巨→爆→超→極乳のセイレーン
治療を終えた後のこと。
ヴラーヴ兵たちはしきりにつるつるとなった股間を撫でていた。
「擦っても生えてはきませ~ん」
「去勢されても性欲は残るというからの」
嘲る女たちは、これ見よがしに胸を寄せ股を開き、やり場のない性欲にヴラーヴ兵は弄ばれていた。
まるで色気のないTSF劇場だったが、しかしお遊びはここまで。
ここから先はセイレーン打倒の作戦会議に移り変わる。
「セイレーンはいつどのタイミングで攻めて来るか分からない。俺たちには戦でも奴らにとってはお遊びだ。示し合わせもなけりゃ、昼夜を問わず襲ってきやがる」
そう語る兵長は悔しそうに舌を打つが、カーラは彼らの苦労を鼻で笑う。
「当たり前じゃろうて。戦にルールなどありゃあせん」
「だがよ……最低限の取り決めくらいはあるだろうが」
「たわけ者めぇ、人の戦と比べるでない。うぬらが魔物を仕留める際に、相手と打ち合わせなどせぬだろう? 魔物から見れば人は他種族、そういうことじゃ」
「……やたらと詳しいな」
「ま、まぁの……」
あくまでカーラは人の呈。
誤魔化してはいるけど、動揺は髪にも表れてわさわさと不自然に蠢いてる。
「それじゃあ次にいつ攻めて来るか分からないじゃん!」
「ドールの言う通りだよ。こちらから攻めることはできないの?」
「攻める? わらわをか? ネクロ殿が攻めまくってくれるのか?」
「セイレーン!」
「ほほっ、失礼した。守でなく攻を推すネクロ殿の案、まこと勇ましく潔し。じゃがセイレーンのリーヴァは翼を持ち空を飛ぶ。海上での追跡は困難じゃ」
セイレーンには鳥である説と魚である説があるらしいが、空を飛ぶとなると非常に厄介だ。
こちらから出向いたところでどうともできず、周囲が海では逃げ場もない。
「それじゃあ陸で待つしかないのかな。でも夜の空を飛んで来られたら気付けそうにもないけど」
「その心配はないぞ。なぁ、ヴラーヴの勇ましき……乙女たちかの?」
カーラの皮肉はともかく、いわんとしていることを察した兵長は頷いた。
「それは確かに、気付けない方が難しいかもな」
「どういうこと? セイレーンは歌を歌うから、歌声で接近が分かるってこと?」
俺の的外れの発言を鼻で笑う兵長だが、女性陣の睨みに肩を縮める。
「そうじゃなくってよ。もっと直接的な意味だって」
「ネクロ殿。リーヴァの体長はな、十メートルは下らんのじゃ」
「で、でかっ!」
なるほど……それだけ大きければ見張りが見逃す方が難しい。
羽ばたきの音だってそれなりのものになるはずだ
「でも十メートル超える化物だなんて……カーラのフィジカルでも倒すのは難しいんじゃ……」
「ところがどっこいじゃ。リーヴァはでかい割には非力なのじゃ」
「うーん……憶測だけど、巨体を浮かすには重い筋肉や骨密度は保てないってことなのかな」
……おや、また返事がないが……
「インテリ!」
「頭いい!」
「かっこいい!」
祈るように両手を合わせ、目を輝かせる女たち。
なんてことないことで過剰に褒められても、嬉しさ転じて恥ずかしいのだが。
「しかし羽を動かす性質上、胸の発達だけは凄まじいの」
「それはまさか……ゴリゴリマッチョってこと?」
「巨乳、爆乳、超乳ときて、その更に上をいく極乳じゃ」
「むしろ邪魔でしょ……なんでそうなるんだよ」
空は飛べるが力はない。
ではそんなセイレーンがなぜ一国を手玉に取れるのか。
「兵長さん、やっぱりセイレーンが厄介なのは歌なのかな」
「奴の歌は人心を惑わすんだ。頭がぼーっと酔ったみたいになっちまって、戦おうにも戦えねぇ。そうして一人、また一人と奴に喰われていくんだ」
「ひ、人を喰うの!?」
これまでの戦場の光景が頭を過ったのか、両脇を抱える兵士たちはやにわに震えだした。
「わらわは人と比べて図体はでかいが、人並のことはできるし、便利な生活にも憧れる。じゃがリーヴァほどの巨体にもなるとな、いかんせん人と同様の生活は難しい。人格はあるがの、わらわと違って原始的な生活を営んでおるはずじゃ」
つまりセイレーンは、生肉を喰らい血を啜る。
魔物と呼ぶに相応しいモンスターだということ。
「あんたと違って?」
まるで己が人ではないとするカーラの言葉に、懐疑的な目を向ける兵士たち。
先程同様に目を泳がせるカーラだが、深い溜め息を一つ吐くと、身に纏うガウンを取っ払った。
「……ええい! いい加減煩わしいわ! わらわは魔物じゃ! 人間のネクロ殿を慕う、恋に生きるかわゆい魔物じゃ! 良いか、ヴラーヴの兵たちよ。ゆめゆめ口は割るなよ。漏らせば一人残らず、命はなきものと思え」
おいおい、やけくそになってバラしちゃったよ……
しかし存外、兵たちの目には恐怖ではなく希望が宿りはじめる。
「魔物が味方なら……もしかしたら……」
ハルモニアたちが言うように、彼らは許し難き罪人だ。
未遂とはいえ絶対に許されないが、しかしあえて弁護するならば、セイレーンとの戦いを前にして、いずれまもなく死が待っていることに感付いて、彼らは自暴自棄に陥っていたのかもしれない。
「カーラはとても強いし、ドールは魔法の天才だ。オルルの格闘も途轍もないし、ハルモニアとエイルは優れた回復魔法を使えるんだ。きっと皆で協力すれば、セイレーンを倒すことができるはずだよ」
この戦いに勝機を見出し、兵たちは見合わせて頷き合った。
彼らはこの戦いを機に更生して欲しい。そして国の繁栄に尽力して欲しい。
この世界に来てやりがいというものを感じて、仲間の方へと振り返ると、そこには国の良し悪しなど度外視な、顔を火照らせ身を捩る女たちが発狂した。
「いやぁん! 褒められちゃいましたぁ」
「ドールは天才! もう一度言ってぇ! アンコールアンコール!」
「ほほほ……にやけてしまうな。天にも昇る気持ちとはこのことぞ」
「神の啓示と同等か、それ以上の誉れです!」
「でもきっと、私のことを一番褒めてるはずですわ!」
オルルに妬みの視線が集まって、痴話喧嘩がはじまった。
彼女らにとっては国の安寧も世界の平和も、どうでもいいことなのだろう。




