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脅迫魔法

 阿鼻叫喚のヴラーヴ兵の控室。

 床には無数のアレが散乱しているが、当然卑猥さの欠片もなく、同じ男としては目も伏せたくなる惨状が繰り広げられる。


「な、治してあげて!」

「こんな奴らの遺伝子は、今後栄えさせてはいけませんわ」

「レイプ未遂魔の精子なんてさ、駆逐するべきだよね」

「命を絶たなかっただけ慈悲深いじゃろ」


 やはり俺の能力はあくまで究極の恋心を抱かせるだけで、服従とは毛色が違う。

 俺に実害がないのなら、必ずしも命令を聞くとは限らない。


「でもこのままじゃ死んでしまう。お願いだよ!」


 縋り付く俺を見て、皆は一様に困り顔を浮かべる。


「ネクロさん。相当甘めに見ても、この者たちは死んで当然のクズどもだったと思います。あちらから吹っ掛けておきながら、言い返したら凌辱すると言いはじめた。恐らく本気で、仮に私たちが弱ければ全員が際限なく犯されて、最終的にはネクロさん共々殺されていたでしょう」


 そう語るハルモニアの顔に残酷はなく、いたって真面目な面持ちをしている。

 言われてみれば確かにそう。大量強姦殺人など、死刑が下ることの方を世の万人が望むはず。

 でもやっぱり未遂であって、俺が生かすことを望むのは、単に俺の関わる中で人が死ぬのが耐えられないという、臆病な心持ちに他ならない。

 言い返せることもなく黙っていると、俺の肩にハルモニアの手が置かれて、見上げてみると皆が微笑みを浮かべていた。


「大丈夫、生かしますよ」

「目的の為にも必要だもんね」

「国と敵対するのは面倒じゃからの」

「元気を出すのですわ、ネクロ様」

「ネクロ様は優し過ぎます」


 俺が優しい。

 いや、ただ卑怯なだけで、まるで見当外れの見解だ。

 しかしそれすらも見抜いていながら、彼女らは俺を傷付けないよう、擁護してくれているのかもしれない。


 回復魔法を使えるハルモニアとエイルが前に出ると、まるで園児を相手にするように手を挙げて、床に這いずる兵たちに問い掛けた。


「怪我を治して欲しい人は手を挙げてぇ」


 堪えようのない痛みの中で、兵たちは震える腕を順々に掲げる。


「しょうがないなぁ……治してあげまぁす。でも傷痕だけです。竿と玉は再生しないのであしからず」

「ざ、ざけんな……」


 命の懸かったこの後に及んで、掠れ声で文句を垂れるヴラーヴ軍の兵長だが、ハルモニアは蹲る彼の前に腰を下ろすと、にたにたと嫌らしい笑みを張り付けた。


「いいですかぁ? 些末なモノを再生までして欲しいなら、私たちの言う通りに動きましょ? 今は出血だけ止めますから、従順なしもべになるのです」

「べ……便所はどうすんだ……」

「穴くらい作っておいてあげますよ。もし永遠に女の子として生きたいなら、裏切ってくれて構いませんがね」


 彼らは気高い武士(もののふ)ではなく、穢れた醜い兵たちだった。

 だから誇りなど当然なくって、ハルモニアの要求をあっさりと受け入れる。

 我先にと、エイルの回復処置に群がるヴラーヴ兵たち。

 一歩退いたところで、ハルモニアは歪んだ笑みを零した。


「ふふ……回復魔法というものは、こういう風に使うんですよぉぉぉ」


 回復魔法とは、人体を回復する優しい魔法。

 しかし彼女らに掛かれば、欠損した部位を出汁に使う、脅迫魔法に成り果てた。

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