元気100倍! 活力魔法バイアグラー
礼拝堂で祈りを捧げるエイル。
俺も合わせて祈ってみるも、作法も分からないので横目でちらりとエイルを覗く。
両手を合わせるエイルの仕種は誰にでもできそうで、でも俺がやるとぎこちなくて、聖女というに相応しき妙なる神聖を帯びていた。
色々と揉めるのは煩わしいので、礼拝堂からは別々に外へ出ることにした。
城外に出たところで、いの一番にドールが俺の胸に駆けて飛び込んでくる。
「どこ行ってたのぉおおお! 心配したよぉ!」
「ごめんごめん、ちょっとお城の探検してたんだ」
「……本当にぃ?」
「ああ、本当――」
ドールの榛色の瞳はまるで地球そのもので、美しいながらも底が知れないほどに奥深い。
真偽を見透かすような色合いだが、俺は嘘など言ってない。
「わらわ心配で心配で、危うく兵たち全てを尋問に掛けるとこじゃった」
「おいおい……」
「王もろともしばき上げるとこでしたわ」
「ちょ……」
「つまり国を滅ぼす間際でした」
「少しいなかったくらいで大袈裟だよ!」
慌てるくらいは想像してたけどさ、だけど彼女らの言うことは冗談のようでいつも本気だ。
このまま俺が現れなかったら、きっと国を滅ぼしてまで捜索したに違いない。
「ところでエイルの姿が見えませんわね。ネクロ殿はご存知なくって?」
ぎくりと、胸の鼓動が高鳴った。
嫉妬深い彼女らのこと、真実を言えば何が起きてもおかしくないが……
「……中にいたよ。礼拝堂で祈りを捧げてた」
余計なことは言わずに、しかし嘘は吐かずに。
曖昧な俺の答えに深淵を覗くような視線が集まる。
果たしてその先を聞かれてしまったら……しかし彼女らは無言のままで、これ以上問い詰めるようなことはしなかった。
その後は各々が稽古に励んだ。
その内に城内からエイルも出て来て、お昼の後にはまた修練。
俺は特にすることもないけれど、皆の動きをぼーっと見ていた。
「見てくださいまし! 私の流儀は江流布神拳。脚撃が特徴的な武術ですわ!」
そう言って足を振り上げるオルルは筋もパープルの下着も丸見えだ。
「すごいね。脚が180度も開くなんて」
「体もとても柔らかいのですわ。きっと江流布神拳はネクロ様に絡みつかせる為に生まれた足技なのですわ」
断言しよう。
それはない。
「オルルは徒手は使ったりはしないの?」
「もちろん使いますわよ。ハルトには踏みつけの他にも正拳をお見舞いしたでしょう? 手技を絡ませつつ必殺の蹴撃を差し込むのですわ」
「ふぅん。格闘技とかはあんま見ないけど、カーフキックとかは強烈みたいだね」
「格闘技? というのはあまりよく分からないですが、ふくらはぎはあまり狙いませんね。対人では具足を着けていることが多いですから」
「そっか。スポーツと実戦じゃ違うものね。実戦ではどういう技を使うの」
するとオルルは辺りを見渡し、木人形を前に構えを取る。
「こうやって――」
軸も肩の位置も変わらぬまま、オルルの膝がふわっと上がったその直後、鋭い前蹴りが木人形の胴体を貫いた。
「相手の急所を突き刺したり――」
「ちょちょちょ……待って! どんな鍛え方したらそんなことができるの!?」
「んー、そうですわね。普段からつま先立ちで過ごせるようになれば鉄板も貫けるようになると教えられて、三年間つま先立ちで生活していたら実践できるようになりましたわ」
お、恐ろしい。
実際に貫ける技術もだが、教えを信じて三年間も実戦するところがより怖い。
「あとは基本的に関節を蹴り抜きますわね。相手の先の先を読んで、初動に合わせて足関節を粉砕するんですわ。関節は防具を付けていても曲がりますから」
「いやはや……ずいぶん物騒な技術だね」
「全て弱点や急所を狙いますもの。基本的に踵やつま先、足刀を使うのですわ。圧点を小さくして一撃で相手の部位を破壊する。手技も同じで突きは縦拳を多く使いますの。素早いですし、横拳と違って一撃で肋骨全てを折ることができますわ。平手も必ず親指を立てて目を潰す。殺すことが目的の技ですもの」
これはまさに殺人拳。ルールのある格闘技とはまるで違う。
急所を狙うことが前提で、10ラウンドも戦うことなんて想定してない。
ダメージを蓄積するのではなく全てが一撃必殺。それが武術というもの。
よくよく総合格闘技が最強だなんて言われているけど、武術家にしてみたら金的も目潰しも、指取りも髪の毛も掴めない、雁字搦めのルールに縛られたスポーツに過ぎないのだろう。
「ねぇねぇ! ドールの魔法も見てよ!」
「わらわのおっぱいを見よ!」
「おっぱいは修練と関係ないでしょ!」
呆れて肩を落とすと、不意にその肩を叩かれた。
振り向くと、金髪を指で捩るハルモニアがいじらしい上目を向けている。
「ネクロさん。私の回復魔法の練習に付き合ってくださいませんか?」
「え!? 怪我なんてしてないけど」
「活力ギンギン魔法です。百発出してもビンビンです」
「ちょ! それはやばすぎでしょ!」
抜け駆けを企むハルモニアを目掛けて群がる女たち。
血走る眼光は敵意まんまんという感じで、これを機にまた小競り合いがはじまる――なんて思っていたのだが……
「なんじゃ! その素晴らしき魔法は!」
「すっごい気になるし!」
「あうあう……何リットル出せるんですか!?」
「絶対孕んじゃいますわぁあああ!」
ハルモニアはでかい胸を張ると高説をはじめ、皆は恭しく静聴する。
勝手に賑わうのは自由だが、頼むからその魔法を俺に掛けてくれるな。
そんなに出したら脱水で死んでしまうだろ。
「活力魔法バイアグラーは、ニバイアグラーからヒャクバイアグラーまで存在し、うんたらかんたら――」
「いやーん! 素敵ー! キャッキャウフフ――」
※まだまだ続きますが、ここまで見て頂き有難うございます。
おかげさまで読者様も増えてきております。
ご評価やご感想など頂けると嬉しいです!




