表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/65

海辺の国に嫁いだ悪役令嬢は王子に溺愛されてうんたらかんたら……

 一同が見守る中、前に出た俺は王から報酬の金を受け取った。

 本来はギルドを介在しての支払いとなるはずだが、仲介の煩わしさと、依頼主不在による支払い拒否を鑑みて、この場で直接支払わせる。

 仲介料を省く行為は、本来ならば罰則か追報レベルの違反だが、そもそもギルドに登録していない上に、今後も頼るつもりはない。もっと言ってしまえば、エイルとオルル以外は身元すらも割れていない。

 法外な取引の中で、仲間たちが要求する金額は国を滅ぼすとんでもない金額だったが、依頼書の額面通りの金額だけで良いと、俺の一言で収まった。


「ほんとネクロ様は謙虚で素晴らしいですわ!」

「プレイはあんなに激しいというのにのぉ」

「やめてよカーラ。やったことないでしょ」


 ほれほれと、安産型の尻を振るカーラ。

 ならばとリーヴァは背後から、巨体ゆえの太指でカーラの尻穴に浣腸をかます。


「うひぃいいい!」

「拡張♪ 拡張♪」


 ああ、南無三。

 暫くカーラの尻はゆるゆるだろう。


「ネクロの初めてはあたしが貰うんだ~♪」


 ご機嫌なリーヴァは悪戯に笑い、白い歯を俺に覗かせる。

 その尖った鋭い歯に、口端に残る赤い血液。

 無邪気な彼女の胃袋には、いまだエイルの屍があると思うと笑えない。


「中に入れてください!」


 普段が普段なので、思わずそっちの意味を思ってしまったが、その声は大広間の外から響く俺の知らない声だった。


「し、しかし……危険では……」

「何はともあれ、国は救われたのですよ! 面と向かわねば失礼です!」


 兵の抑止を振り切って、大広間に現れた一人の女性。

 その者は桜色のドレスを身に纏い、栗色の髪を上品に結い上げる、一際華やかな姫だった。


「ひっ……」

「セルフィ……ここに来てはならぬ」


 俺の仲間たちは楽し気な空気を作っているが、事実は潰れたセイレーンに塗れる血の海と化した大広間を目にして、セルフィの顔は強張った。

 仲間たちは特殊として、普通の女性には厳しい光景だ。

 しかしぐっと息を呑み込むと、セルフィは一歩前に踏み出した。


「ですがヴラーヴ王。私は王子に嫁いだ姫なのです。国の窮地を救った者に対して、直々に礼を言わねば失礼に当たると考えます」


 凛とした態度に、意志の強い吊り気味の眦。

 これがハルトが生前に言っていたこの国の姫。

 美しい、確かに美しいが、なにやら少しだけ、きつそうな感じを思わせる。


「あなたが国を救った者ですか?」

「ええと……そういうことになるのかな。この通り、リーヴァは生きてるけど」


 にたにたと嫌らしくセルフィを見下すリーヴァ。

 セルフィは鋭い視線をリーヴァに向けるが、すぐに俺の方へと向き直した。


「脅威を取り除いてくれたことに変わりはありません」

「すぐに国からは出て行くからさ。これからは安心して――」

「もう少しだけ留まって頂けませんか?」


 思わぬセルフィの提案に、王は玉座から飛び上がった。


「セルフィ! 何を世迷言を!」

「私は正気でございます。この国にはまだ一つ問題があるはずです」

「お、王子のことか……」


 王子?

 そういえばこの場には、護衛や重鎮らしき年配の男はいるけれど、王子というに相応しい高貴で若い男の姿が見えない。


「彼らの力ならば、なんとかできるのではないでしょうか。謎の病に伏したイェネオス王子を、救うことができるのではないでしょうか」

「それは……そうかもしれぬが」


 恐る恐るこちらに目を送るヴラーヴ王。

 なるべく早く俺たちとの関わりを断ちたい気持ちが、ありありと表情に現れている。


「お言葉ですけど、ネクロさんにそんな暇はないんですからぁ」

「そんなことを仰られずに……って……」


 切れ長の目は見開かれ、クールにも見えたセルフィの顔は驚愕に歪んだ。


「あ、あんたは……ハルモニアァアアアアアア!?」

「ふえ?」

「忘れたとは言わせないわ! これを見なさい!」


 結った髪を解くとセルフィの印象ががらりと変わる。

 美しいことには違いないが、ちょっとだけ素朴になったというか。


「ん? あっ! あんたは……もしかしてセイラ!?」

「そうよ! ようやく思い出したようね、クソ女!」


 どうやら知り合いのようだが、ハルモニアの知るこの世界の人間。

 つまりそれは、セルフィは転生者だということ。


「とんだ駄作でしたが、まだ生きていたんですね」

「ぐぬぬ……駄作にしたのはあんたでしょうが」


 セルフィの怒り、俺もすごく共感できる。

 今は俺を慕うハルモニアだが、本来の性質はこちらが正解だ。


「セルフィ……お前は何を言って――」

「うるせぇ……で、ございますわ……おほほほほほ……」


 王の問い掛けにぎこちない笑みで誤魔化すセルフィは、力強くハルモニアの腕を引く。


「高貴な私の身に触れないでください」

「いいから、ちょっとこっちに来なさい!」

「ネクロさんの傍を離れるなんて――」

「話を聞こう、ハルモニア。俺も行くよ」

「やっぱり行っきまぁす!」


 盛大な掌返しにあっけらかんとするセルフィの手を、ハルモニアが引き返すことで大広間の出口に向かう。

 そして俺が後に続けば、当然仲間たちも付いて来る。


「セルフィ! おぬしら! 何処へ行くつもりじゃ!」

「うるさいですわ!」

「ドールに命令しないでよ!」

「うだうだ抜かしてっと……」

「口を引き裂いてやるぞ!」

「…………」


 城内の者たちは静まり返り恐縮し、そして彼女らの方が城主であるように、大広間を我が物顔で後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ