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自動販売機の中の言葉

作者: 月永 時雨
掲載日:2019/12/07

私の言葉は、

私の中でしか生きられないのかもしれない 


人はそれを、偽りと呼ぶんだ







送信ボタン押す勇気がなくて


画面に浮かび上がったまま 

放置された文字列


未読にすらならない   言葉

言葉にすらならない   感情


言葉になる前のいちばん純粋な結晶


穢さないで   守っておいて 

溶かさないで  温めておいて


言葉は、君の前に出た途端、

頼りない背中みたいにしぼんでしまう


だから

保存して自分だけのものにしておきたいんだ


言葉は、言葉になった途端、

それ以上でもそれ以下でもなくなってしまう


だから

言葉に脚色された想いは、私の想いではない


この想いをこの想いのまま伝えたい



たとえそれらが無意味なことだったとしても


せっかくの赤い風船がしぼんでしまうより、ずっといい








君の指先が求めてくれた言葉にさえも

うまく答えられなくて


自動販売機の前で、困らせてしまう


押されなくなった自動販売機は、

ただの箱だ


求められなくなった言葉は、

ただの振動だ


それでも押し続けてくれる指先は、

優しくて


それでも向かい会ってくれる横顔は、

微笑んでいた





ある日、ふと、階段を踏み外した

言葉が、螺旋階段を降りるように滑り出た

ガコン、という軽快な音を立てて


君の疲れを癒す 君の心を温める コーヒー



言葉を    求められたわけではない

ボタンを   押されてもいない


渡したいと      思ったんだ

君の笑顔が見たいと  思ったんだ






きっと


人はそれを 真実と呼ぶんだ









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