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第二十一話 そしてさらなる新たな出会い

 そして昼食を終えた後、シャルロットは最初の目的だったセウユースの実の収穫に向かった。

 セウユースの実は皮が文旦のように分厚いこともあってかなり日持ちする。多少収穫しすぎても、まず問題ない。


(でも、通年とまではいかないもんねぇ。醤の系統自体はあるみたいなんだけど、大豆がまだ手に入らないんだよね。大豆が手に入れば、温度管理はエレノアと相談したらどうにかなると思うんだけど……)


 まずは海外との貿易をしている商人と接触するか、自ら海外まで行かなければいけないだろう。ただ、何日も船旅をするのは今のシャルロットには自信がなかった。主に、船旅と言う意味で。前世では酔いやすかった記憶があるので、自信がない。


「ま、味噌がまだ手に入らないのはともかく、代替品でも充分だもんね」

「どうかした?」

「ううん、こっちの話」


 セウユースの木には柑橘類のような立派で丈夫な葉と、小枝にある棘が特徴的だ。エレノアは「刺さると痛いから見学しておくわ」と正直に申告していた。

 ただ、エレノアも休んでいるだけではない。シャルロットたちのために木製の脚立をその場に仕上げた。シャルロットが予想する限り、風の力を使って蔓と木の枝を森の中から集めたうえ、そのまま組み立てたようである。それは即席で作ったものにしてはずいぶんどっしりとしており、登るにあたって不安はない。


 シャルロットは用意してきた厚手の腕カバーを装着し、その脚立に上った。


「私が採るから、レベッカさんはカゴに入れてもらえます? 一回一回下りるのは大変だから」

「わかりました」


 そこからは黙々と、自分たちが背負える限界までセウユースの実を収穫した。


「さて、こんなものかな。帰ったら、今日は照り焼きチキンでも作ろうか」

「テリヤキチキンですか?」

「うん。楽しみにしていてくださいね?」


 収穫できることは確実だったので、今日は精肉店に美味しそうなモモ肉を残しておいて欲しいとシャルロットは来る前に依頼している。

 甘辛いソースに絡められたジューシーな鶏肉は、想像しただけでもシャルロットの食欲を増大させる。鶏肉の風味を生かしてハーブと共に焼くチキンステーキもシャルロットの好物だが、それとは異なるうまみがある。


(美味しいものがたくさん食べれるって、本当に幸せね)


 そんなことをシャルロットが思っていると、レベッカが小さく笑った。


「シャルロットさんがそんな表情になるほどの食事となると、私も楽しみです」

「期待してもらって大丈夫です。安心してください」


 何せ、自信作だからね――と、続けようとしたシャルロットの言葉は途切れた。

 シャルロットは背中にびりびりとした強い気配を感じた。


「……なにか、来た?」

「え……? 私は、何の気配も感じませんが」


 強張った表情を見せたシャルロットに、レベッカは戸惑っていた。

 しかしシャルロットには、言葉にし辛い気配が確かに感じられたのだ。

 そんな中でエレノアが立ち上がった。


「確かにいるね。でも、レベッカが言っていることも間違いじゃない」

「どういうこと?」

「いるのは、おそらく幻獣よ。だから召喚師じゃないレベッカには気配が読み辛いのよ。でも、おかしいわね。人の気配がないし――単独でこの世界に来たのかしら?」

「ねえ、ちょっと心配だから見に行ってもいいかな」


 首を傾げたエレノアに、シャルロットは告げた。

 基本的に異世界の住人と召喚契約を結ぶのは、この世界の召喚師が願うことが始まりだ。しかしそれがない状態でこちらに来るとなれば、何かが起こっている可能性がある。

 人がいない場所に降り立ったとなれば、ほかの被召喚者が使うはずだった道を使ったマネキとは違い、独自の力を持っているのかもしれない。そして、おそらくその力は強い。


(だったら、何のためにこんな場所に……?)


 エレノアは頷いた。


「もちろん構わないわよ。むしろ行かないなら私が行ってたわ。いろんな意味で気になるし」

「ありがと。レベッカさんは……」

「私も行きます。得体が知れないのなら、危ないかもしれませんし」


 レベッカの護衛の意識は健在らしい。

 シャルロットはゆっくりと用心しながら、気配があるほうへと進んだ。

 気配は先ほどから一向に動く様子がない。


(この茂みの先にいるわね)


 緊張しながらシャルロットはその先に黒く丸まった小さな塊がいたのを見て、思わず声を零してしまった。


「え、嘘、なんで……こんなにかわいい子たちがこんなところに三匹も……?」


 小さな塊は、子犬だった。

 子犬にはぴょこんとついた三角の耳と、目の上にまるで平安貴族の眉のような茶色い体毛がある。


 それは、シャルロットにはどう見ても黒い柴犬にしか見えなかった。


 ただし間違いなく先ほどの気配はこの黒柴モドキたちから漂ってきており、ただの黒柴ではないことは確実だった。そもそも、この国でいままでシャルロットが柴犬を見たことなど、ただの一度もなかったのだから。



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