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ハーレムVSハーレム

 ひとしきりの別れを惜しみ、リムルの遺体はグラマリアで火葬した。

 その後はしばらくの空虚が続き、生きている心地がまるでしなかった。


「私がいますよ、ネクロさん」

「ドールの胸で泣いていいんだよ?」

「可哀そうに……わらわが慰めてやろう」


 彼女らは慰めの言葉を掛けてくれたが、そこにリムルを悼む言葉はなかった。

 俺の哀しみに乗じて媚びを売ってるのだろうか。


 リムルはあの日に酒で無茶をした。

 俺の世界で言うところの急性アルコール中毒が死因だとするが、俺はそうは思えなかった。

 よもやこの中の誰かがリムルを疎んで、己の愛欲の為に殺害したのでは?

 あの日の夜のことは思い出したくとも思い出せない。記憶が無くなるほどに酔った自分が恨めしい。

 もう冒険は止めだと、そんな気も起きないと、それを皆に伝えると、ハルモニアは俺を抱き締め耳元で囁いた。


「私が神になりさえすれば……自由に転生の力を……」


 そうだ。そうすればリムルを生き返らせることができるはず。

 僅かな希望が胸に宿り、俺は再び立ち上がる。

 願わくば、殺したのがハルモニアではないことだけを祈って。


 リムルの遺骨の一部を俺は譲り受けた。

 骨董屋でペンダントを買い、その中にリムルを納める。

 これで常に一緒だ。片時も離れずに、俺はリムルと一緒に旅をする。


「さあ、魔導車に乗りましょう!」

「私の魔力なら爆速だよぉ」

「わらわならもっと速く動かせるわ!」


 落ち込む俺を気遣って、無理して明るくしてくれているのだろうか。

 けれど妙に機嫌が良く見えて虫唾が走り、作り笑顔を向けるだけが精一杯だった。


 車に揺られて、車窓から外の景色をぼうっと眺める。

 日中だというのに、空には月に似た大きな星が浮かんでいて、模様が人の顔に見えてくると、俺を嘲て見下しているように見えた。

 見渡す限りの草原を越えて、野花の咲き乱れる丘を登り、途中では魔力に惹かれた魔物も襲ってきた。

 しかし高位魔物であるカーラが顔を覗かせると、たちまち脅えて逃げ去った。


「魔物には魔物の格というのが分かるでな。無頓着な奴は長生きできん。強うなると、戦う相手にも困ってしまうものなのじゃ」


 魔物は相手の強さを見極める能力が優れるとカーラは言うが、きっと逆だ。

 進化論と同じで、察知する力の優れたものだけが今の世界に生き残る結果論。

 俺は危機感が足りなかった。ならば絶滅する運命なのか? いや違う。


 無敵のスキル、ファッシネイション。

 無闇に使わないと決めていたが、生きる為には、死なない為には、いつかリムルと再会する為に。

 惜しげなく使おう。危機感が足りないのなら、必要のないほどに強くなればいい。


「丘の頂上に着いたよ! 見て見て、ネクロくん!」


 見下ろす世界の景色は、淡い碧の混じった美しい大海原。

 元の世界では見たことのない程に綺麗な海で、水面は陽に当てられてきらきらと輝いて、これを見たリムルの喜ぶ顔を想うと、心には暗い陰が落ちる。

 丘を下っていく内に歩道へ繋がり、斜面にはちらほらと民家が目立ってきた。

 そして海に続く港町も小高い丘に続いていて、その上には立派な城が建つ。


「マルメア国のヴラーヴ城じゃな。主のヴラーヴ王がセイレーンとの戦いに挑んでおるが、直接向かえど門前払いは必須じゃ。さて、どうしたもんかの」

「ドールの魔力を見れば、戦力にしたいと考えるんじゃないかな?」

「うぅん、どうでしょう……そんな簡単にいくと良いのですが」


 皆で腕組み悩んでいると、車内まで届く馬鹿笑いが道脇から聞こえてきた。


「うえっへっへ! この国の姫はめっちゃ美人と聞いてるからなぁ!」

「ハルト様……私たちじゃご不満ですか?」

「まったくですわ! この絶世の美女、オルルがいれば十分じゃなくって?」

「お前らもお前らで可愛がってやるさ」


 外を歩くのは鼻の下を伸ばしている男に、修道服を着る青髪の女性は僧侶だろうか。そして高飛車な口調の金髪女は、鋭く尖った耳が伸びている。


「一人はエルフか……珍しいの。魔力が高く高潔なことで有名じゃが、男に愛想を振りまくとは、噂違いのだらしのない種族じゃな」


 それって、カーラが言えることじゃないんじゃない?

 そんな三人組を冷たく見据えるカーラとドール、しかしハルモニアの目は驚きに見開かれる。


「女が述べたハルトという名前……私の蘇らせた転生者の一人です!」

「え!? つまりあの男がレベル2000の転生者ってこと!?」

「いいえ、彼は違います。レベルはおよそ300程度の失敗作。ですが当然、相応の強さを持っています」

「レベル300じゃと!? あんなだらしなく涎を垂らした男が、わらわ以上のレベルの持ち主じゃと言うのか?」

「転生の力はそういうものです。努力もなしに人外の力を手にできる。他人の汗の滲むほどの努力を、転生したからというだけで蹂躙できる。それほどに理不尽な力を持つのが転生者です」


 俺はレベルこそ低いものの、チートな能力を持ってるぶん肩身が狭いな。


「クソみたいな存在だね。あ、もちろんネクロくんは別だけど」

「努力を嫌う怠け者か、若しくは働きもしないで夢を見る、甲斐性なしのゴミ野郎が好みそうな存在じゃ。あ、もちろんネクロ殿は例外じゃが」


 能力の影響下にある以上、彼女らには本当に悪意などないのだろうが……詰まるところ俺は努力を蹂躙する、クソなゴミ野郎ってことか。


「ですがここはちょうど良いです。ハルトの力を加えれば魔王を倒せずとも、ワルキューレ・アナテマを相手にする上で、それなりの戦力となるでしょう」

「じゃあいったん停車するよぉ!」


 ドールが車輪にブレーキを掛けると、魔導車は丘の傾斜で動きを止めた。

 車外に降り立つと、向かい合うは背も高くがたいの良い、俺と同じく異世界へと転生した男。


「誰だてめぇ」

「俺はネクロ、君と同じ転生者だよ」

「転生者だぁ? つまりてめぇもハルモニアに……って……まさか後ろの女は」


 俺の背後から顔を覗かせるハルモニアは、ハルトという転生者にブイサインを突き出した。


「お久しぶりですぅ」

「てめぇ……俺を失敗作と呼びやがった天使のクソ女。ずっと見返してやろうと思ってたんだ。そんでそのクソでかい乳を、飽きるまで嬲ってやろうと……」

「駄目ですよぉ。私の胸はネクロさんのものですからぁ。ね?」


 同意を求めるなり、俺の二の腕に豊満な胸を挟み込むハルモニア。

 これから仲間にしようとしたハルトだが、俺とハルモニアとのやり取りを見るなり、敵意まんまんといった視線を向けてくる。


「見せつけやがって……何の用で俺に声を掛けたんだ?」

「ええと……その……仲間になって欲しいんだよ。魔王を倒す為、配下のワルキューレ・アナテマを倒す為に。ハルトさんの力を貸して欲しいんだ」


 腕を組むハルトは素直に首を縦に振る。

 どうやら納得してくれたようだと、しかしその頷きは俺への返事ではなく、単に己の中で納得をしただけの頷きだった。

 真実は俺の仲間に勝るとも劣らない、醜い嫉妬心に燃え上がる。


「ふぅん、なるほどな。だがこの異世界は俺のもんで、俺以上のハーレムを作る奴は、ぜってぇに許さねぇ」

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