The first
ここは数十年前に日本が崩壊したのちに出来た地「ジャポーレン」。
言語や人口は衰退していないが、明らかに違うのは法律というものが無くなり、壁で囲まれた安全地帯「日安」以外は無法地帯となったことだろう。
その頃、南で一番大きい街「バルダッド」。
ハァハァ
「だから僕は何も知らなかったんですって!」
この情けない声を出しながら追いかけられている男がこの物語の主人公だ。
なぜこんなことになってるのか、それは数分前に戻る。
彼は平和を求めて日安へ行く途中で訪れたバルダットで道を歩いていた時にバルダットの兵士らしき人と肩がぶつかったのだが、その時に偶然にも彼らの持っていた物をつかんでしまい、奪われたと勘違いした兵士が追いかけてきたってところだ。
「そいつは日安からのスパイだ。絶対に逃がすなよ」
彼らの顔はまるで、一週間断食してやっと獲物にありつける肉食動物のようだ。
「誰か助けてええええええええ」
場面は変わり、バルダットの路地裏
「いつもありがとな、占いのばあさん」
大柄の男は占い師に向けて優しい声で言った。身長は190cmくらいだろうか。銀髪で顔は外国人の様で、しっかりと整っている。すると
「ねぇねぇ!向こうの大通りで泥棒だって!今バルダッドの兵が追いかけまわしてるらしいよ!」
と小柄な男が笑顔で寄ってきて言った。彼はローブで身を隠しているが、身長は160cmくらいだろう。
「バルダットの兵がそんなに必死に追いかけるとは、そいつは何を盗んだんだかな」
と言うと、大柄の男は右手に持っていたリンゴをかじった。少し気になったのか大柄の男は大通りの方へ歩き始めた。
この街のつくりは単純で、どんな小道に入ってもいずれは大通りにたどり着く設計だ。大通りは商業施設が発展しているため、常に人で賑わっている。犯罪の一つや二つ今のこの世界じゃ罰せられることの方が少ないのだが、バルダッド兵の動きに何か妙なものを感じ取ったのだろう。
「ちょ!タイム!!マジで...もう...無理...」
登は小道に入ったがこの街の設計上抜ける場所は限られている。
絶体絶命だと思ったその時、上から声が聞こえた。
「坊や、こっちに手を伸ばしな」
登が上を見上げるとそこにいたのは大柄の男だった。彼の手助けによってグーダッドの兵を振り切った登はぐったりとしている。
「ほんとのほんとに、ほんとのほんとにさっきはありがとうございましたああああ。もう死ぬかと思いました本当に」
登は半泣きで大柄の男に頭を下げていた。
「やかましいやつだな。そんで一体坊やは何を盗んだ?」
苦笑しながら大柄の男は登に言った。
「僕は何も盗んだりしてないです!これは事故なんです・・・はい・・・」
そういいながら登は一枚の紙を大柄の男へ差し出した。すると大柄の男は驚いた様子で言った。
「おいおい、こりゃ俺らが求めてたグーダットの軍事報告書じゃねえかよ!よくやった坊や!」
「一体それは何なんですか?」
「めちゃくちゃ簡単に言えばこの街の軍の弱点が書かれてるってとこだな」
「なるほど・・・あいつらが鬼の形相で追ってくるわけですね・・・」
登はなぜ自分が追われていたかを納得すると疲れ切った様子で膝から崩れ落ちた。
「でもなんで坊やはこれをあいつらに返そうと思わなかった?そしたら解決するかもだったろ?」
「あんな状況で足を止めたほうが殺されますって!」
「間違いねぇ!」
そう言って大柄の男は腹を抱えて笑っていたが、登はそれにツッコむ気力ももうなかった。
「坊や、名前は?」
「登。遠坂登」
登は自分の名前を言い、大柄の男へ名前を聞き返した。
「俺の名前はアガー。そして坊や、入隊おめでとう」
アガーは登の肩に手を置いてガシッとつかんでニヤッと笑った。
「え・・・?」