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第四話 その登場、颯爽と

 呼び出された先の小部屋で、教師はシャルロットに対しまるで威嚇するかのような声で話し始めた。


「実は、君が自分の宝石を盗んだと、エレナ・トルディスが申し立てている」

「はい? なんの話ですか?」


 エレナといえば、昨日宝石自慢をしていた令嬢だ。

 まったく身に覚えのない話にシャルロットは眉を寄せるが、教師はそれすら不快としているようであった。


「意味が分かりません」

「事実はどうであれ、君はそう言うだろうね。しかし折りしも、君は召喚術を成功させたようだが……それは、偶然かね?」

「単刀直入に申し上げますと、先生は私が彼女の宝石を盗んだと仰っているのですね?」


 回りくどい話しあいは好みではない。

 シャルロットが端的に言うと、教師は満足そうな表情を浮かべた。


(自首します、って期待している……もしくは、召喚の成功理由を知りたがっているってところかしら)


 ひとまず自白を期待するのであれば、相手は証拠を掴んでいないのだろう。

 それならこの場ですぐにどうこうされる話ではないので、ひとまず情報収集に努めよう――そう、シャルロットは冷静に考えたが、すぐにそれは不可能そうだと考えを改めた。

 教師が手強そうだと感じたわけではない。肩に乗っているエレノアの怒気が酷かったのだ。


「エレナ・トルディスという醜き輩に伝えなさい、人間」


 シャルロットが落ち着くよう願うより早く、エレノアは怒りを露にした。

 教師はそれに怯んだが、エレノアが声を和らげることはなかった。それどころかシャルロットの肩から離れて、人間と同じ背丈になって見せ、相手を威圧した。


「どのような対価を用意しようとも、精霊は今後一切トルディスの一族に力を貸さない。精霊一族と交友を持つ種族にはこの一件を女王の名のもとに周知する。性根の腐った人間に我らは容赦しない」


 はっきりと言い切ったエレノアは、それまで相手に向けていた顔を身体ごと反転させ、シャルロットのほうを向いた。

 その顔には『ざまぁみやがれ』と書かれているようだった。


(どうしてだろう。正当な主張をしているはずなのに、エレノアのほうが極悪人に見える……)


 そんなエレノアの背中越しに、教師は完全に固まってしまっていた。


「女王……?」

「あなたは……いえ、あなた様は光の精霊の、女王様なのですか」


 信じられないとでも言いたげな教師を見て、シャルロットはその報告はしていなかったかと思い出した。召喚の成功は見たら分かるが、彼女が何者なのかは一見しただけではわからない。

 始業後に報告するつもりだったが、その前に呼び出しを受けてしまっているので実際に彼女が女王だと知るのは現時点ではシャルロットのみだ。


(『やっぱり小さいほうがクッキーがたくさん食べられる!』なんて言っている姿を見ると『こういうものか』って思うけど……私も女王様ってきいたらそれだけで驚いたもんね)


 ただ、隠していたわけではないので恨むような眼差しを教師から向けられるのは逆恨みというものだ。やがて教師は息を飲んでから、ゆっくりと口を開いた。


「……しかし、あなたはアリスが召喚した精霊。主人を庇いもするでしょう」


 主人じゃないです。友人です。

 ……などとシャルロットが口を挟む間もなく、エレノアは教師を挑発した。


「ならばそちらに証拠があるとでも?」

「……っ、そ、それは」

「そして、人間。お前は人間を代表し、我ら精霊を侮辱するか。それは、我が一族に対する宣戦布告と捉えて構わぬのだな」


 エレノアの怒気は、シャルロットですら悪寒を感じた。

 それは、昨日言っていたような『暇つぶし』だとは感じない。

 エレノアがどこまで本気で言っているのかはわからないが、怒っているのだけは本気だと理解できる。


 教師は苦々しい顔をしていた。否定も肯定もせず、往生際の悪さを見せつけている。


(ごめんなさいって言ってくれたら、この場は丸く収まるのに……)


 その上で一度確認するとした後、間違いだったと訂正すればシャルロットだって水に流すくらいのことはする。面倒なのだ。

 しかし相手はそうしない。

 ここはどうするべきかとシャルロットが思っていると、部屋に静かなノックの音が響いた。


「失礼します。フェリクス・ヒューゴ・ランドルフです」

「……ランドルフ?」


 聞こえてきた青年の声に教師は一瞬疑問を浮かべたものの、すぐに広い歩幅で扉へ向かった。

 そして、ドアを開く。


「何事ですか、ランドルフ学生」


 その言葉遣いはシャルロットに対するものとは違い、敬意が込められている。


(ランドルフ……っていうのは、貴族かな)


 少なくとも教師より家格が高い家の出身なのだろう。

 教師が学生を身分により差別することは規則で禁じられているものの、この様子を見る限りこの教師はその基本を守っていないらしい。もっとも、それはエレナの言葉を優先したことから窺えるのだが。


 シャルロットも教師の肩越しにランドルフを見た。

 ランドルフは銀髪碧眼の青年だった。街を歩けば振り向く人もいるだろうと思うくらい整った容姿をしている。ただし人当たりがよさそうであっても、何を考えているかわからないようにシャルロットは感じた。


「先生がトルディス家のご令嬢から相談を受けたと耳にしまして。情報提供に参りました」

「情報、と……?」

「はい。彼女は昨日帰省した折に寮内でシャルロット嬢から宝石を盗まれたのではないか、と申し立てたようですが、彼女はそもそも昨日校門から外に出た記録がありません。塀を乗り越えた……というなら話は別ですが。姿を見たという者もおりませんから、自室にずっと籠っていらっしゃったはずですよ」


 それを聞いたシャルロットは、思わぬ援軍に目を瞬かせた。

 ランドルフという相手のことは全く知らないが、この相手はシャルロットの援護のためにわざわざ進言に来たらしい。

 それもしっかりと裏をとってから、だ。


(……少なくとも友人ではないけど、この方、なんでわざわざ調べてくれたんだろう?)


 学院には学生自治会も存在しているが、その役員だろうか?

 そういうことに興味がないシャルロットは、そういう立場の学生の顔を覚えていない。

 そんなことを考えていると、ランドルフと目が合った。

 ランドルフは読めない笑みを浮かべた。


「しかしランドルフ学生。それは単なる記録漏れと言う可能性も……」

「ならば、映像で確認してはいかがですか。三日くらいは、映像玉に残していることでしょうし、なんならご一緒しますよ」


 映像玉とは、魔力で起動している監視カメラのようなものだ。

 ランドルフはもはやこれ以上の言い訳ができないというところまで問い詰め、なおも笑みを絶やさない。


「それに、彼女は召喚に宝石など使用していません。私は昨日、中庭で彼女が召喚をしたところを見ていますから」


 その言葉にシャルロットは再び目を瞬かせた。


(見ていた?)


 いや、人が通る可能性がないわけではない。

 しかし裏庭といっても庭園のほぼ中央部、しかも灯りが灯されているような場所ではない。寮の内部から見える場所ではないので、そのあたりをうろついていなければ人が近づくとは思えないのだが――。

 けれどシャルロットの召喚を見ていたということは、人がいたということだ。

 そして、それに驚いたのはシャルロットだけではなかった。


「……見ていたのか!?」

「見ていましたが、何か?」

「いや……では、そこには何が……」

「あなたに言う必要が? なかったという事実以外、必要はないでしょう」

「しかし……」

「ご自身の立場を危うくしないためにも、もう一度調査したのち、シャルロット嬢にはお尋ねになったほうがいいでしょうね。これが、私からの忠告です」


 教師の顔色は見えないものの、戸惑いは十分伝わってくる。

 そうして、ランドルフはさらに笑みを深め、シャルロットに向かって軽く手招きをした。

 それを見たシャルロットは速足で青年の元まで駆け寄った。


「では、失礼いたします」


 ランドルフの声に合わせてシャルロットも一礼し、ランドルフに続いてその場を後にした。

 一緒に部屋を出たエレノアは当然のように礼もしない。

 そして教師に声が届かない場所まで廊下を進んだのち、シャルロットはランドルフを見上げた。


「あの、ありがとうございました」

「いや、別にいいって。相手がトルディスだから割って入ったっていうところでもあるし。……とりあえずちょっと一杯、茶でもどうだ?」

「ありがとうございます」


 本来なら授業が始まる時間だが、この状況下でその誘いを断る理由は何もない。ランドルフなら、何か都合の良さそうな理由を作ってくれそうだとも思った。

 それに、その言葉を聞いたエレノアから明るい声が飛び出せば絶対に断れない。


「あら、楽しみ。ねえ、お菓子もあるのかしら?」


 ここで断ったら後で何を言われるかわからないと、シャルロットは思ってしまった。



***

ジャンル別日間ランキングにて3位になりました。

これも読んでくださった方々のおかげです。

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