海辺の国に嫁いだ悪役令嬢は王子に溺愛されてうんたらかんたら……
一同が見守る中、前に出た俺は王から報酬の金を受け取った。
本来はギルドを介在しての支払いとなるはずだが、仲介の煩わしさと、依頼主不在による支払い拒否を鑑みて、この場で直接支払わせる。
仲介料を省く行為は、本来ならば罰則か追報レベルの違反だが、そもそもギルドに登録していない上に、今後も頼るつもりはない。もっと言ってしまえば、エイルとオルル以外は身元すらも割れていない。
法外な取引の中で、仲間たちが要求する金額は国を滅ぼすとんでもない金額だったが、依頼書の額面通りの金額だけで良いと、俺の一言で収まった。
「ほんとネクロ様は謙虚で素晴らしいですわ!」
「プレイはあんなに激しいというのにのぉ」
「やめてよカーラ。やったことないでしょ」
ほれほれと、安産型の尻を振るカーラ。
ならばとリーヴァは背後から、巨体ゆえの太指でカーラの尻穴に浣腸をかます。
「うひぃいいい!」
「拡張♪ 拡張♪」
ああ、南無三。
暫くカーラの尻はゆるゆるだろう。
「ネクロの初めてはあたしが貰うんだ~♪」
ご機嫌なリーヴァは悪戯に笑い、白い歯を俺に覗かせる。
その尖った鋭い歯に、口端に残る赤い血液。
無邪気な彼女の胃袋には、いまだエイルの屍があると思うと笑えない。
「中に入れてください!」
普段が普段なので、思わずそっちの意味を思ってしまったが、その声は大広間の外から響く俺の知らない声だった。
「し、しかし……危険では……」
「何はともあれ、国は救われたのですよ! 面と向かわねば失礼です!」
兵の抑止を振り切って、大広間に現れた一人の女性。
その者は桜色のドレスを身に纏い、栗色の髪を上品に結い上げる、一際華やかな姫だった。
「ひっ……」
「セルフィ……ここに来てはならぬ」
俺の仲間たちは楽し気な空気を作っているが、事実は潰れたセイレーンに塗れる血の海と化した大広間を目にして、セルフィの顔は強張った。
仲間たちは特殊として、普通の女性には厳しい光景だ。
しかしぐっと息を呑み込むと、セルフィは一歩前に踏み出した。
「ですがヴラーヴ王。私は王子に嫁いだ姫なのです。国の窮地を救った者に対して、直々に礼を言わねば失礼に当たると考えます」
凛とした態度に、意志の強い吊り気味の眦。
これがハルトが生前に言っていたこの国の姫。
美しい、確かに美しいが、なにやら少しだけ、きつそうな感じを思わせる。
「あなたが国を救った者ですか?」
「ええと……そういうことになるのかな。この通り、リーヴァは生きてるけど」
にたにたと嫌らしくセルフィを見下すリーヴァ。
セルフィは鋭い視線をリーヴァに向けるが、すぐに俺の方へと向き直した。
「脅威を取り除いてくれたことに変わりはありません」
「すぐに国からは出て行くからさ。これからは安心して――」
「もう少しだけ留まって頂けませんか?」
思わぬセルフィの提案に、王は玉座から飛び上がった。
「セルフィ! 何を世迷言を!」
「私は正気でございます。この国にはまだ一つ問題があるはずです」
「お、王子のことか……」
王子?
そういえばこの場には、護衛や重鎮らしき年配の男はいるけれど、王子というに相応しい高貴で若い男の姿が見えない。
「彼らの力ならば、なんとかできるのではないでしょうか。謎の病に伏したイェネオス王子を、救うことができるのではないでしょうか」
「それは……そうかもしれぬが」
恐る恐るこちらに目を送るヴラーヴ王。
なるべく早く俺たちとの関わりを断ちたい気持ちが、ありありと表情に現れている。
「お言葉ですけど、ネクロさんにそんな暇はないんですからぁ」
「そんなことを仰られずに……って……」
切れ長の目は見開かれ、クールにも見えたセルフィの顔は驚愕に歪んだ。
「あ、あんたは……ハルモニアァアアアアアア!?」
「ふえ?」
「忘れたとは言わせないわ! これを見なさい!」
結った髪を解くとセルフィの印象ががらりと変わる。
美しいことには違いないが、ちょっとだけ素朴になったというか。
「ん? あっ! あんたは……もしかしてセイラ!?」
「そうよ! ようやく思い出したようね、クソ女!」
どうやら知り合いのようだが、ハルモニアの知るこの世界の人間。
つまりそれは、セルフィは転生者だということ。
「とんだ駄作でしたが、まだ生きていたんですね」
「ぐぬぬ……駄作にしたのはあんたでしょうが」
セルフィの怒り、俺もすごく共感できる。
今は俺を慕うハルモニアだが、本来の性質はこちらが正解だ。
「セルフィ……お前は何を言って――」
「うるせぇ……で、ございますわ……おほほほほほ……」
王の問い掛けにぎこちない笑みで誤魔化すセルフィは、力強くハルモニアの腕を引く。
「高貴な私の身に触れないでください」
「いいから、ちょっとこっちに来なさい!」
「ネクロさんの傍を離れるなんて――」
「話を聞こう、ハルモニア。俺も行くよ」
「やっぱり行っきまぁす!」
盛大な掌返しにあっけらかんとするセルフィの手を、ハルモニアが引き返すことで大広間の出口に向かう。
そして俺が後に続けば、当然仲間たちも付いて来る。
「セルフィ! おぬしら! 何処へ行くつもりじゃ!」
「うるさいですわ!」
「ドールに命令しないでよ!」
「うだうだ抜かしてっと……」
「口を引き裂いてやるぞ!」
「…………」
城内の者たちは静まり返り恐縮し、そして彼女らの方が城主であるように、大広間を我が物顔で後にした。




