禁断のスペルマギア
「ちょっとふざけてないで、一体どうしたらいいのよ」
「一か八か、待ってみるしかないでしょうね。王子を侵しているのが夢魔であり、そして実体を見せて現れてくれる偶然を」
「ば、博打が過ぎるわ! それで失敗なんかしてしまったら……」
「当然死にますね。見た感じ王子に残る気力はあと僅か。魔力と精気の両方を根こそぎ吸い取られておしまいです」
あっさりと言い切るハルモニア、未練に喘ぐセルフィ。
俺はこの世界のことを学んでいる最中で、ぶっちゃけ詳しいところはよく知らず、的確な助言はできない。
けれど前の世界の知識な知っていて、口にすることも憚れるけど、しかし王子の命が懸かってる。
頭にぽっと浮かんだ一つの事柄を、勇気を出して言ってみよう。
「あのさ……」
「はいはい! なんですかネクロさん!」
「何かな何かな!?」
呼び声は僅かな声量だったが、俺の言葉に限っては地獄耳さながらの聴覚を見せるつける仲間たち。
「えぇと……王子の枕元に牛乳を置いてみたらどうだろう」
「牛乳……ですか?」
「はて、ネクロ殿。牛乳とな?」
ここまではいい。
問題はこの後だ。
もしこの先の理由を問われてしまったら。
「ネクロくん、なんで牛乳なの?」
ですよねー。
「あの、その……夢魔というかサキュバスの話なんだけど。彼女らは牛乳が好きだから、枕元に置いておくと持って帰るって聞いたことがあるんだ。持ち帰るからには実体化しなきゃいけないだろ? そこを狙うことができるかなって……」
頼む、これで納得してくれ。
ここが最後のボーダーラインで――
「なぁなぁネクロ、なんでサキュバスは牛乳が好きなんだよ」
ですよねー。
「せ、せーし……」
疑問の面持ちから一変。
皆の耳がぴくりと動くと、これまでにない真剣な表情が俺に迫る。
「精子に……似てるから……」
部屋の中を張り詰めた無音が包む。
彼女らは真顔のままだが、頬を汗が伝い顎から滴り落ちると、ごくりと喉が鳴り動く。
「うっひょおおお!」
「いやぁあああん!」
「ネクロ殿のお口から!」
「禁断の呪文!」
「スペル〇ギアの言葉を聞けるなんてぇえええ!」
脳内麻薬が多量に分泌されているのだろうか、発狂する彼女らの瞳孔は完全にイッてしまっている。
「せーし♪ せーし♪ ネクロのせーし♪」
「飲みたぁい!」
「塗りたぁい!」
「孕みたぁい!」
意味不明な歌を口にし踊り狂う女たち。
まさに狂喜乱舞という言葉がお似合いだ。
「でもでもぉ、せっかくのおせーしをサキュバスにあげるなんて駄目ですぅ!」
「だから牛乳で代わりに……」
「いや、待つのじゃ! あげるも何もその前に……」
「嫌な予感が……」
「搾り出す必要があるんじゃねぇか?」
「いやだから牛乳で……」
踊りがぴたりと静止する。
皆の頭だけがぐにゃりと不自然に俺へ向く。
「牛乳……」
「作戦決行ぉおおお! ネクロさんが言いだしたことなんです! 公式の許可が下りましたぁあああ!」
「ドォオオオルが搾るんだぁあああ!」
「メスガキは引っ込んでるといいですわぁ!」
「ネクロ殿が搾れというのなら搾らざる負えぬわぁあああ!」
度を逸した熱意に慌てて後ろに飛び退くが、背後にはバキバキと壁を打ち破る音が待っていた。
「あたしだぁあああ! 口でも穴でも胸でもなんでも好きに使えぇえええい!」
し、死ぬ……死んでまう。
サキュバスを超える性欲の化物共に、全てを搾られて死んでまう!
「だから牛乳なんだってぇえええ!」
「乳牛プレイがお好みですかぁあああ!? 心得ましたぁあああ!」
「搾られる前に搾りたいとは世の道理ぞ! わらわの乳を搾るがよぉおおおい!」
「ドールの小さいお乳をスペ〇マギアで育成してぇえええ!」
「イメプレもできますわぁ! モォオオオモォオオオですわぁあああ!」
「牛なんて貧乳種じゃなくてよぉ! あたしの極乳にぶちまけてくれぇえええ!」
もう駄目だ……まるで話が通じない。
こうなれば残された手段はたったの一つ!
風呂場に乱入された俺がブラックアウトしたように、彼女らの多感過ぎる感受性を利用するしか生き残る術はない!
「これを見るんだぁあああ!」
ぼろん。
「…………ぶはっ!!!」×5
言葉だけでトリップする女たちなのだ。
実物を前にして、オーバーヒートした意識を保てずに次々と卒倒する。
俺はというと安堵に力が抜けて腰を落とし、ふと脇を見上げてみると、酷く冷たい目をしたセルフィが、顰め面で見下ろしていた。




