴァに緊張が走る。
答え辛いだろうことは容易に想像付くが、それでも大きな眼を真正面からじっと見つめる。
「わ、分からねぇよ……なんて言ったらいいか分からねぇ……」
「それは、殺す感覚が分からないってこと?」
「……うう」
少し意地悪な質問をしてしまった。
リーヴァの言う分からないは、俺の好む答えが分からない――だ。
「なんとも思わない、だろ?」
「それは……」
「責めてる訳じゃないよ。きっとカーラもミストもオルルも、そしてハルモニアも何も感じはしないはず。そもそも彼女らにとって人間は同種じゃないしね、比較するのはおかしいのかもしれない。けれどドールはどうなのかな?」
「今朝のことか……」
港で起きたあの事件。
遠目に見た落雷で、恐らくきっと、あの場の者は全て死んだ。
ヴラーヴの兵はもちろん、王も王子も、セルフィも。
「今となっちゃよく分かんねぇけど、あたしも同種を大切にしてたって記憶してる。ネクロと初めて会った時だって、仲間がやられて悔しいと思っていた気がする」
「そう……だよね」
あの場の人間を皆殺しにしたドール。果たして何の為に?
ハルモニアやリーヴァは残酷だが、それでも心中は推測できる。恨み妬みや俺の為、動機も明確だ。
ドールは彼女らと違うのだろうか。
魅了の術の中で、一体何を考えているのだろう。
「何か悩んでるみてぇだが、答えは意外とシンプルだったりしてな」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」
俺の目的はリムルとの再会。だけど、その後は一体どうなるのかな。
好きを知らなかった俺が、人を好きになることの答えを、この旅で見つけることができればいいな。




