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32回目の転生  作者: NAO
血の転生者
13/32

#13「東の丘陵で呟く」



 我が物顔でこの地を照らし、炎の結晶が、核融合エネルギーの巨塊が南西へと沈んでゆく、それは月に追い立てられ、迫りくる夜には逆らえない。太陽の敗北はいつ見ても美しい、北東には勝利に沸き立つ夜を象徴する女王と星々が姿を現し始めていた。



 そんな毎日の天文ショーに今、俺はほんの少しだけ慰められる。俺は東の丘陵地帯へ再び足を運んでいた、少々苛立ちながら。なにが悔しいって、この異世界へ来て一週間も立たないが認めざるを得ない自分の弱さだ。


 転生直後の身体や血の力は非常に脆弱だ、それは毎度の事であるにしても。この前の戦闘は自分へ失望してしまう程の無様さだった。


 まだ全然と言うほど血が足りていない。

 ルシールの槍は音速すら越えず。

 槍を"見てから"回避されていた。

 ゴミのような防御魔術で軌道を逸らされ。

 俺が振りかぶる徒手の威力は標的の物体弾性限界は迎えなかった。

 本来ならダリルという男は殴られた時点で液状化して吹き飛ぶはずだった。

 おまけにその木っ端兵如きに走らされる始末。


 ようやく、シータを顕現させる事が出来たが今はそれで精一杯。こんな状態で追跡者と遭遇したら反撃の間もなく封印されてしまうだろうな。


 俺と追跡者達の戦いは異世界という異世界を跨ぎ過去30回を越え。

 その中でお互いの数を大きく減らしていった。

 追跡者達は多い時期で80人余りいたが今やたったの3人。

 血の使者達は60体以上の勢力を持っていたが、今はリリーヤを加えて古株だけの5体のみ。


 残った追跡者の3人の内、2人は中でも群を抜いての最強格だ。

 過去幾度と無く苦渋を舐めさせられ、決着が着かず仕舞いの2人。

 "雷鳴の義勇兵 グレン"

 "稜線の駿馬 アルタイル"



 奴らは"とある女神"からプレゼントを受け取っている。

 くそったれなプレゼントだ。

 グレンは槍を、アルタイルには矢を。

 一撃で血の使者を滅し、一刺しで俺の封殺を可能とする女神の武器だ。


 それら特注のプレゼントは追跡者達1人1人が皆持っている。

 だがいいんだ、それはな。

 そんな確殺の武器をいくら手にしていようが、技術が追いついていなければ傍らにすら届かない。


 だが残った2人についてになると話は別だ。


 元々化け物じみている2人が、こんなものを持っているからには手の付けようが無い。


 ザウバーを顕現させるまでは、に限るが。


 基本的に俺と追跡者達との戦いの流れはこうだ。


 俺が異世界へ一番乗りで転生し、しばらく後に前の異世界で俺がばら撒いた"デコイ"を掃討し終えた追跡者がようやくやってくる。


 それまでの間、俺は可能な限り多くの血を吸収し、溜め込んだ血のエネルギーと引き換えに血の使者達を顕現させる。


 時間が経過し、その使者の数が多くなればなる程に追跡者達の勝利は遠のいてゆく。そして吸収した血の力を俺が蓄えれば蓄える程に、俺は強力になってゆく。


 長期戦になればなる程、俺が有利に。

 短期戦になるほど、追跡者達が有利に。


 だが俺にはジョーカーカードがある。


 血の使者1体を顕現させるに必要な血の数は概算で100~500人分。シータやハーシェルがそんな所で、アンプルールを顕現させるには少々多くなり数千人分が必要だ。


 だが1枠超えた存在がいる、"血の使者ザウバー"だ。


 コイツを顕現させるとなると骨が折れるといった話に留まらず。数10万人分単位で血が必要となる。


 コツコツ貯めるには時間が掛かり過ぎ、一気に集めようとすると悪目立ちして追跡者に見つかる。


 まったく厄介に尽きる。だがザウバーの強さは隔世的だ、1枠といったが2枠、3枠と飛び抜けている。こいつさえ顕現させる事が出来れば、まず俺の勝利は確定と言えるだろう。追跡者達との戦いは概ねそういった運びだ。



 だから、この俺にはもっともっと、沢山の犠牲と血が必要なのだ。



 ふと、長々とセオリーを振り返っていると丘陵地帯に到着してしまった。なぜここに来たかと言うと3つやる事がある。


 今からやるのがその1つめ。


 蛇竜ブッシュヴァイパーを根絶やしにする。

 あいつらは"おいしい"、1頭で5~8人分の血力になるんだ。


 欠陥品レーダーを振り回し、奴の影を探る。

 念入りに、欠陥品に映る影を見逃さないように…。


 ……いたいた、700m程先で1頭の蛇竜がズルズルと滑るように動き、首を傾け俺を発見した。どうやら俺の様子を伺っている、逃げるか、襲うか、その判断を俺の動きで決めかねているようだ。


 大きさは……50m級か、いい的だ。


 さすが赤外線を知覚するだけあって蛇竜の索敵能力は優秀だ。だが見えていても、それに伴う攻撃能力が無ければ何の意味も無い。


 ポーチから1本の金属の延べ棒がするりと抜き出て、宙に浮く。


 血力を魔力へ変換し、フレシット弾にじっくり込める。

 魔力でガイドレールとちょっとしたチャンバーのような役割を持つ力場を作り出し。


 チュオンッ!っと射出した、一味違った風切り音。


 よしよしいい初速だぞ、秒速900mぐらいにはなるだろうか…丁度ライフル弾程度か。


 高初速で発射されたフレシット弾は、こちらを見つめる蛇竜の反応を待つ事無く。微動だにしない奴の頭部を粉々に吹き飛ばした。


 さてさて、おいしく頂こう。

 それとフレシット弾の状態はどうなっているかな~と。

 小気味良いステップで着弾地点へ向かった。


 直径1.5m程ある大物の蛇竜の首は見事に吹き飛び。首の付け根辺りや、転がっている肉片の一部はジュウジュウと音を立て焦げ着き。


 周囲に目を凝らすと溶けたフレシット弾の破片が煙を上げている。上々の結果、それは莫大な運動エネルギーによって物体が持つ弾性限界を迎えた事を意味する。


 こんな調子で夜空の下で鼻歌混じり、月に照らされスキップも少々。フレシット弾6本と石矢、石弾等を全て消費するまで蛇竜を狩り尽した。


 するとなんだ?

 欠陥レーダーに1つの小さい影を見つけた、距離にして1kmだ。


 1人の男がキョロキョロしながら、警戒しながらこの丘陵を歩いている。

 たまらずスキップしなが近寄り、声を掛けた。


「こんなとこでどーしたんですか?」

能天気でアホみたいな問い掛けだ。


「………君こそ一体なにをしているんだ……」

そりゃそうだ。その男は長剣を背中に、十字の機械弓を携えた30台過ぎのナイスガイだった。


「僕がマネージャーをしている調査グループが帰ってこないんだ、だから不安でたまらず、現場まで様子を見に来ている。今日は不思議な事に蛇竜が一頭も見つからないが……。君は……小さいけど1人でここにる位だから少しは腕が立つんだろう。他に誰か人を見つけなかったかい?」


 あぁなるほどね、そうすると調査グループはコイツで最後か。他にも人がいるなら徒党を組んで見回りをするだろうし。


「いーや、昨晩の人は皆いなくなったよ、今日はあなた以外は見ていない。それよりもいろいろ聞きたい事があるんだけどいい?」


 今日はね、昨晩はそらもう賑やかだったよ。


「いいや、僕も君に聞きたい事がある、そのローブ……どうしたんだい?」

「いいよ、着いてきな」



「なん……なんだ……これは……おいお前! なんて事をしてくれたんだ! 蛇龍の数が減れば! 街にダハーカが接近してしまう!」

 無残に転がる5~6頭になる蛇竜の残骸を見て男は顔面蒼白だ。


「いやいや、俺は構わないし、おいしいからさ、コイツら」

 残さず頂きたいのだ、俺はね。


「あと昨晩は30頭は頂いたよ、あと6人の男女もね」

「お前……お前が皆殺しにしたのか……」


「そうさ」

「どうして……何故……あぁ……あぁ……ヴィーラ……」


「僕を一体ここでどうするつもりだ?…と、いっても決まっているか……」

中々どうして理解が早い男だ、この男は俺に散々ありとあらゆる魔術を掛けている。拘束したり、痺れさせたり、まぁそんな類の魔術だ。だが風に吹かれてさえいないように振舞う俺を見て力量差を目の当たりにしたのだろう。


 血の力の前では魔術なんておままごとなのさ、それにしてもその魔術の数が多すぎて鬱陶しい。


「どうして欲しい? ついでに教えるとミリアとかいう女は生きているよ」

「本当か!? ミリアは生きているんだな!?」

「あぁ、ミリア"だけ"はね、砦街の半径50kmを時速数100kmで周回しているよ、きっとね」

「………なんなんだよ……それ……」


 自分で言っておきながら突拍子も無いと反省する。人間ではなくなっている、以前までのミリアではなくなっている、という事ぐらいは気付いたようだ。


「だからさ、色々教えて欲しいんだけど、あの北洋保の2人は砦街であれだけ?」

「……この砦街の駐留員は2人だけだ、まさかあの2人も、お前が……」

なるほど、これ以上ここが賑やかになる事は無いようだ。


「もちろん、準備運動に付き合ってもらった後はおいしく頂いた」

「ははっ、あの2人でさえもか……大変な事に巻き込んでしまったのか……俺は……」

 思えば、この男は中々聞き分けがありそうだ……腕も立つのだろうか、ん~どうしようか。だが今回の転生はいわば決戦、中途半端な奴だったらいない方がマシだな。


 やはり契約はやめだ、頂こう。


「話は終わり、じゃあね」

男は死期を悟り、俯いて口元を震わせながら女の名前を呟く。


「あぁヴィーラ……ヴィーラ……ヴィー」


 あ、やめだやめだ、こいつには使い道がある。もう少しだけ生きていて貰おう。


「お前、名前はなんだ?もう少しだけ生かしてやる理由が出来た」

「フランツだ…俺に、どうしろと…」


 俺は指をぎちりと噛み、裂いた。

 フランツは俺の指と顔を交互に見てダラダラと血を垂らしている様に困惑している


 こうするんだよ、そう言って俺はフランツの口に指を突っ込み、強引に少量の血を飲ませてやる。フランツの目から光が無くなり、パタリと倒れた。コイツにはしばらくこの丘陵で待ってて貰おう。そして、リリーヤの殺傷能力をコイツで実験してやる。





 一通りの死体を一箇所へ集め、血の池へ沈めて元通り。あの男が持っていた長剣と機械弓はちょっと興味があるので拝借する事に。よしよし、蛇竜もそこそこの数、中々いい質の血だった。


 2つ目の用事をこなすか。


 腕を裂いて1人分の影ぐらいの面積を作るように血を地面へ撒く。そのぽつんと残っている血溜まりへ右腕を突っ込んだ。おらおら、とっとこ出て来い、お前がいないと何もはじまんねーんだ。


 んー中々反応が薄い。

 より強く血力を加え、血溜まりの中を手で漁る。


 そいつは血に沈む俺の手首を掴んだ。

 俺はそいつの手首を掴み返した、互い違いに握る堅いグリップで。


 ふと過去を思い出す、俺の高校時代を。

 こいつと過ごした華の高校生活だ、今でもその時の暮らしは俺の精神的支柱となっているんだ、本当に楽しかったんだよ。自分の事がもっと好きになったんだ。


 初めての科学と資本の異世界で、俺はこいつと出会った。




同時連載中の爽やか自転車小説「双子のディープリム」もよろしくね!

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