表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/65

巨→爆→超→極乳のセイレーン

 治療を終えた後のこと。

 ヴラーヴ兵たちはしきりにつるつるとなった股間を撫でていた。


「擦っても生えてはきませ~ん」

「去勢されても性欲は残るというからの」


 嘲る女たちは、これ見よがしに胸を寄せ股を開き、やり場のない性欲にヴラーヴ兵は弄ばれていた。

 まるで色気のないTSF劇場だったが、しかしお遊びはここまで。

 ここから先はセイレーン打倒の作戦会議に移り変わる。


「セイレーンはいつどのタイミングで攻めて来るか分からない。俺たちには戦でも奴らにとってはお遊びだ。示し合わせもなけりゃ、昼夜を問わず襲ってきやがる」


 そう語る兵長は悔しそうに舌を打つが、カーラは彼らの苦労を鼻で笑う。


「当たり前じゃろうて。戦にルールなどありゃあせん」

「だがよ……最低限の取り決めくらいはあるだろうが」

「たわけ者めぇ、人の戦と比べるでない。うぬらが魔物を仕留める際に、相手と打ち合わせなどせぬだろう? 魔物から見れば人は他種族、そういうことじゃ」

「……やたらと詳しいな」

「ま、まぁの……」


 あくまでカーラは人の呈。

 誤魔化してはいるけど、動揺は髪にも表れてわさわさと不自然に蠢いてる。


「それじゃあ次にいつ攻めて来るか分からないじゃん!」

「ドールの言う通りだよ。こちらから攻めることはできないの?」

「攻める? わらわをか? ネクロ殿が攻めまくってくれるのか?」

「セイレーン!」

「ほほっ、失礼した。守でなく攻を推すネクロ殿の案、まこと勇ましく潔し。じゃがセイレーンのリーヴァは翼を持ち空を飛ぶ。海上での追跡は困難じゃ」


 セイレーンには鳥である説と魚である説があるらしいが、空を飛ぶとなると非常に厄介だ。

 こちらから出向いたところでどうともできず、周囲が海では逃げ場もない。


「それじゃあ陸で待つしかないのかな。でも夜の空を飛んで来られたら気付けそうにもないけど」

「その心配はないぞ。なぁ、ヴラーヴの勇ましき……乙女たちかの?」


 カーラの皮肉はともかく、いわんとしていることを察した兵長は頷いた。


「それは確かに、気付けない方が難しいかもな」

「どういうこと? セイレーンは歌を歌うから、歌声で接近が分かるってこと?」


 俺の的外れの発言を鼻で笑う兵長だが、女性陣の睨みに肩を縮める。


「そうじゃなくってよ。もっと直接的な意味だって」

「ネクロ殿。リーヴァの体長はな、十メートルは下らんのじゃ」

「で、でかっ!」


 なるほど……それだけ大きければ見張りが見逃す方が難しい。

 羽ばたきの音だってそれなりのものになるはずだ


「でも十メートル超える化物だなんて……カーラのフィジカルでも倒すのは難しいんじゃ……」

「ところがどっこいじゃ。リーヴァはでかい割には非力なのじゃ」

「うーん……憶測だけど、巨体を浮かすには重い筋肉や骨密度は保てないってことなのかな」


 ……おや、また返事がないが……


「インテリ!」

「頭いい!」

「かっこいい!」


 祈るように両手を合わせ、目を輝かせる女たち。

 なんてことないことで過剰に褒められても、嬉しさ転じて恥ずかしいのだが。


「しかし羽を動かす性質上、胸の発達だけは凄まじいの」

「それはまさか……ゴリゴリマッチョってこと?」

「巨乳、爆乳、超乳ときて、その更に上をいく極乳じゃ」

「むしろ邪魔でしょ……なんでそうなるんだよ」


 空は飛べるが力はない。

 ではそんなセイレーンがなぜ一国を手玉に取れるのか。


「兵長さん、やっぱりセイレーンが厄介なのは歌なのかな」

「奴の歌は人心を惑わすんだ。頭がぼーっと酔ったみたいになっちまって、戦おうにも戦えねぇ。そうして一人、また一人と奴に喰われていくんだ」

「ひ、人を喰うの!?」


 これまでの戦場の光景が頭を過ったのか、両脇を抱える兵士たちはやにわに震えだした。


「わらわは人と比べて図体はでかいが、人並のことはできるし、便利な生活にも憧れる。じゃがリーヴァほどの巨体にもなるとな、いかんせん人と同様の生活は難しい。人格はあるがの、わらわと違って原始的な生活を営んでおるはずじゃ」


 つまりセイレーンは、生肉を喰らい血を啜る。

 魔物と呼ぶに相応しいモンスターだということ。


「あんたと違って?」


 まるで己が人ではないとするカーラの言葉に、懐疑的な目を向ける兵士たち。

 先程同様に目を泳がせるカーラだが、深い溜め息を一つ吐くと、身に纏うガウンを取っ払った。


「……ええい! いい加減煩わしいわ! わらわは魔物じゃ! 人間のネクロ殿を慕う、恋に生きるかわゆい魔物じゃ! 良いか、ヴラーヴの兵たちよ。ゆめゆめ口は割るなよ。漏らせば一人残らず、命はなきものと思え」


 おいおい、やけくそになってバラしちゃったよ……

 しかし存外、兵たちの目には恐怖ではなく希望が宿りはじめる。


「魔物が味方なら……もしかしたら……」


 ハルモニアたちが言うように、彼らは許し難き罪人だ。

 未遂とはいえ絶対に許されないが、しかしあえて弁護するならば、セイレーンとの戦いを前にして、いずれまもなく死が待っていることに感付いて、彼らは自暴自棄に陥っていたのかもしれない。


「カーラはとても強いし、ドールは魔法の天才だ。オルルの格闘も途轍もないし、ハルモニアとエイルは優れた回復魔法を使えるんだ。きっと皆で協力すれば、セイレーンを倒すことができるはずだよ」


 この戦いに勝機を見出し、兵たちは見合わせて頷き合った。

 彼らはこの戦いを機に更生して欲しい。そして国の繁栄に尽力して欲しい。

 この世界に来てやりがいというものを感じて、仲間の方へと振り返ると、そこには国の良し悪しなど度外視な、顔を火照らせ身を捩る女たちが発狂した。


「いやぁん! 褒められちゃいましたぁ」

「ドールは天才! もう一度言ってぇ! アンコールアンコール!」

「ほほほ……にやけてしまうな。天にも昇る気持ちとはこのことぞ」

「神の啓示と同等か、それ以上の誉れです!」

「でもきっと、私のことを一番褒めてるはずですわ!」


 オルルに妬みの視線が集まって、痴話喧嘩がはじまった。

 彼女らにとっては国の安寧も世界の平和も、どうでもいいことなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ