僕のマンションに来て
モンブラン栗林は商品パンフレットの日本版を監修させて欲しいと、直接、研造社長に売り込んでいた。
「そうかい、じゃあ、頼むよ。ところでモンブランさんは独身かい?」
お節介社長は尋ねた。
「独身なんです。バツイチではないです」
ブリッコの声で答えた。オカッパ頭が実年齢より若く見せている。
「山田課長どうだい?ひとりもんだから」
えっ、山田課長?
モンブランの表情が曇った。
「今度、二人で会ってみろ。色気のあるいい男なんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
山田課長はその会話を応接室のドア越しに聞いていた。
冗談やめてくれ、社長。
俺は紅子がタイプなんだ。
紅子の仕事はクリスマスや年末にピ―クを迎える。札幌の飲食店の広告写真撮影が何百件。担当のタウン誌の撮影に加え、併設する印刷所のヘルプなどで徹夜に近い毎日が続いた。
ポラリスビ―ルの商品パンフレットも完成した。
夜の11時、今夜はこれでも早く帰宅出来そう。
紅子は身支度をして外へ出ると携帯電話が鳴った。
グレンからだ。
「まぁ、グレン、貴方も残業だったのね。いいわよ、ラ―メンでも食べる、それとも少し飲む?」
グレンも多忙を極めていた。
リサーチで、常務理事とイタリアやスペインへ出張していた。帰国するなり、翻訳する書類を頼まれる。報告書も作成する。
「久しぶり」
「三週間ぶりくらいかしら?」
グレンは紅子に会いたかった。いつもスマホの彼女の写真を眺めている。
「クリスマスイルミネ―ションが綺麗ね」
白いため息を吐いて、ショ―ルを首にぐるぐる巻きにした紅子は、それだけで美しい。
会えるだけで幸せだ。
でも、いつも会いたい。
こんなに、たまに会うのではなく。
そして、彼女に触れたい。
美しい黒髪、頬や唇、なによりも、抱き締めたい。
二人はラ―メン横丁で、黒い魚介ス―プの濃厚なラ―メンを食べて、近くの居酒屋で焼き鳥と熱燗で一杯やった。
グレンは紅子が相等疲れている事に気付いていた。それでも、笑顔で話してくれる。
「紅子サン、もう、地下鉄ないよ。僕のマンションは、紅子サンのマンションより、ずっと近いよ。雪も沢山降ってる。僕のところ、来て」
グレンは紅子を自分のマンションへ誘った。
続く