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32回目の転生  作者: NAO
血の転生者
28/32

#28「視程外戦闘」


 太陽の光は熱く照りつけ、微風は涼やか、レンガを砕いたような塵だけが少しばかり舞っていた。


 身体を半身にして、ゴーントリトを群青へ掲げた。

 ギョロリギョロリと目玉を回すアッダーの矢を弓へ番える。


 焦らないでね、アッダー……すぐ空へ放ってあげるから。


 矢の尾部を弦に乗せると自然と僕の右手は軽くテンションを与えた。

 この瞬間はいつもいつだって心躍る、軽やかな緊張がこれから始まる僕の時間を明確に身体全体へ伝えるんだ、隅々までね。


 そして既に戦いの火蓋は切って落とされいて、それに気付いていないのは空中移動体であるドラゴン、ダハーカ……キミだけだよ。


 徐々に弦へ与えるテンションを高め、弓の両端にある滑車がギリリと音を鳴らしつつある中で一つ疑問を覚えた、疑問というより違和感に近い。


 カイトからは許可があるまで反射眼を使うなと言われていた、予想ではダハーカがこの街へやってきて、炎か何かで街を吹き飛ばした後に僕がダハーカを射るんだ。そういうつもりだった。


 だから少しでも僕の位置を相手に気取られないように、僕もダハーカが街を焼くまで反射眼を使うつもりは無かった。


 なんだろう、この違和感は。


 時速800kmで接近している空中移動体は、本当にダハーカなんだろうか?


 ……いいや、約束破っちゃおう。

 どうせカイトとの約束なんて塵より軽いんだし。

 でも僕は事前に約束を破るって伝える事にしたんだ。

 僕だってそれぐらいは律儀というかまじめなんだよ。


『ねぇカイト、まだダハーカは接近してないけど約束破るから、反射眼使うから』

カイトがいると思われる方向に絞って信号を送ったひと間の後に彼から返事が来た。


『なんで?』


『さぁね、根拠は無いけど確かめたいんだ、好きにさせてよね、どうせ僕の戦いなんだし』


『……空中移動体がダハーカじゃない可能性があるとでも?』


『そんな感じ』


『任せた』


 任せただって、仮に空中移動体がダハーカじゃなかったらどうするつもりなんだろカイトは。そしたら僕の戦いじゃないからパスしよ。


 群青へ掲げた弓の射線より少し下方、視界の中の一点、青空がグラデーションと共に灰色へ揺らめく地平線の向こうにある高空へ両目を集中させる。


 可変パルスの高周波ビーム走査。 


 1000km先の小鳥すら暴く、僕の奥義と言ってもいい。


 眼球の内部、瞳孔がぐるりぐるりと動き回っているのを感じる。


 光の3原色で構成された視界はやがてモノトーンに近付き、輪郭を持って象られた景色はやがて波模様のシマシマへ変貌していった。


 遠く、より遠くを掻き分けるように、絞り込むように、反射眼のピントを調節していく、僕の眼球の周囲に存在する筋肉が痙攣に似た感触を覚えたその時。


 モノトーンの波模様の中に見えた空中移動体の姿は。


 ホウキ?


 とても小さい。


 2つ? 


 2体?


 ちがう、あれはドラゴンじゃない。ダハーカなんて見たこともないけど、絶対にあれは違う。


 長さ6mぐらいの棒状の物体で後部はホウキのようにトゲトゲがいくつも伸びた、何かだった。それが2つ。


 速度は時速1100km……最初よりかなり加速している。

 高度は2800m……この地へ向けて弓なりの軌道を描いているようだ。


 それを目にした直後は、まさか騎兵族の矢かな? と思ったけど、これは明らかに違う。こんな形の矢は存在しない。


 さぁ考えろ、考えるんだ。このホウキの正体。


 そして距離だ、あの速度ならもう数分と経たずこの地へ落着する。

 大事なのはあのホウキが砦街へ向かっているのか、それとも僕を狙っているのか……。


 僕と砦街は20km離れているとはいえ、あのホウキから見て砦街と僕の位置は殆ど同じ場所にいると言ってもいい。


 それなら全力で砦街から離れればいい、反射眼を当てながら全力で1分間駆け抜けて5~8km移動して、それでもホウキは進路を変えなければ砦街だ!


 そうじゃなかったら、進路を変えたら僕狙いかな?


 やってみろ!

 

 ゴーントリトの弓も、アッダーの弓も持ったまま身を屈ませ前傾姿勢を取った。少しでも空気抵抗を減らすフォームだ。


 すると僕の下半身を鎧のように覆う筋肉の数々は次々と野生を剥き出すように隆起し、4つの蹄が褐色の大地を削り上げ、ぐんと加速した。


 行くよ、スラヴァ。駆け抜けよう。


 蹄が地面を蹴り上げる度に前方へ向けて200mを浅く飛ぶように滑空し前足でクッション、その直後に後ろ足で更なるジャンプだ、この駆け方は殆ど地上スレスレを脚力だけで滑空しているようなもの。


 僕の下半身、スラヴァは今日も絶好調だ。


 前傾姿勢だった上半身を更に屈めて前方投影面積を最小に、弓と矢を持った両手をお腹辺りに抱え込み、正面へ突き出す僕の頭部で空気の壁を突き割る。


 高まる心拍、耳を掠める轟音のような風切り音と、地面を蹴り上げる連続音ばかりが身体中を木霊する全力疾走。


 走っている間に考えたんだ、2度の低帯域パルス波と共に現れた2つの空中移動体、最初はあのホウキがパルス波の発信元だと思っていたけど。もし違うのなら……。


 さっき僕が、ダハーカがいると思った方に向けて照射した反射眼には2つホウキの姿しか無かった。


 つまり、あのホウキはただの発射体だとすれば……。


 だとすれば本命のドラゴン、ダハーカは……。


 よし! ぴったり一分間だ!


 馬車を横滑りさせるようなブレーキング、400mは滑り抜けただろう。

 背後には駆け抜けた後の地割れのような砂埃の壁が立ち上がっていた。


 ぱんぱんと足をはたいて砂埃を落とし、もう一度反射眼を照射。

 あのホウキは進路を変えず砦街直行コースだ。

 さよならばいばい砦街。

 最後までほとんど立ち寄らなかったけどね。


 落着まであと1分少し。


 そのまま反射眼を地平線へぐりんと向ける。

 最高に集中したんだ。微かな影も見逃すものかって。


 輪郭を失った波模様の景色の中に、一瞬だけ、ほんの少しだけ影を見つけた。


 最初に感じた低帯域パルス波の発信元とほぼ変わらない場所に、木々や岩肌等では決して浮かび上がらないシルエット。


 ……なんだろ、変な形だなぁ。


 翼とも言えないような物が放射状にバッテン印を描いて、その中心からヒョロリと細なが~い一本の尻尾が生えているんだ。大きさは……この距離じゃ曖昧だけど精々80mくらいかな?


 花弁のような4つの羽と、曲がりくねった茎みたいな細長い尻尾。高山に咲く細身の花によく似たのがったかな。


 カイトと一緒にいろんな世界を見たけど、こんな骨格のドラゴンは初めて見たよ。


 異形のシルエットに足のようなのは見当たらなかったんだ。

 あの尻尾で工夫してるのかな?

 

 どうでもいいや、距離にして400km……。僕の射程内だ。

 ここからならブラモスで届くかな。


 僕自身もあのヘンテコリンの射程内だけど、どうやらあいつは僕の位置を暴けないようだし。僕の勝ちだということだ。


 最初の2回の低帯域パルス波はあのヘンテコドラゴン、ダハーカが放つホウキの着弾地点を探る為だけのもので、きっとホウキを発射する度に発するんだ。そして様子を見る限り連続して標的を追跡する力も、詳細に物体を判別する事もできない粗製みたいだ。


 あのダハーカがお腹が空いた時の行動は、つまり獲物の群れを仕留める時には遥か遠くから粗製のパルス波で着弾地点を探った後にホウキをいくつか放つ。そのホウキが落着した後に、のんびり飛来して粉々になったであろう獲物をもぐもぐ食べるっていうのが一連の流れになるのかな。


 うん、きっとこんなとこだよ。


 だとしたら僕がやるべき事は、ホウキが砦街に落着した後、群衆をもぐもぐしに飛来してきたダハーカを横からアッダーの矢で貫けばいい。


 右手に握られっぱなしで放たれる時を待つアッダーの矢を眺める。


 仮に僕がダハーカに見つかったら、お互い目で見える距離で撃ち合うのかぁ、至近距離での戦いは少し不安だけど、どうせ僕が先手を打つだろうし十中八九、僕が勝つだろう。


 至近距離で僕が放つストレラの矢は、何よりも速い。絶対の自信がある。

 じゃぁしばらくまた " 待ち " になるのかな、昼寝の続きでもしようかな。


 僕は反射眼であのホウキを見つめながらそんな事を考えていたんだ。

 そしてふと反射眼を開いたまま青空を見上げた時。



 空には、僕の真上にはあのホウキが10……30発見えた。


  

 しくじった。


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