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32回目の転生  作者: NAO
血の転生者
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#2「リリーヤという女」



 2日目の朝、ん――っと気持ちのいい目覚め。岩石地帯にぽっかり空いた縦穴の寝室だけど隣には眠る美女。昨日の疲れはなんのその、長距離移動による傷はもう癒えていた。


 朝食を摂りながら婦人と話をしていた、もう腰縄も拘束もしていないし逃げ出す様子は無さそうだ。

俺が目をやる度に恐怖で失神しそうにしてるけど、彼女から色々と身の上話を聞けた。彼女の名前は「リリーヤ・レイテル」どうやら商家の娘だそうだ。


 事の顛末というと。ライバルに商売を潰され、命を狙われ、一世一代の大逃亡を行っていた所を俺に襲われたそうだ、あの女剣士はリリーヤの幼馴染の名剣士だそうで、この逃亡劇の護衛を無償で買って出たようだ。もう無駄だけどね。


「……私を、い……いつ殺すの?」


 彼女は怯えながら口を開いた。


「なんで?」


「あなた、グラント家に雇われた殺し屋なんでしょ?」


 んーまだ誤解してるようだ。弁明や説明に時間をかける余裕も意欲も無いし、どうとでも思ってくれてて構わない。俺の半生を語ろうにも昨日の一日分しか無いし。


「俺は雇われの殺し屋でもないし、お前達一行に恨みも因縁も一切無い」


「っ! ……たまたま、あなたの……目の前に……いた……だけだというの? ……」


 どうして……そんなの……酷すぎる……と言わんばかりにリリーヤは咽び泣く。自分でやっておいて言える立場じゃないが、不憫すぎる身の上だ。目の前の食事にも一切手をつけていない、そりゃそうか。


 腰からある物を取り出し、手の平の上で彼女に見せた。


「その髪留め……お願い! 返してっ!」


 すっと手を上げて彼女の手を払う。やっぱ大事な物だったのね。


「条件があるよ、今から俺の血を飲め、それは血の契約だ」


 目をまん丸にしたあと、疑いのこもった鋭い目付きで俺を睨む。


「それってどういう意味なのよ」


 俺は箇条書きの文章のように淡々と説明をした。


 血を飲めば、俺は簡単に君を殺さないし、殺せない。この俺の力も一部付与されて影響される。多分その辺の奴に襲われても簡単に撃退できる。滅多に病気にならなくなるし、身体も頑丈になる。


 だけど、君は俺と一蓮托生で協力していかなければならない。


 協力と言ってもリリーヤが世間で知ってる事を俺に教えてくれればいい。


「もし、ぐすっ、ぅぐ、血を飲まないって言うなら、どうするのよ……」


 もう、こんな奴と一秒たりとも一緒にいたくないのに、一蓮托生なんてあんまりだ。と言わんばかりの悲壮感がこもった口調で返される。


「もういらなくなっちゃうから、ここで首を撥ねる」


 その回答に彼女はうつむき、キっと歯を食いしばってスカートの袖を両手で強く握った。さっさと答えろよ、お前の選択肢は餌食になるか従うかだ。


 あと、その時は血をおいしく頂くよ。俺は若い女の血しか飲みたくないのだ、野郎のなんか口も付けたくない。


 そして、意を決したのか蚊の鳴くような小さな声で「わかったわよ」と言った。なーんだ、こんな素直な奴なら昨日襲うんじゃなかったな。普通に恋愛ごっこして契約させれば良かったかな。でもさ、転生した肉体で初めて経験する射精って凄い気持ちいいんだよ。もうソレを知ってたらさ、ガマンなんてできないじゃん。


「じゃ、よろしくね、口を開けて」


 俺は右手首を石器の刃物で切り裂き彼女の顔に近付ける。結構痛いなぁ、やっぱ記憶的な経験と肉体経験は別なんだ。


「どれぐらい飲めばいいの?」

「俺がいいと言うまで」


 多分、泥水や小便の方がまだマシと言わんばかりの苦悶の表情を浮かべながら、俺の手から垂れる血液を飲み始めた。


「んく、んく、ん、ごく、、、ぅえ、、ごく」


 やった、飲んだ。


 すると、まだ飲ませるの? いつ終わるの? という目で俺を見る。


「垂れる血を飲むより、口を付けて吸ったほうが早いよ」


 空気に露出してると傷口塞がっちゃうしね。輪を掛けて嫌そうな顔をした後。意を決してリリーヤは俺の右手首の傷をあむっと咥える。


「じゅる、、ん、ずず、んく、ぉぇ」


 えずきながらも、俺の手首をリリーヤの薄桃色の唇があむあむとしている。


 たまにガリっとした感触にイラいて歯を立てるなよと言いかけるが、やめる。たまに傷の中にリリーヤの舌があたる、くすぐったい、あ、これ気持ちいいわ。それと些細ながら契約について一つ説明していなかった事を伝える。


「昨晩、お前を強引に抱いたけど、あれもある種の契約に準ずるから」


 少々種類や目的は変わるが、精液でも血液のように契約させる事が出来る。結果的に彼女はダブルセットのスペシャル契約だ。


「ぉえ! ゲホっゲホっ……うぐぇ」

「吐き出したら、また飲み直しだよ」

「っ! ……んぐ、ゴク…ひっく、ぐす……」


 10分程飲ませただろうか。

「もういいぞ」


 一通り飲ませて俺の気分も満足した所で解放してやる。あ、ちょっと俺の逸物がおっきくなってる。ようやく終わった、という顔で顔を赤らめていたリリーヤは息を整える。が、俺の股間の異変に気付くと真っ青になった。

 

「お願い……、今は、もう、やめて……下さい……今だけは……」


 震えながら渾身のお願いだ、たまらなくイヤなのだろう。

 傷つくなぁ、俺結構ナイーブなんだよ。


「出血で興奮して勃起しただけだよ、そんな怯えるなよ」


 出血で興奮というワードに困惑したのか、更に恐れが張り付いた表情になる。結構普通の肉体反応だと思うんだけどな。

 

「あと返すよ、この髪留め、俺はいらない」


 ポイっと放物線を描いてリリーヤの両手にぽすっと収まる。その髪留めをただ無言で、リリーヤは大事そうに胸に抱いた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 街が見えてきた。


 今朝のキャンプから馬車を出発させて4時間程移動した。地平線に見えるのは蜃気楼に揺れているが、間違い無く、街だ。地図上の位置関係とも一致する。


 荷馬車の彼女に伝えるが幌の向こうから返事は無い。多分深い眠りについたのだろう。あれだけの血を飲ませたのだ、変質に順応するまでずっとこのままだろうな。もう、これでリリーヤは俺の思い通りだ。


 しかし、ん~、困った。門が見える位置まで来たはいいけど、コレ通行手形みたいなの必要なんじゃないかな? 俺の馬車より前を行くグループの数々は門の前で守衛と長々とやりとりした上でようやく門が開いて中に入っていく。


 無理矢理、力を使って強引に入れなくは無いけどこんな所で騒ぎは起こしたくないし、ここは気温がそれほど高くはないしリリーヤが起きるのを待とう。


 そう決めた俺は門へ続く街道の一本木の下で馬車を止めた。血みどろの幌布を通り側から避けてね、通りから一見するとなんの変哲も無い荷馬車だ、反対側から見ると見事な殺人現場。


 荷馬車の後ろに回って中で眠るリリーヤの様子を見る。美しく白かった健康肌が、いまや赤くどす黒く全身が変色していた、そして彼女の身体を巡る血管はオレンジにぼんやり光り、息は熱病に侵されたかように細かくハッハッと小刻みに繰り返している。


 うん順調だ、あと2時間ぐらいで落ち着くだろう。


 サッっと幌を降ろして、街道を行く商人連中に中身を見られないように隠した、俺はというと木陰で休憩しながら魔力のトレーニングを始めた、転生直後の身体はまだまだ脆弱で、しばらくは魔力というものに頼らざるを得ない。


 こんなゴミ、使えるのは最初のウチだけだ。


 とりあえず昨日作った石矢の他に、持ち運びやすいのをいくつか作りたい。その辺の手ごろな石ころを物色し、親指大の大きさでドングリを細めたような形状を目指す。


 一つ目の試作品が出来た、硬さといい表面の滑らかさ、この質量。材質が岩石なのが心許ないが、初速を高めれば50cal BMGと同等の威力を持つだろう。昨日の石矢で初速は充分に出せる事が証明できたが。慣れない身体でこれ程小さい物のコントロールや精度がやや不安だ。


 最初は3発ぐらい纏めて発射するか。

 そう考え、21個、同等の石弾頭を作り上げた。


 こういう物を作ってしまうと何かに使いたくなるのが性というものだがぐっと堪える、無駄な消耗は避けるんだ。……やっぱやめた、手元にある拳大の石を高く放り投げてクレー射撃の要領で空中に石弾頭を3発同時に放った。


 キンッ! パァァァァンッ!


 空を切る発射音と共に、宙を舞う標的の石は粉々になった。申し分無い威力と精度。集中力さえ失っていなければ、充分にどの距離感でも使える優秀な武器になった。他の魔力の使い方も研究した方がいいじゃないかと思うが俺の過去31回の転生を振り返った経験から言わせて貰おう。


 物理最強。

 基本的には自然科学を再現するような魔術を指す。


 制約だとか契約とか特殊なルールを課すような例外を除いて攻撃において物理が最強。極めれば少々の工夫で結界やシールドなど意味を成さず。射線上にあるものなど、無いも同然の威力を持つ。


 まだ転生を始めて何度目かの時、魔王を葬った方法は全長40mを越える金属を魔力で加工し、とびっきり魔力を充填。俺の血だるまになった魔術師を本体の誘導に利用し。さらに核分裂反応と類似した現象を再現する魔方陣を1000枚は積層、最適なタイミングで発動させるように工夫した。


 要は弾道弾だ、細かく言うと発射をバレないようにする為。ドラゴンに空輸させて空中から放ったからALBM(Air Launched Ballistic Missile)だけど。


 当時の大国の王様やら有数貴族やら勇者様御一行も驚愕していたよ。何千キロも先の空中から放って宇宙を跨いで最終速度はマッハ12に達していた。終末誘導や観測方法に面倒と犠牲を払ったが、あれは凄まじかった。


 着弾する瞬間は一条の光がスッっと魔王城に差込み、直後に炸裂。中心部の温度は観測不能でさ、爆心地のその後はと言うと、直径100kmを越えるクレーターと大きな湖と化していた。


 ちなみに当時のお仲間達には魔王城の近くの砦で魔王幹部共とじゃれあってもらってたんだ。当然、彼等は蒸発したよ。結局さ、どれだけ強かろうが、認識外から音速を越える正体不明の攻撃には防御も反応もままならずお手上げなのだ。


 だから俺は初めに石矢や石弾頭の習得から始めるのさ。街に入ったら材料になる金属を手に入れよう、タングステンに匹敵するようなモノをね。


 



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 トレーニングから数時間が経過した、荷馬車の幌を捲りリリーヤの様子を見る。肌の変色や血管の発光は治まり、白く美しい彼女に戻っていた。息も深く安定している。


 感覚を彼女に集中し力を込めると彼女の身体感覚を得られた、彼女の目が見据える視界、衣服の感触、臭い、砂の上をそよぐ風、五感をジャック出来ている。よしよし上出来だ。リリーヤ、お前は中々素質がある。


 頬をぺしぺしとほんの軽く叩き、彼女を起こす。自由に契約者をコントロール出来たとしても、俺は基本的に必要迫られた時にしかしない主義なんだ。


「ん……寝て……いたの……?」

「あぁ、そうだ、もう街の目の前に着いたよ」


 眠りから覚めた彼女の目に、俺に対する恐怖や抵抗は無かった。


「聞きたいんだけど、ここの門をくぐるのに、何か通行手形とか書類とか必要?」

「あぁ、それはね、この書簡があれば通れるわ」


 よし、門番へのやりとりは任せた。ボロ切れのガキより女の方が警戒されないだろう、幌布の片側を反対側へ捲り返して血糊を隠した。流石に門番にこんなものを見られたらその場でトラブルになってしまいそうだ、上手く隠れた血糊を確かめた後、手綱をハイヤァ! と叩き馬車を動かす。


 彼女は門番といくつか問答した後に門が開かれた。門の向こうは思ったより活気があり、大きな砦街が広がっていた。直径30kmぐらいだろうか? 街を囲む外壁円周の3箇所に砦が存在し、中心部分は城ではなく時計塔がそびえ立つ。


 目を凝らして時計台の文字盤を見ると24時間表記、なかなか珍しい。という事は1Gで1日24時間という事は、この惑星の直径、質量や自転速度も地球とほぼ変わらないという事か。


 大陸図や気候、高空の風向きはきっと現世と大分違っていそうだが。これなら弾道計算も大分ラクだ。やはり、思ったとおり、知ったとおりというのは安心感がある。


 俺がふむふむ勝手知ったという様子を彼女は不思議そうに眺めている。


「ねぇ、今日はどうするの? 買い物? 夕飯? 先に宿を決めるの?」


 昨晩自分を襲った人物に対する問いかけには到底思えない口振り。


「宿が先、その後にこのボロ切れをどうにかしたい」


 彼女は、うんと頷いた。


 門を越えて少しの所に馬小屋と馬繋場があったので、そこに馬と馬車を預けて係りの者に彼女が銀のコインを一枚渡す。


「あのコイン1枚で何日分預かって貰える?」

「今日から7日、1週間分ね、あなた、ほんとに何も知らないの?」


 はい、全く知らないのですよ。


「そうさ、つい先日生まれたばかりだから」

「冗談やめて」


 そこで彼女はハッとしたように口を開いた。


「あなた、名前はなんていうの?」


 名前、名前、なんて名乗ろう。なんて答えよう。何度も転生を繰り返したというのに、こういう所は抜けている。


 どうしようか、正直に言おう。


「名前は無いよ、本当さ、リリーヤの好きに呼んでよ」

「クソ野郎って呼ぶけど?」


 クソ野郎、その呼び方の中には不思議と憎しみを感じない、今朝とは大違いだ。


 これが、血の契約。その威力だ。

 

 しかし今後ずっとクソ野郎は困るので別な名前にして貰う。


「悩むわね、宿に着くまでには考えておくわ、それまでは"あなた"と呼ぶわよ」

「うん、お願いね」


 うん、リリーヤとは上手く過ごしていけそうだ。彼女にはそのうち俺の子供、デコイを沢山産んで貰おう。ダブルセットのスペシャル契約だからね。




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