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プロローグ 訳あって、癒しのもふカフェを経営中です。

 美味しいお茶と美味しいお菓子、そして憩いの場を提供してみんなで楽しい時間を過ごす。

 そんな想いを胸にシャルロット・アリスが経営しているアリス喫茶店は今日も盛況だ。


 セレスティア王国の王都で『喫茶店』は非常に珍しいコンセプトの店だ。

 その理由の一つは、メニューに飲み物や軽食、菓子類を中心に据えていることだ。


 王都にある飲食店のほとんどは昼夜を問わず、強い酒類やがっつりとしたメニューを並べることをステータスとしている。

 一応酒が飲めない者に対しては水や果実水、牛乳も用意されているし、デザートとして多少の甘味もある。ただ、あくまでもそれらはおまけだ。


 そんな状況下で先月オープンしたばかりの喫茶を中心としたシャルロットの店は異質である。

 はじめは茶葉の仕入れ先からも『そんな店はよしておいたほうが無難だ』と言われたくらいだ。

 しかし、蓋を開けてみればこの通り。

 女性比率のほうが高い店だが、男性客も気兼ねなくやって来る店が確立できた。


 加えて、店の内装も王都の飲食店としては非常に珍しい。

 その一つが木製のテーブル席以外にも用意したソファやクッションだ。

 少しでもくつろぎやすいようにとの用意だが、奮発したおかげで『かつて座ったことがない座り心地』と大人気である。

 あとは子連れでも訪れられるよう、店の端に遊べるスペースとおもちゃも用意している。


(まあ、私自身お酒も好きだから、いずれは果実酒も少し扱いたいけれど……あくまでこの空気を最優先にすることが大事よね)


 まずは欲張らず、経営を安定させることが第一だ。


 アリス喫茶店は決して準備万端でオープンを迎えた訳ではない。

 むしろ準備期間は本当にギリギリだった。


 そもそもシャルロットですら半年前は自分が今、喫茶店を経営しているとは思っていなかった。

 なにせ、本来今頃は召喚師として王宮勤めをしているはずだったのだ。

 それが貴族のごたごたに巻き込まれて白紙となり、急遽喫茶店の開店を目指したのだが――シャルロットにしてみれば、正直『災い転じて福となる』というものだった。

 もとよりシャルロットは将来喫茶店を経営することを目指し、その資金を貯めるために宮廷召喚師を目指していたのだから。


(まあ、いずれにしてもよくこの期間で準備が出来たな、って思うんだけど)


 それでも夢が叶っているのはありがたいことだ。

 足りない資金を快く貸してくれた友人への返済をするためにも、もっとこの店を楽しんでもらえる客を増やさないといけないと気合いも入る。


「シャルロット? 何をぼーっとしてるの? それ、仕上がった?」

「ぼーっとなんてしてないよ。はい、薬草茶ラテアートとクッキー。よろしくね、エレノア」


 シャルロットに話しかけたエレノアは、透き通るような金髪と深い青色の瞳を持っている。

 彼女はただ街を歩くだけで人々の視線をかっ攫うほど美しい。

 まさに傾国の美女だと言われても納得するしかない容姿を持つ彼女は、実は人間ではない。

 彼女はシャルロットが学生時代に呼び出した光の精霊女王だ。

 

 エレノアはシャルロットから受け取ったカップを丸型のトレイに乗せてからその中身を確認し、満足げな表情で笑った。


「さすがシャルロット、やっぱり上手ね。お陰で最高の逸品は今日も大人気ね」

「と言っても、そこまで複雑なものは描いていないけど……これ、ただの三連ハートだし」

「私、長く生きているけれどお茶に絵を描く人間を見たのは初めてよ。それだけ革新的なことなのに、何を贅沢言っているの」

「あはは、お褒めに与り光栄です」


 シャルロットとしては精霊女王による給仕のほうが珍しいのではないかと思ってしまうが、彼女もそれをお忍びのようだと楽しんでいるし、魔力のほかにお茶やお菓子の報酬で満足しているのでいいことなのだろう。


(でも、これ、私が発明したわけではないんだけどな)


 シャルロットは笑って言葉を返すものの、心の中では少しだけ申し訳ないとも思っている。

 アリス喫茶店の看板メニューの一つ、『薬草茶ラテアート』。

 この店ではシャルロットのオリジナルメニューということになっているが、これは前世の記憶を大いに役立てたメニューに他ならない。そして他のメニューも、同様だ。


 『シャルロット』はこの世界に転生した元日本人だ。

 捨て子だったようなので『シャルロット』の正しい誕生日までは不明だが、秋生まれの現在十六歳。

 記憶が戻った五歳の頃、おやつの果物を収穫するために登った木から落ちたことがきっかけだった。


(まさか、転生していたなんて驚いたわよね)


 シャルロットは前世で『別の世界に生まれていたら魔法も使えたのかなぁ』と思ったことがある。だが、それは転生したいと願ったわけではない。それなのに、なぜか召喚能力を有する異世界の人間に転生してしまっていた。


 とはいえ、せっかく記憶を持ち越したのだから使えるものは使わずにはいられなかった。


(なにせ養護院も極貧だったし、できるだけ迷惑をかけないようにしないと大変だし……!)


 要領よく物事を進めることができたお陰で、養護院の手伝いもスムーズにこなすことができるし、収入になることだって覚えることができた。

 召喚師として光の精霊女王と出会うことが出来たのも、感覚的にはこの世界とは少し異なる常識の意識があったことも大きい。


(まあ、冤罪で宮廷召喚師になれなかったときはどうしようかと思ったけど、本当に結果オーライよね。しかも、おかげで可愛い子にも出会えたし)


 予想外の出来事に落ち込んだこともあったが、そのおかげで新たな出会いもあった。

 それはこのカフェ一番の癒やし系キャラなのだが――いまは店内中央付近のソファ席に優雅に座っていた。


 アリス喫茶店には抜群の人気を誇る名物が三つある。

 一つは先ほどの薬草茶ラテアート。そして二つ目はとても美しい看板娘。

 そして最後の一つはちょうど今、女性客たちに可愛がられている、明らかに女性たちよりも大きな白い猫だ。


「今日もマネキちゃんは凄い毛並みねぇ」

「ほんとほんと。大人しくてお上品だし……」

「ねえ、今度は私が乗せてもらいたいわ!」


 マネキと呼ばれた猫は、シャルロットが召喚した……というよりも、召喚するつもりがなかったのに勝手に召喚されたオオネコという幻獣だ。

 幻獣は精霊と同じく、本来シャルロットたち人間が住む世界とは異なる『霊界』に住む生き物だが、マネキはそこで住む場所に困り、たまたまシャルロットが作った異界への道に勝手に滑り込み、現在ではアリス喫茶店でアイドルを務めている。

 その表情は実に満足気で、我が世の春とでも言いたげなほどだ。


(この世界で私はまだ若輩者だからこれからも色々あるだろうけど……ここまでも結構色々あったなぁ)


 そしてシャルロットは喫茶店を開くまでのことを思い出した。



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