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第4話 決意

鈍重な印象を受ける巨軀。見ただけではっきりとわかる重量感。


室内の明かりを反射し僅かに輝く体表は、何者の脅威も受け付けない様だ。


人の形をしてはいるが、人に似せる気などは微塵も感じられない。


堅く。重く。そして強い。


無骨な金属の塊。


巨大な無機物はただ威圧感を放っていた。


無機物ゆえに、それが感情を向けることは決して無い。


だが総司は恐怖していた。確かにそれを感じていた。


それは確実に、総司に殺意を放っていた。


肌が粟立つ。悪寒が走る。空気がヒリつき総毛立つ。


僅か一瞬。


総司が状況を飲み込まんとするその一瞬。


金属の巨軀と総司の間合いが縮む。


同時にその剛腕が今まさに。総司の面を打ち抜かんとした。


鼻先に拳が刺さる。直後に潰れ、破れ散る。


飛散した鼻が宙を舞う間に鼻の骨が砕ける。


めり込む拳に肉の弾力の意味は無し。


中央から潰れ、裂け、砕く。


眼球は圧力から解放され飛び抜ける。


内壁に叩きつけられた脳もその壁を失い飛び出す。


潰されだ顔に吹き飛んだ後頭部。最早人間性は皆無。飛び散る肉。


重い拳は勢いそのままに残骸を吹き飛ばし頸椎を押し切る。


後には首を失った人の体がゆらりと後ろに倒れようとするのみ。


これらは飛来した拳が届く前の一瞬のイメージ。


総司の予感した確実な死のイメージだった。


喰らえば確実に死ぬ。


防御か?それで即死をまぬがれられるか?


どこで受ける?腕?へし折れる?無意味?


まぬがれたら?その後は?死が僅かに伸びるだけ?


じゃあどうする?避ける?これを?


どこに?右?左?上?下?


その間も拳は止まらない。


総司の足に力が入る。血管は開き血流が増し、大腿部の筋肉が膨張する。


総司の体は上に飛ぶことを決意した。


足先まで血管が浮き出て異形と化した脚部は。危険を回避しようと全力でアスファルトの床を蹴り上げた。


巨大な拳は空を切る。


足の形がクッキリと残り、ヒビ割れるアスファルトの床。


6m程の垂直跳び。


回避成功‼︎


滞空時間の僅な安堵。


しかしそれは悪手であった。


自由落下に転ずる総司の体。


無骨な金属がその隙を見逃すことは無かった。


鋭いハイキック。


柔軟性などまるで感じられぬこの金属の塊が、ここまで打点の高い蹴りを放つなど、総司の想像の範囲外。


死…。


強烈な衝撃と共に加速する総司の体は、30m程水平に飛んだ後に壁に突き刺さった。


死…んでない…!


全身に衝撃の痕跡。確かに体に刻まれた感触。


しかしバラバラになったであろう体は未だ足先から頭頂部までの感覚が残る。


まだ…生きている…‼︎


しかし安堵の余裕は無かった。


強烈な殺気が迫るのを感じる。


再び訪れる恐怖。


崩れた壁の端を掴み、勢いよく体を引き抜く。


前方から聞こえる金属音。ゆっくりと歩み寄る死神。


「もう始まっているんだぞ…闘わなければまた死ぬことになる」


風間は死神のはるか後方から言い放つ。


その目つきは鋭い。


「クッ…クッソォォォォォッ‼︎」


総司は叫び、構えた。


総司は格闘技の経験も喧嘩の経験も無い。


暴力とは縁遠いこれまでの人生。


漫画や、テレビの放送などの情報媒体でしか暴力を目にしてこなかった。


自らの知識をフルに使って構えるが当然それも不恰好なもの。


しかし構えを取る事で、彼は決意することができた。


今、目の前の脅威を。


自らの暴力を持って排除するという決意を。

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