どエロ女騎士
「ほらぁ、しっかりしてくださぁい!」
「うぅん……」
「頭撫でます? 背中擦ります? それとも――ア・ソ・コ?」
「うっ!」
「いやん、まだ触ってないですよぉ」
高所の恐怖から目覚めて、ハルモニアの柔らかい膝枕から上体を起こすと、目の前に広がる景色は石造りの家に石畳という古風な街並みだった。
「なんだかファンタジーって感じ」
「あぁ……詩的で素敵な所感です」
そう? 小学生並みの感想だと思うけど。
「町に来れたのはいいけど、どうしようか。金は持ってないし、ハルモニアは?」
「一文無しですぅ」
「だよね……困ったな」
「私が稼いできますよぉ」
「ほんとに!? どうやって?」
薄布をはだけるハルモニアの、ただえさえ露出の高い肌がより一層露わになる。
「カ・ラ・ダ・で」
「おい!」
「なぁんて、嘘ですよぉ。でも怒鳴ってくれて嬉しいです。私の体は頭のてっぺんから、おっきな乳房を経由して足先まで、余すとこなくネクロさんのものですから」
淫靡な肢体に色気の宿る上目遣い。
思わず生唾を呑み込んだ。
「じゃあ、その辺のクズ共から金をぶんどってきますねぇ」
「ちょ……それはそれで――って、行っちゃったよ」
一息吐いて肩を撫で下ろす。
てんやわんやの転生だったが、ようやく少し落ち着ける。
そう思ったのだが……改めて周囲を見渡してみて、知らない町に一人取り残されるこの状況。
治安もどうだか分からない世界にただ一人、次第に鼓動が昂ってくる。
「ハ、ハルモニア……早く戻って来てくれないかな」
すると突然、背中に強い衝撃がぶつかって一歩前に踏み出した。
俺はてっきりハルモニアが戻ってきたのだと思い、安堵の笑みが零れるが、振り返ると同時に笑みは凍り付く。
目の前には分厚い胸板が待っていて、恐る恐る顔を見上げると――
「兄ちゃんよ、道の真ん中で突っ立ってんじゃねぇよ」
ごりっごりのゴリマッチョ。
男は鎧を身に着けて、腰にはでかい剣を差している。
「すすす、すみません!」
「あー……腕が痛ぇな。骨が折れちまったかもしんねぇ。今すぐ慰謝料よこせ」
おいおい、そのがたいで骨が折れたはないだろう。
殴ったバットの方が折れそうな体をしてる癖に。
「あの……お金持ってません」
「ああ!? 聞こえねぇよ!」
恐ろしい剣幕で凄まれて、体は小刻みに震えはじめる。
誰かに助けて欲しいと希い、しきりに辺りを見渡してみるも、過ぎ行く人々は知らん顔で我関せず。
そりゃあそうだ。俺だって目撃した立場なら、助ける勇気など湧かないだろう。
「見逃してください……」
「本当に金持ってねぇのかよ!? くそが……イラついてきた。代わりにその情けねぇ面をボコボコにしてやるぜ」
やばい……俺のHPはたったの10。
手加減してくれたとしても、下手したら殺されてしまう。
おまけにこいつは男で、頼みのスキルも通用しない。
何か、何か助かる方法は――
「オラァ、歯ぁ食いしばれぇえええ!」
「た、た、助けてぇえええ! そこの女性!」
とにかく誰でもいい、目に付いた銀色のショートヘアの背に向けて、無我夢中で助けを求めた。
その者は鎧を着ているが、しかし鎧として機能するかも分からない、破廉恥なビキニのようなアーマーを着る女。
魅了された女は鋭い目付きを男に飛ばすと、咆哮を上げて腰の剣を抜き取った。
「貴様ぁあああ! この私が成敗してくれるぅううう!」
体格的には男が有利に見える。
だが脅し程度で済ます者と、真の殺気を滾らせて向かう者。勝負の結果は見るまでもなかった。
横一閃、男の鎧は女の薙ぎ払いで真っ二つに割れる。
血の気の引く男の頭上に容赦なく剣を掲げる女、そこで俺は咄嗟に動いて、女の生足にしがみついた。
「ストーップ! ストップストップ落ち着いて! あんたは早く逃げて!」
「ひぃぃぃ」
殺す気まんまんの女の気迫を前に、大男は慌ててその場を去って行った。
「ふう……助かった」
「おい、いつまで足にしがみついているつもりだ」
「あ……すみません。すぐ離れますんで」
「抱き着くなら背に腕を回してくれ」
そっちかよ。
「それより怪我はなかったか?」
「おかげさまで無傷です。有難うございます」
「いや、分からんぞ。気付かないところで体を痛めているかもしれん」
「でもとりあえず今のところは――」
「いいから、見せるんだ」
女は屈んで目線を合わせると、俺の服を掴んで捲り上げる。
こっ恥ずかしいので抵抗するが、女の力は凄まじく、あっけなく上裸にされた。
「勘弁してください……」
「ふむ、上体は大丈夫なようだな――上体”は”」
「まさか……」
「見せてみろ」
女の手が上から下へ。
しかしそこだけは俺の聖域。手足をもがいて決死の抵抗を試みることに。
「なぜ見せん! やはり痛むではないのか!?」
「確かに痛いけど……そういう痛みじゃないんだってば」
「ちょっと待て……あっ! やっぱり服の上からでもギンギンに腫れてるじゃないか! すぐさま治療が必要だ! 宿に行くぞ。膿をたっぷり搾り出さねば!」
「やめてぇえええ!」
矢継ぎ早にまくし立て、そして治療と言いつつ病院ではなく、なぜか宿に連れて行こうとする女騎士。
しなやかな肢体に整った顔立ち。ハルモニアと違って美人系だが、今は目が血走ってて恐ろしい。
「コラァアアアアアア!」
大絶叫が轟く方には、戻って来たハルモニアが肩で息をしていた。
「あんた……どこの誰ですかぁ?」
「他人に聞く前に名乗ったらどうだ」
「ハルモニア! で、お前はどこのどいつだぁあああ!」
俺の大事なところから手を離すと、立ち上がる女はすらりとした長身からハルモニアを見下ろす。
「騎士のリムルだ。この人が輩に襲われていてな、それを助けたんだ」
「助けた? あなたが襲っているようにしか見えませんでしたが」
「治療だよ。これから介抱しようと思ってな。酷く腫れてるんだ。注射をしなければならない。といっても、刺されるのは私の方だが」
恐ろしい睨み合いだが、会話は馬鹿げてて笑えてくる。
「お付き合いもなしにお突き合いをしようなどと、神が許しても天使のハルモニアが許しません!」
「馬鹿め。突き合いなどするか。私が突かれて敗北するのみだ」
惚れた相手以外にはサディストなハルモニアと、お堅い口調の割にどエロな女騎士のリムルとの間に、激しい視線の火花が散る。
このままでは殺し合いに発展しかねない。なんとか俺が宥めすかして場は集束するものの、結局どちらも退かないまま。
「ではネクロ、私も旅に同伴しよう」
「あなたは来なくていいです」
「だったらお前が消えろ」
「何を~~!?」
最終的には結束も信頼も存在しない、歪な愛だけで繋がる特殊な三人パーティを組む羽目になったのだった。