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32回目の転生  作者: NAO
血の転生者
31/32

#31「雷鳴の義勇兵グレン・アシュフォワード」



 

 リリーヤは馬車に乗り砦街をとうに発った、俺は「リリーヤの髪留めを忘れたから取りに戻る」と言い、砦街に戻っては竜の砲撃で阿鼻叫喚になった市街の中、運良く砲撃を免れた住民を片っ端からハーシェルと始末していた。


 走り回る女子供をルシールの槍は漏れなく貫き、分裂したハーシェルは「西のあの場所に逃げる準備をした馬車が残っている」だとか「あっちの方に北洋保の人間が逃げ遅れた人を探している」とか、嘘の避難指示で集まった民衆を、せーの、の掛け声で薙ぎ払うんだ。


 ルシールの槍をカタマリ目掛けて横薙ぎに振るうと、無数の手足頭血飛沫が岸壁に打ち寄せる磯波のように舞い上がっていく。


 あっちに一振り。


 こっちにも一振り。


 また集まりが出来たそっちにも一振り。


 街の各所にハーシェルが撒いた俺の血溜まりの数々は、死骸を求めて彷徨い、指一本血の一滴をも残さんばかりに底なし沼へと沈めていった。


 そんな姿を見た勇士の民が一人、俺に向かって奇声を発しながら刃物を振り回してきたが、俺の手を煩わせまいとハーシェルがレンガ程の瓦礫を振って投げつけると、ソイツの頭は水風船のごとく破裂した。


 街路は火災で埋め尽くされ、通りには数々の砲撃によるクレーターが捲り上がり、地形まで変わっているもんだから逃げ惑う民衆は次々と脚を取られ俺達の餌食になっていった。


 遠くでダハーカと思わしき存在とやり合っているシータが発する爆音もちらほら聞こえるが、そろそろカタがつく頃だろう。ここにやってきて1週間でこのフェスティバルが開催された事はとても上出来だった。


 既にもう4000人分余りの血を得られているが、しかしまだまだ終わらない、収穫を待つ獲物はまだまだいる。


 これが終われば、アンプルールを余力を残して顕現出来るだろう、順調そのものだ。


 次の収穫はどこかなとスキップで歩みを進めていると、瓦礫の中に潜ろうとしている人間を見つけた。


「どーしたんですか、逃げないんでーすか、そこに何かあるんでーすか?」


 そう聞いてみると、その男が腰ほどまで持ち上げた瓦礫の中に何人かの子供と女がいたから、例に違わずラクにしてやった。そう、俺は困っている人をラクにしてあげてるんだよ、これは人助けだ。


 物事の解決方法はいろんな形があるのだから、こんな事があってもいいと思うんだ、俺はね。


 しかしハーシェルの嘘の指示ではない場所に向かって逃げる人々もいたから、興味が湧いたので近づいてみると、なんと瓦礫の中に地下へ続く大きな階段があるではないか。


 火災で焼け爛れた街路と打って変わって、その階段の向こうを覗いてみると涼やかな風が頬を撫でて、暗闇の奥からそこそこの人数の反響した声が聞こえたんだ。


「どうした?」


 傍らへハーシェルが様子を聞きに来た。


「多分地下水路だよ、そこに逃げ込んだんだ、残念なことに」


「カイトと俺で、潜り込んで両端から片付けよう」


「オーケーハーシェル」


 俺とハーシェルが階段の向こうを物色するようミーティングしていると、間をすり抜けて逃げ込もうとした町娘をハーシェルはちょっと待ったと首根っこを掴んだ。


 この地下水路は砦町フルコースディナーのデザートだな、いい締め括りだ。と胸を高鳴らせていると、爆音でもない、シータが放った矢の音でもない、乾燥地帯であるこの地域の気候では絶対に耳にする事はないだろう、轟音、雷鳴。


 雷鳴だった。


 その音を聞くや、ハーシェルも動きを止めた。


 シータからの反射眼波。


『グレンだ、グレンが来てる』


 何故? 僅か10日程度で? 奴と? 


 シータがいた方向へ目を向けると、遥か遠くから放物線を描くように数多の紫電が砦街の域外へ降り注いだ残滓が見えた。


 見間違える事も、見当違いする事も決してない、自然現象では決して起こりえない地上を這うように水平に乱れ飛ぶ雷。


「……ハーシェル、すまない、逃げてくれ」

「生徒を置いて逃げる担任がどこにいるんだ、馬鹿を言うな」

「この街にいるお前は50人余り、奴の手にかかったら秒足らずだ、これまでの転生の中で最も最短で遭遇しているんだ、分かっているだろ、いつもなら最低でも2年はのびのび過ごしてようやく、やり合える奴だ」


「分かっているさ、でもな、俺はお前の担任だから、少しぐらい面倒を見てやらなきゃいけない、俺の頭数が50もいれば1分は時間を稼げる」


 涙が出てしまいそうだ、ハーシェルとの絆と思いがを強く胸を打つ。


「……分ったよ、封印されない限りいくらでも顕現させてやるから、どうにか俺が準備するまで1分でいいから持たせてくれ」


 思わず目頭をつまんでしまう。


「カイト、俺とお前はいつも全力だったじゃないか、今日もその内の一つだったって事だ」


 そう言って手に掴んだままジタバタしている町娘を裂き殺すと、街に散り散りになっていた町民の姿をしたハーシェル達は変質を始め、奴がやってくるだろう方角に向かって歩みを進めていった。


 シータへ向けて通信を試みた。


『シータ、まだ終わってないだろ、お前もそこそこにして逃げろ』

『嫌だよ、だってそしたらアンプルール先生と会えないじゃん、適当に距離を稼いでブラモスを斉射するね、僕の体力で撃てる限りだけど』

『お前、そんなに献身的だったか?』

『勘違いしないで、アンプルール先生に会うまでは終わりたくないだけ』

『……ハーシェルがそっちに向かうだろうから、適当に合わせろ』

『えぇ、嫌だよそんな気を遣うの、加害半径に入ってたらアイツごと構わずやるね』

『好きにしろ、お前が不利な状況だけ作らないようにすればいい』

『グレン相手だと、僕でもせいぜい持って2分程度だから、期待しないでね、じゃ、準備するから、そうだ、ねぇカイト、僕を絶対にアンプルール先生に会わせてね』

『分かったよ、俺が持てばな』


 俺は一人で生きているんじゃない、支え合える仲間がいて、前に進めているんだ。今、胸の奥に感じるこの感情は何だろう、初めてかもしれない。


 転生して10日ばかりで追跡者グレンと遭遇してしまい、思わず震え上がってしまう程の、過去最悪の状況で勝機も打算もへったくれも無いにも関わらず、俺はとても前向きになれている。


 そうか。


 これが、この思いは、これこそが。


 勇気なんだ。


 立ち向かっていこう、そう心に決めた。


 遥か遠方と思わしき方角から、既にブラモスの矢が炸裂しただろう爆音が轟いてきた、既に仲間達による犠牲的な時間稼ぎは始まっている。


 俺は砦街各所にある血溜まりを一斉に回収しようと両手を空に掲げると、そこかしこから血柱があがり、放物線を描き、俺の頭上に集結した。


 巨大な赤黒い血液の球体から真下へ放出される濁流を顎を切り裂いて飲み干さんと吸収し続ける。


 4000


 4200


 4500


 4600……


 5000……


 5100……!


 遠くの残響の激しさが薄らいでいく、もう時間が無い。


 巨大な血球の最後を飲み干し終えようとした直後、一筋の雷光が頭上を払うと、最後に残った血を蒸発させられてしまった。全てを飲み干す事は出来なかった、彼らが残した時間をもってしても足らなかった。


 五千と数百人分程の血、今集められる最大量ではあるものの、奴と渡り合うには桁一つ足りない事は明確だった。


 それでも、やるしかない。

 焼け爛れる街路の向こうに一条の落雷。

 そこに立つ影は俺へゆっくりと歩みを進みはじめた。


 その男、追跡者グレン・アシュフォワードは姿を現した。


 残った3人の内、最強の存在。


 幾度の転生で仕留められずにいた、雷鳴の義勇兵。


 共食いの塔の女王である、血の使者、ザウバー・オルセン抜きでは到底勝負にもならなかった存在。


 奴が右手に握る一振りの長槍、エフィギアの槍は喋りだした。


「くぅぅぅぅだらん腰抜け共だった、話にもならん、グレン……今この時、この瞬間を逃すな、次などもう残されていない」


「グレン、お前にはこの因果を決するのにまだ仕事がある、終わらせろ」


 グレンは槍の語り掛けに対し黙したまま、歩みを進めて俺と30m程の距離で足を止めた。


 奴は、俺を見開いた両目で網膜に焼き付けんと睨んでいる。


 その黒髪は、吹き荒れる火災を背後に揺れていた。


 口を開いたのは奴からだった。


「女神アルハンブラ・カラが従えし不浄の血溜まり

 悪逆無道の限りを果てまで尽くし

 溝泥の血で地平まで染め上げ続けた手前の1000年

 この刻を以て封殺を決する

 無限彼方の封印懲役でその魂魄を消し炭とし

 因果の螺旋を自らの魂で崩落させん」


「ルシール……ラトナ……もう直ぐそこから解放させてやるからな、今ここで終わらせる」


 奴の口上を聞き終えた俺は、噴出しそうになってしまった。


 こいつ、何も分かってねぇ。


「グレン、お前はいつまでそうして俺に執心してセコセコと這いずっているんだ、お前も体良く利用されているに過ぎないし、仮に俺を始末しても終わらない、それに成敗なんて甚だ見当違いだ」


 だからさ、こうやって説教を垂れてやるんだ、柄でもないけど。


「罪とは法で、罰とは力だ。

 法には力が、力には法が必要だ。


 俺に敵う力があるか? 無いだろう、なら罰は与えられない。


 俺を従わせる法があるか? 無いだろう、なら罪に問う事は出来ない。


 俺にはさ、罪も罰も存在しないんだよ。


 だが俺にはお前らに与えられる罪も、罰もある。

 お前らが俺の力に敵うか? 敵わないだろう。


 お前らが俺の法に逆らえるか? 逆らえないだろう。


 なら、俺の力こそがお前らにとっての罰になるだろう。


 なになに? それじゃあんまりだって?


 それならせいぜい、最期の一時まで大人しく従えない自分を呪い続けろ」


 奴は折角の説教をどこ吹く風のように聞き流し、閃槍を振り直して構えると、心当たりもない名で俺を呼んだんだ。


「神話において力とは常に神の象徴であった、エフィギアの槍はルシールより速い、カイト・デッシーカ、槍を抜け」


「なんだよ、その名前。殺るぞルシール、血の時間だ」

打ち切りエンドとかはしません。

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