THE MAD MAN'S LOVE LETTER.
深夜のバール
どこかエキゾチックな匂い
アルコール
煙草の煙
喧騒
駆け引きと裏切り
純度999%の欲情
純度1%の虚勢
出来上がるのは、純度1000%の熱帯夜。
それにしても暑苦しい夜だ。
この町に流れ着いてどれくらいの月日が過ぎたのだろう。
深夜のバール
どこかオリエンタルな香りが漂う
ここは腐った天国。
喧騒のごった返し
ろくでなしの吹き溜まり。
でも、それがいい。多分、此処は俺の性にあっている。
人々は自分の欲望に忠実で、他人のことなんてどうだっていい。
そんな排他的な彼らが、俺に安息を与えてくれる。
そう、そのまま俺をほっといてくれ。
男も女も、愛の幻想の前では、ただの使い捨て。その本質を見極められない奴は泣きをみる。中には自殺だってやってのける奴もいる。
まさに、勝手にしやがれ。
目の前で起こる三文劇を眺めながらよく冷えたヴァイオレットフィズを傾けた。
スミレのリキュールとレモンがパフュームのように柔らかく香り、油っこいクセだらけの肉料理のような空気を少しだけ和らげてくれる。
ジャンクフードのような世界にやみつきになっている。
目に映る人々の行いは、愚かしく愛らしく虚しい。
この町で音楽など無価値。だが、何らかの効果はある。
やがて消え行く波紋でも小石を投げれば水面は揺れる。
音は空気を揺らし、体内の水を揺らす。
ヴァイオリン、ピアノ、アコーディオン、三種類のサキソフォン。
俺はドラムを叩きながら、しゃがれた声で歌う。
猥雑なウェイトレスとテーブルの不良紳士
酔いどれ詐欺師とシラフのイカサマ師
うらぶれた元名士と異国の踊り子
すべての薄汚ぇ愛とやらの為に
イかれたタクシードライバーと売春婦に乾杯
明日なき愛とやらの為に
揺れろ。
踊れ。
狂え。
音楽こそが、貴様等の解放区。
アルコールや麻薬だけじゃ到達し得ない、永遠の空間で踊り狂って逝っちまえ。
感じられないなら、永遠にあの空は飛べない。
すべての音楽に祈りを。
世界が終わるまでの祝祭。
音楽こそが唯一の真理
うねり
ゆがみ
引き裂かれる
その喜びにひれ伏せ。
音と音の空間にだけ存在する解放のサンクチュアリ
神の声は言葉に非ず
言霊は肉体のどこでもないところで感じろ
わからない奴には永遠にわからない
僅かな哀れみと多大なる侮蔑をもって、今、俺は、舌なめずりしている売春婦に優しく微笑みかける。
熱帯夜がうねる。
ちりぢりになる、肉体を超えた俺の精神
肉欲 愛 欲望 慈しみ お前の腐った愛なんて、そんなもの
俺は欲しくない
音と音の永遠の空白の中で俺を消滅していたいだけ
ここは暑すぎる
湿気を含んだ熱気に麻痺した脳みそが溶けていく
この町は誰もが本能的。
解放された肉体で感じろ。
神の言霊。
愛など言い訳。
俺は気が狂っている。