友達
「住んでいる部屋が社宅扱いになってるから、家族以外の同居は難しいよ」
『あら、残念。じゃあ、近くに部屋を借りるわ』
グレンはそっけなく電話を切った。
紅子を見た。
寝ている。
マ―ゴ、なぜこのタイミングに日本へやって来るんだ?
独り身の寂しい男が、日本へ引っ越しして、日本女性と恋に落ちて毎日が楽しくなるのは、よくある事。
もう、ニュ―ヨ―クにいた時のような暗い表情の俺じゃない。会社で必要とされ、日程調整が大変な程、多忙だ。
そして紅子の存在。
マ―ゴはグレンが自分の存在を忘れてしまう前に日本へ行き、グレンと恋愛関係にないたいと願っていた。
タイミングの悪い事に、マ―ゴは12月23日に札幌へ到着し、24日のイヴは朝からグレンに手伝いを頼んでいた。
彼女は外国人でも住める部屋を借りた。グレンは生活用品の買い物を付き合う。彼は銀行や郵便局、病院など最低限の説明をして、マ―ゴの夕食まで付き合った。
「札幌の夜の街を案内してくれる?イヴだから、賑やかね。ススキノ行きたいわ」
大通りのビアホ―ルでマ―ゴは言った。
グレンはテ―ブルの下で、素早く紅子へメ―ルを送っていた。
多忙の紅子にクリスマスはなかった。
美しい札幌のクリスマスの風景写真を、来年用にストック写真にしておかなければならない。
札幌中に溢れる美しいクリスマスの景色を探して、紅子は首からカメラを下げて夜の街を歩き回っている。
季節ごとにこれをやっておかないと、咄嗟の発注に対応出来ない。
紅子はグレンの友人が、ニュ―ヨ―クから来た事を聞いていた。その人が35才の女性で、グリニッジ・ビレッジの画家であること。
紅子はもうすぐ30才だから、5才歳上の女性。
元カノなのかしら?
グレンは隠さず全て話してくれるから、何も心配しないけど。
どんな女性なのかしら?
顔見てみたい。
グレンのメ―ルで、そのマ―ゴという女性と大通り
公園の地下街のビアホ―ルに居るという。
札幌駅の地下街を通過して、紅子はその店へ寄ってみた。
「紅子サン」
グレンがテ―ブルで呼んだ。
白人女性なのかと思ったら、アジア系だわ。
グレンはアジア系の女性好きなのね。
やっぱり、元カノ?
この元カノ、グレンを追って来たのと違うかしら?
未練があって。
グレンはどうなの?
こういうシチュエ―ションは数えきれない程、経験している紅子。
ク―ルな態度でそつなく振る舞う。
「外は冷えてるわよ」
美しい紅子が突然現れた。
マ―ゴの表情がこわばった。
東南アジア系の雰囲気の、色の浅黒い茶髪の太っている女だ。
お世辞にも美人とは言い難い。
「コンバンワ」
と、マ―ゴは自分から挨拶した。
「こんばんわ。飲んでますか?」
と紅子は嫌みなく爽やかに対応する。
その爽やかな紅子の笑顔に、マ―ゴも表情を緩め
た。
「紅子サン、何時、終る?仕事」
「10時で止める。お腹すいたし」
グレンは目で何かを訴えている。
遅くてもいいから、来て、紅子サン。
ワイン買ってあるんだ。
紅子はにっこり笑って言った。
「じゃ、ゆっくり楽しんでね」
紅子はグレンに目配せして、店を出た。
再び、仕事再開。
グレンはテ―ブルの下で、紅子へメ―ルを送った。『11時には、僕のマンションに来て』
『マ―ゴさんを、ススキノへ案内してあげたら?』
グレンから返信がなかった。
紅子はグレンが、マ―ゴとススキノへ行ったのかと想像して、10時で切り上げ地下鉄で麻布へ向かおうとした時、
「紅子!久しぶりじゃない?何やってんだ?」
と、高校の同窓生の渡辺とバッタリ遭遇。
「ちょっと、久しぶり。どこ行くの?」
「ススキノに決まってるべ。調度いいわ、伊豆原も久保も来るんだ。プチ同窓会なんだ。お前も来いや」
「行こうかな。少しお腹も空いてるんたけど」
「行くべ、行くべ」
紅子は懐かしい顔に誘われ、ススキノへ。
居酒屋の喧騒と、早く回ってきた酔いのせいで、グレンからの着信音には全く気付かなかった紅子であった。
四次会まで、付き合った。
居酒屋・スナック・カラオケ・居酒屋。
朝になりそうなのに、ラ―メンで締めくくった。
紅子は今日も仕事だから、一度マンションへ戻り、シャワ―を浴びて着替え、すぐ出勤だ。
携帯電話を見ると、紅子は驚いた。
グレンから着信15回、メ―ル5回。
『待っているから、来て』
忘れていたのだった。
マ―ゴをススキノ案内したのかと思ってたの。
グレン、怒ってるのかな。
紅子はグレンに返信しないまま、慌ただしい25日を迎えた。
グレンはあまり眠れない夜を過ごした。
マ―ゴを少しだけススキノを案内して、グレンは11時には自宅へ戻った。
紅子へダイヤモンドのピアスのプレゼントを用意しておいた。
シャンパンやワインも冷やしておいたのに、紅子から返信がなかった。
マ―ゴのこと、誤解したのかもしれない。
怒って、連絡して来ないのだろう。
グレンは不安な25日クリスマスを迎えた。
朝、再びマ―ゴから連絡が入った。
『今夜はどうしてるの?クリスマスよ』
続く