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歯磨きとお風呂はお早めに

俺は極普通の高校生の加賀翔哉。

いかにも異世界ファンタジー系の物語が始まりそうな感じだが、現実はそう甘くない。

俺だって....ッ!行けるものなら行きたいさ!異世界に!

実際、学校ではいじめられ、親からも兄弟と差別され、彼女も友達もいない"クソ"な世界だ。

だから毎日のように「あー。交通事故とかで死んだら、異世界に転生できるのかなー」なんて期待を寄せながら道路を歩いている。

───それが、数秒前までの俺の心情と状況だった。

なぜ過去形かって?

それはな.....たった今!おそらく異世界転生らしきものをしているからだ!!!!

歪んだ空間と、カラフルな色。

そしてこの浮遊感。

これあれだろ。絶対異世界転生だろ。

それにしても、なぜこのタイミングで転生したんだ?

常日頃から転生したいとは思っていたが、まさかこのタイミングとはな。

なんで"歯磨きしてる時"に転生するんだろうな。

じゃあ軽く数秒前までの俺の行動を話すとしようか。

とはいえ、数行で終わる話だが。

俺はバイトを終え、そのまま用意してあったご飯を食べた後部屋に戻った。

それが10時頃の出来事だ。

風呂は入らない。うん。

そこからはただひたすら画面と向き合いゲームをし、気づいたら深夜2時頃だった。

そこで俺は、流石に虫歯にはなりたくないなと思い、1階に行き歯磨きをしに行った。

洗面所で歯磨きに歯磨き粉をつけた後、何となく洗面所が怖かったのでリビングでシャカシャカしていた。

するとあらびっくり。突如として眩い光が視界を覆ったわけだ。

そして今に至る訳だが。

これ....いつまで続くんだ?

そろそろゲシュタルト崩壊がはじまりそうなんだが...

「..............じゃ..........い」

すると突然、どこまでも続く地平線の先から微かに声が聞こえた。

微妙にエコーがかかった、いわゆる"女神"ボイスだ。

これ来ちゃうんじゃね?来るよね?え?

地面に足が着いていたら、その場で高速足踏みをしていただろう。

だがまあ、浮かんでいるのでそんなことをしても体が回転するだけだ。

さて、女神様は何と仰っているのかな?

「すみませーーん!!なんですかーーー!!!?」

俺は大声で声がした方に叫ぶ。

「お.......じゃ........い.....」

僅かに声の発生源が近づいたが、それでもまだ途切れ途切れだ。

「なんですかーー!!?」

「おま.......じゃな......」

更に声は近づいたが、あと一息だ。がんばれ。

「な!ん!で!す!か!!」

俺は期待が籠りに籠りまくった笑みでそう叫ぶ。

きっとその時の彼の内心は。

(うっふふ♪どんな最強の能力を貰えてどんな可愛い女の子とたくさんイチャイチャできるかな〜♡)

とかだっただろう。

しかし数秒後、その妄想は突如視界いっぱいに現れた女神様の顔と、その言葉と異世界特有の超能力で打ち消されることになる。

まあまずは追って見ていこう。

翔哉が「な!ん!で!す!か!!」と叫んだ数秒後、女神様と思われる女は地平線の向こうから猛スピードで翔哉に近づき顔の目の前で急停止。

物理法則など知ったことではないと言うその現象に驚きつつも、B級ホラー映画のような驚かし方をしてきた女神様に驚く。

「んぎゃぁぁああああぁぁああああああぁああああ!!!」

赤ちゃんの泣き声のような声で叫ぶ翔哉だが、怒涛の展開はまだ止まらない。

まずは女神様が言葉を発した。

「お前じゃない!!!」

その言葉に、翔哉は何も言うことが出来ず、ただポカンとするのみ。

そして何とか状況整理をしようと、頭を働かせようとしたところで。

女神様のビンタが頬に直撃する。

何が起きたのか理解出来ず、首が曲がったまま固まる翔哉。

だがそんなのも束の間、続いて翔哉の腹に向かって女神様の拳が突き刺さる。

「ごはぁ....ッ」

翔哉は少しばかり吐血し、同時に激しい目眩が襲う。

そこで翔哉は思う。

あれ、なんでだろう。俺、殴られ慣れてるはずなのに、痛い。

いや待てよ。まずなんで俺は殴られてるんだ?

てか女神様のおっ────

「しねくそごみかす!!!」

女神様には似合わないなんて汚い言葉なんだ。

まるで心を読んだかのようなジャストタイミングだ。

いや、実際には読んでいたのかもしれない。

目眩と血の味がする中、翔哉は女神様の姿を瞼と脳裏にしかと焼き付けようと顔を上げる。

しかしそこにあったのは色気ではなく、どちらかと言えば毒気だった。

なにやら呪文をえいしょうして、右手をこちらに向けている。

右手の先には紫色の毒々しい光が光っており、明らかに魔術やそこらと思わせるものだ。

そこで翔哉はようやく状況把握が出来たのか、慌てて口を開く。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!いきなり呼び出されて殺されるのはあまりにも理不尽だ!!」

すると女神様は表面上は笑顔で、だが内心は悪魔のような形相で答える。

「あら?間違って召喚した"虫けら"が何か御用で?」

にっこり、と。

「い、いま!間違ってって言いましたよね!!?なら責任はあなたにあるはずです!責任もって育てて下さい!」

翔哉の必死な訴えに、やはり変わらぬ表情で答える。

「もうあなたは地球の人間ではありませんのよ?故にあなたに人権などございません。なので所有権は召喚した私の物になります。煮るなり焼くなり、好きにして良いということでございますねっ!!」

.......は?

なんだそのぶっ飛んだ理論。

人権はない?いやあるだろ。え、もしかして本当にないの?

唖然とする翔哉に対し、詠唱が終わったのか光の狙いをしっかり定めて女神様は言う。

「では、短い"異世界人生"ご苦労さまでした♡来世でも頑張り下さい!」

その言葉を最後にして、俺の意識は途絶えた。

まあ、一つだけ言っておこう。

何があったにせよ、帰ったら風呂入って歯磨きして、日付変わる前には寝な。

そうしたら、こんな見た目だけ女神様の悪魔に殺されることなんて無いだろうからさ。


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