異世界転生
最強。
ひとえに最強といっても色々ある。
戦闘最強、スポーツ最強、勉学最強。
そんな中で俺が得た能力は――恋愛最強。
いま俺こと、根黒 正人は元の世界から離れて、異世界で両脇に女を抱えている。
なぜこのような経緯に至ったのか。
それは学校の帰り道での、とある出会いがきっかけだった。
「こんにちはぁ!」
一言で言えば可愛い。空想でしかありえない、理想を現実とした可愛さの女性。
白の薄布を纏う、翼の生えた金髪の美少女。やたらと胸のでかいその女が、俺を異世界へ迎える最初の女性だった。
「私は天使のハルモニアっていいます!」
にこやかなハルモニアは、きめ細やかな掌を返すと俺の胸へと差し向けた。
これはつまり、俺にも名乗れという合図なのだろうか。
「えと……根黒 正人です」
「ううん。そうじゃなくって……えぇい!」
おかしな掛け声を放ったかと思えば、なんだか胸の辺りが妙に熱い。
なのに体の節々は凍るように麻痺している。
ハルモニアの腕を伝う赤い筋は、俺の胸の方へと繋がっていて――
「ごほ……げぼ……」
「いよしっ!」
人の胸を貫き手で刺して……ガッツポーズとか……ふざ……けんな……
そうして俺は、天使に心臓を串刺しにされて――
「転生しました」
「早いよ!」
転生したのである。
辺りの景色は通学路から一転、一面の雲海に様変わり。
何もかもが早すぎて、全く理解が追い付かない。
「ちょっと待って、転生ってどういうこと?」
「おほんっ! それにはまず、私の身の上話から聞いてくれると嬉しいのです」
「えと……どうぞ」
「実は私は見習いで、神になるべくお師匠様から修行を付けてもらってるんです」
「修行ってなんの……」
「よくぞ聞いてくれました! それが辛くて辛くて……この前なんか怒鳴り散らされて、パワハラを訴えたいですが、天界には労基も組合もないものでして――」
それから小一時間ほど、俺の転生とは関係のない愚痴を聞く羽目となる。
「――という訳でして、話が逸れちゃいましたぁ。つまり私は今、お師匠様に一つの世界を任されてまして、見事平和にすることができたら一人前と認められる訳です。だからあなたには私の任された異世界に行ってもらって、魔王を倒して欲しい訳なんです――って……ちゃんと聞いてますかっ!?」
こくこくと眠気に揺れる頭を叩かれて意識を戻す。
半分寝てた俺が悪いのかもしれないけど、さすがにこれだけの長話なのだ。天使の方にも非はあると俺は思う。
だけど俺にはそれが言えない。
天使が特別怖いからとかじゃなくて、俺は根暗の引っ込み思案で、彼女もいたことがなければ友達すらいない、根っから真の陰キャだからだ。
「なんとなくは……」
「まったくもう……ではええと、お名前は何さんでしたっけ?」
「正人です。根黒 正人」
「世界観的にネクロさんって呼び方の方がしっくりきますね」
「お好きにどうぞ」
「お好きにと言っても、私と話すのはここまでですよ? 異世界にはネクロさんしか行きませんから」
「え? 一人で魔王がいる世界に行くなんて、危険じゃないんですか?」
俺の不安を知ってか、したり顔を浮かべるハルモニアは立てた人差し指を横に振る。
「ちっち、甘いですよ。転生者たるもの超強化してますから」
「ほんとに!?」
「マジです! だからもっと全身で喜びを表現するといいのですっ!」
「わ、わーい」
「よろしい!」
なんだか演技っぽくなってしまったが、正直言うとめちゃくちゃ嬉しい。
根暗な俺だけど、やっぱり強さってものには憧れる。
好きで陰キャな訳じゃないんだ。できることなら勇者のように強くなりたい。
「一体どれくらい強くなったんですか!?」
「ふふふ……それは見てからのお楽しみ。今から私がババンと、ステータスを数値化したものをお見せします♪」
わくわくしてきた。こんな感情いつぶりだろう。
小さい頃、サンタさんからのクリスマスプレゼントを目の前にした時だろうか。初めて遊園地に連れて行ってもらった時だろうか。
いずれにしろ遠い昔の記憶で、ここ最近では味わったことのない高揚感に昂る。
「ではいきますよぉ……ババン!」
ネクロ
レベル1
HP:10/10
MP:0/0
力:3
守:2
早:2
魔:0
「…………」
「…………ざっこ」
「今なんて……」
「くっそ雑魚じゃないですかぁあああ! 近年稀に見る雑魚です! だいダイ大DAI! 大失敗作でぇえええす! とっととDie!」
どうやら俺は、異世界転生に失敗したみたいです……
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