表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/65

ほのぼの回に似た何か

 やはり、ドールの挙動は些か気掛かりなとこがある。

 彼女らは絶対的に俺の味方だが、横の繋がりは皆無に等しい。

 ドールが何か企てているのだとしたら、注意深く観察しておく必要がありそうだ。


「今度は逆に、ミストに聞きたいことがあるんだけど」


 ぴくりと耳を動かすと、前のめりに顔を寄せるミスト。

 当然、重力は上から下へ働くのだから、満杯の水風船は重みに任せてぷるぷる……いや、ばるんばるんと跳ね回る。


「ぱぁい! なぁんでも聞いてぇん! ミストのバストは――」

「聞いてないから!」

「いやん、ツッこまれちゃったぁん」


 会話も十分いかがわしいが、なにより紐。これだけの巨峰を吊るすものが、頼りなげな紐に過ぎないんだ。

 大事なとこだけ絶妙に隠して、あとは柔肌が露出する。網に包まれるスイカやメロンの方がよほど清楚だ。

 カーラにしろリーヴァにしろ、ワルキューレ・アナテマの選別には魔王の趣味が伺える。


「あのさ、そうじゃなくってね? 他のワルキューレ・アナテマの居場所を知ってたら教えて欲しいの!」

「先走っちゃったぁ……先走り……カウ」

「いいから!」


 舌先をちろりと出して、テヘペロとでも言いたいのか。

 そろそろ癇に障るが、こめかみに指を立てると、念じるように目を瞑りはじめるミスト。

 思い出す仕種にも見えるが、何やら念を発してるようにも見える。

 仮に探知能力的なものを持っていれば非常に助かるのだが……


「うん! 分かんなぁい!」

「今の仕種に何の意味が!?」

「考えてる風にした方が知的かなぁってぇ」

「その発言で台無しだよ!」


 頭をこつんと小突くところまではあざといが、ようやく姿勢を正したミストは真面目な面持ちに切り替わった。


「分からないのはホントだけどぉ、分かることだってあるのよぉ?」

「もったいぶりおって、早く言わんか、露出デブ」

「カーラったらひどぉい! デブじゃないしぃぃぃ」

「…………」

「……ごほん。分かるというのはぁ、今この大陸、レミニセン大陸にはワルキューレ・アナテマはもういないってことぉ」


 ミストの言うことが本当ならば、大陸を出なくては駄目ということになるが……


「おいデブ、なんでレミニセン大陸にはいねぇって分かるんだよ」

「リーヴァまで……もういっかぁ。私って夢魔でしょぉ? 男から精気や魔力を頂くんだけどぉ、人ひとりの力なんてぇ、たかが知れてるのぉ。だからねぇ……」

「もういい、分かったっつーの。つまり男を漁り大陸を巡りがてら、その目で存在を確認したってことだろ? 喋るの遅ぇんだよ」

「もぉぉう! ぷんぷぅん!」


 頬をぱんぱんに膨らませる仕種にあどけない怒りを感じるが、ちらちらと俺に視線を送るところを見るに、恐らく絶対パフォーマンスだ。


「あのさ、カーラにリーヴァ。ワルキューレ・アナテマについて今さらなことを聞いていいかな?」

「無論じゃ」

「どんとこい!」

「あれれぇ? ミストの名前が入ってないのおかしくない?」

「魔王ってさ、身内のことを教えてくれないの?」


 途端に無言になると、見合わせる三匹の魔物。

 何やら不穏な雰囲気に思えたが、彼女ら顔に次第に赤みが差してくる。


「ネクロ殿を裏切る訳じゃないんだがの……」

「なんつーか、言い辛れーっつうか……」

「そっか、言いたくないなら――」

「愛人よぉぉぉ」


 ミストの発言にばっと首を向けるカーラとリーヴァ。


「これまでずっともったいぶっておるからに、何故こういうことはポロっとあっさり言ってしまうのじゃぁぁぁ」

「ネクロが失望したらよぉ……どーしてくれんだテメェ!」

「え…………あっ! 今の無し!」


 怒るリーヴァに頭を抱えるカーラ。ミストはあたふたと騒ぎはじめる。


「別に気にしないよ。過去のことなんて。俺が言えた柄じゃないしね……」

「ネクロちゃん……あの夢は……」


 ふと漏れ出た言葉だったが、そういえばミストは俺の過去を、学生時代の悪夢を見たんだったな。


「同情しないでくれ……」

「なんだか変わった建物や服装だったわねぇ」

「そっちかよ!」


 俺の激しいツッコミに、ミストは慎ましく笑みを浮かべ、なんだかんだ言っても、やはり彼女は人生経験豊富なお姉さんなんだなと改めた。


「ほほほ、ミストは間抜けな奴じゃ!」

「あっはっは! ミストのミスはミステイクのミスかよ!」

「……全然面白くない」

「滑りましたね」

「滑リーヴァ」

「おもろいですわ!」

「ぐぬぬ……笑うなよ! あっ! ネクロも笑ったな!?」


 廊下から覗くリーヴァがむくれると、頬に押されて扉が外れた。

 それがまた面白くて、涙が出るほど笑い転げた。

 学生の頃には味わえなかった、わちゃわちゃとした下らない身内のネタ。


 ミストだけじゃない、みんな俺を気遣うお姉さんだ。

 俺はそんな優しい姉さんたちを、これからは利用していかねばならず、笑い涙に紛れて悲しみをこっそり混ぜた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ