ジャパニーズ・スタイル
「こんな時ぐらいしか、女の子達呼べないもの、せいぜい楽しんでや」
研造社長は、三次会の高級料亭のお座敷にコンパニオンやキャバクラ嬢達を呼んで大騒ぎだ。
「こんな時ぐらいって、毎回呼んでるじゃんか」
と山田課長は呟いた。
25日は、ポラリスビ―ルのクリスマス忘年会だ。
一次会と二次会は女子社員が居るので、三次会からは恒例で男性のみの、コンパニオン付きだ。
グレンは帰るタイミングを伺っていた。
今日の午後、紅子と連絡がつき、
「どんなに遅くても会おう」
という約束をした。
頭の痛い事に、マ―ゴも今夜、グレンと会いたがっている。マンションに来ると言うのだ。
今夜は紅子のマンションへ泊まる予定だ。
「お―い、グレン。選べや。タイプの女の子」
と酔っぱらいの研造社長が、グレンとコンパニオンをくっつけようとし始めた。
「今、帰らない方がいいぞ。社長、気を悪くするから。適当に笑ってろ」
と常務理事のアドバイス。
世界ビ―ルコンテストで、連続六年金賞のブランドビ―ルカンパニーが、こんなに下品なのか。
グレンは苦笑いした。
「これ、ジャパニーズ・スタイルね」と
山田課長が言った。
日頃、働き過ぎな日本人男子のストレス解消がこれなのか。
恋人や妻子に尽くすのがストレス解消なんじゃないのかな。
グレンは、キャバ嬢にビ―ルを注いでもらっても、スマホのアルバムの、紅子の写真を眺めていた。
山田課長は、斜め後ろからその様子を見ていた。
「…………………そう言えばさ、紅子さん、最近見てないな。元気なのかな」
山田課長の呟きに、グレンは振り返った。
「たぶん、元気ネ」
「あいつ、すぐ男変えるからな。皆、気を付けてるんだ」
「何、気を付ける?」
「いやいや、何でもないさ、ハハハハ」
「オシエテ、紅子サン、どこが?」
「グレン、例え好きになっても、遊びの女さ。紅子は。俺が良く知っている」
「……………………」
「プレイガ―ル。解る?」
「ノ―、 紅子サン、違う」
「違わない」
「ダイジョウブ。紅子サン、いい人」
「さては、グレン、惚れたな」
「山田、止めろ」
間に入って来たのは、研造社長だった。
「恋愛方程式は、アインシュタインも解けないんだ。野暮やると、馬に蹴られて死ぬぞ」
「研造社長サン」
「もう行け。ヨロシク言っておいて。年明けにビッグ・ディッパ―のリ―フレット撮影頼む、って言っておいて」
常務理事は研造社長より10才も上。
飲みながらそのやり取りを見ていた。
研造も、少しは機微が解るようになったな。
紅子も今夜、お得意先のクリスマスパーティーに顔出しをしたり、会社仲間の飲み会に参加したりと、なかなか帰宅できないでいた。
どんどん酔っていく。
注がれれば、注がれるだけ飲んでしまう。
何やってるの、私。
こんなところで飲んでる場合じゃない。
行かなくちゃ。
あれ、私、グレンのマンションに行けばいいんだっけ?
グレンが私の所に来るんだっけ?
どっちだっけ?私が行くんだよね。
紅子はタクシ―を拾い、グレンのマンション前で降りようとすると、正面玄関のオ―トロックの前に、マ―ゴが立って居るのが見えた。
どうしてグレンのマンション前に居るの?
彼の帰りを待っているの?
グレン、どういうこと?
「ドライバ―さん、やっぱり、ススキノ戻って」
続く