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突っ込んでエクスタシー

 カーラを連れて一度グラマリアの町に戻る。

 マルメア国に徒歩で行くにはそれなりの体力が必要で、レベル1の俺を鑑みて魔導車での移動が提案されたからだ。

 情けない限りだが、俺がバテればかえって迷惑を掛けてしまう訳だし、皆の気遣いに甘えようと思う。


 カーラは魔物だが一見すれば長身の女性で、ガウンのような羽織り物に毛先さえ忍ばせてしまえば、傍目には魔物とは分からない。

 二メートルを優に超える長身と、バランスボールを二つ付けてるのかってくらいに大きすぎるバストはさすがに人の目を集めたが、メドゥーサとしての姿かたちが認識されていない点も助かった。


「そろそろ夕暮れじゃ。出発は明日にするとして、わらわ晩酌を楽しみたいぞ」

「でも俺、お酒なんて飲んだことないよ」

「まことか! ネクロ殿には是非飲んでみることをお勧めするぞ。酔うと気分が良くてな、本能のまま襲うてくれるとなおよろし」

「ちょ……なおさら飲む訳にはいかないよ。皆だってハルモニア以外は飲んだことないよね?」


 何気ない問い掛けのつもりだったが、一同は揃って首を傾げる。


「いや、普通に飲んだことはあるが……なぜそう思うんだ?」

「だってお酒は二十歳からで……」

「あぁ……ネクロさんまで歳の話を……」


 そんなつもりじゃなかったのに被害は飛び火し、さめざめと涙するハルモニア。


「ネクロの故郷だとそうなのかもしれないが、私の知る範囲では飲酒の制限は聞いたことがないな」

「ドールも飲むんだよ! ふわふわぁってして、とぉっても気持ちがいいの!」

「わらわとネクロ殿の出会いを祝して、いざ酒の席へと――」

「それはない!」


 全員の総ツッコミからはじまるお馴染みの口喧嘩は、カーラを加えたことで更にやかましくなる。

 騒がしいが……気が付けば俺は笑っていて、暗い人生を歩んできた俺は、実は賑やかさに憧れを抱いていたのかもしれない。


 俺がお酒を飲むかは別として、皆とグラマリアの酒屋に向かった。

 今更だが旅の門出と祝勝を祝うという呈らしい。勝ちを祝う席に敵だったカーラがいるのもおかしな話ではあるのだが。

 いざ酒屋に入ると、中はむさい男ばかりが目に付いた。

 そんな暑苦しい店内に華の女性四人組。当然人の目は集まるし、下心丸出しな嫌らしい視線も多い。

 すると我先にと、屈強な冒険者の二人組が俺たちの前に立ちはだかる。


「姉ぇちゃんたちよ、俺らが一杯奢ってやるぜ」

「ほんとにぃ!? 嬉しいですぅ!」


 あざとく跳ねるハルモニアの乳が上下に揺れ、合わせて男たちの目も上へ下へ。


「だからよ、俺たちと一緒にあっちで飲もうぜ」

「ふえ?」

「とぼけやがって、分かってんだろ? つうか好きなんだろ? 酒飲んだ後には楽しいことでも――」


 途端に真顔に戻ると、ハルモニアは開いた五指を男たちの胸に突き付けた。


「それはお断りです。お酒を奢ってくれるのは構いませんが、勝手に奢って、あなた達は隅で飲んでいてください」

「は……はぁあああ!?」


 な、なんつう横暴。

 体目当ての男もだが、何よりハルモニアの発言の方が酷いという話で。


「ドールはネクロくんにしか興味ないもん」

「他の男と話すだけで心が痛む。とっとと失せるがいい」

「あ、でも。奢るって言ったからにはお金だけは置いていってくださいねぇ?」


 言いたい放題言われる男たちだが、こめかみには見る間に青筋が浮かび出す。


「てめぇら……冒険者をなめてっと痛い目に遭うぜ?」

「鍛えられた俺たちの体で遊んでやるよ。そんな冴えない男のアレより……」


 俺のことが話題に出た瞬間、皆の目の色ががらりと変わった。

 爛々と輝く三人三色の瞳の頭上では、一つ飛び抜けたカーラの怒気に満ちた翠髪がわらわらと波打ちはじめる。


「うぬら……今ネクロ殿を冴えない男と言うたのか?」


 巨躯の男たちですら更に見下ろすカーラの長身。

 縦に切れた蛇の目に睨まれれば、冒険者といえども蛙と同然。


「な、なんだよ……やるってのか!」

「ほほほ……間抜けがぁ。ちんけな喧嘩などせぬわ」

「はは……そう言って本当はビビってやがんのか――うぐっ!?」


 合図もなくカーラの両手が男たちの首根っこを引っ掴むと、頭が天井に届いてしまうほどに腕を掲げた。


「ほぅら、これは処刑じゃ。喧嘩にも争いもならぬなぁ? 今すぐこの場で締め殺してやろうぞ」


 屈強な肉体は床から離れ、足は無残にも宙を蹴る。

 首の筋なのか骨なのか、俺の耳にまで軋む音がありありと聞こえる。

 脅しや冗談で済ましてくれるかと思ったが、カーラは魔物で種族も違う。

 人間が虫や爬虫類を殺す抵抗が薄い様に、カーラから見た殺人の引け目は人間より遥かに薄いのかもしれない。


「止めるんだ! カーラ!」


 命の危険を感じて、俺はカーラを止めんと背中に飛び付いた。

 最弱の俺の力がカーラに通用するはずもないが――と思いきや、カーラは首からあっさりと手を離す。

 尻から床に転げる男たちは、喉を押さえて咽せ込んだ。


「カーラ、良かったよ。素直に止めてくれて」

「あぁ……バックから攻められてしもうた」

「はい?」

「わらわの洞窟を後ろから力強く突かれてしもうた」

「ちょ……突いてないし!」

「しかし今しがた、わらわは確かにエクスタシーを感じたのじゃ! どちらにせよ、これはもう交尾と同義! わらわ目出度く処女卒業!」


 両手を挙げるカーラは万歳三唱。

 俺が否定するより早く、皆は違うしと捲し立てる。

 そんな馬鹿騒ぎを、冒険者の男たちは苦しい顔で見上げる。


「おい……俺たちを無視すんじゃ――」

「邪魔だぁあああ!」

「どけぇえええ!」

「消えなさぁあああい!」


 拳骨に膝蹴りに、ロッドのフルスイングをお見舞いされて、絡んだ男たちはあっけなく撃沈した。


「さ、飲みましょ!」

「飲も飲も♪」

「おじさぁん、エール五つ! 冷えてるやつね!」

「ほほほ、この店は氷魔法が使えるか。冷えたエールはうまいのじゃ」


 さりげなく俺の分も頼まれてるし……

 いやはや、それにしてもいざこざの後にこの有様。

 女性はいつどの世界でも強いものだ。

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