スタンリ―とマイケル
最近、グレンだけが違う業務で、役職者や編集者と会議室に籠っていたり、外出ばかりだったり、夜は研造社長とススキノばかり歩いている。
また、広告デザインを作っている。
スタンリ―が何をしているのか尋ねると
「何でもない、少し手伝っているだけ」
とグレンは答えた。
スタンリ―とマイケルに不満が芽生えてきたのは言うまでもない。最初は同じスタ―トだったはず。
給料はいくらなのか、マイケルに聞かれたグレンは、最初の契約の金額を答えた。
大幅にアップしたことなど、言えない。
仲の良かった三人は、二対一になった。
「紅子サン、素敵デス」
グレンは紅子と北海道大学近くのフレンチレストランに来ている。
「グレンも素敵よ、貴方が街を歩くと、皆が振り返るわ」
二人は白ワインで乾杯し、パンフレットに使えそうな料理を注文した。そして、どの料理がポラリスビ―ルのどのフレ―バ―に合いそうか、考えた。
「考えながら食べるって、お腹一杯にならないんだけど、グレン、貴方はどう?」
「フレンチはホワイトやクラシックと思ウヨ」
「ソ―スの味を壊さないように、でしょ?ねぇ、帰り、ラ―メン寄らない?」
「紅子サン、元気ダカラ一杯食べる」
フレンチは苦手なのよ。量も少ないし。
レストランの帰り際、オ―ナ―シェフと交渉し、パンフレットの料理監修の協力を得られる事になった。
二人は札幌駅近くの有名ラ―メン店で味噌ラ―メンを、食べて体を暖めた。
もう、11月だ。
グレンが札幌に来て4ヶ月が過ぎようとしている。
スタンリ―とマイケルは、クリスマス前にアメリカに帰国する。その後、サンフランシスコとニュ―ヨ―クのレストランバ―の支配人として活躍する予定だ。
グレンはポラリスのヨ―ロッパシェア拡大のため、フランスやイタリア、スペインへの出張が増えてくる。札幌から海外出張へ行く生活サイクルになると、研造社長に言われている。
「グレン、クリスマスはアメリカ帰るの?」
「ノ―、帰らない」
「そう、じゃあ、良かった」
「ドウシテ?良かった?」
グレンと紅子は、札幌駅から地下街に入る入り口を探しながら、夜の街を歩いた。あまりの寒さに震えている。
グレンは紅子の背中に長い筋肉質の右腕を回し、自分の体に引き寄せた。
そして、紅子の左頬にキスをした。
紅子の体に小さな電流が走ったように感じた。
やだ、本気になってはダメ。ダメよ。
「もう、遅いから、帰るわね」
グレンは悲しそうな表情をした。
「僕と、ツマラナイ?」
「とても楽しいわ。でも、私たち、明日も仕事あるでしょう?」
「紅子サンと、居たい。デモ、オ―ケ―。帰る」
グレンは東西線、紅子は南北線。地下鉄大通り駅で別れた。
危ない。私らしくない。本気になったら、絶対ダメよ。
紅子はこの先、グレンと顔を合わせて好きにならずにいられるか、自信がなくなってきた。
グレンは今夜、もっと、紅子と過ごしたかった。
抱き締めてキスをしたい激情を抑えなくてはならない。この先、仕事で何度も会う。
切なさを抱いて帰宅したグレンだった。
マンションに戻ると、ニュ―ヨ―クの友人のマ―ゴから国際電話が入った。
「私も日本に住んでみたいの。札幌へ行くわ。来月中に」
「本当?いいよ、来たら。寒いよ、こっちは」
気軽な友人のマ―ゴ。
だが、この時グレンは、彼女が日本に住みたいのではなく、グレンが好きでニュ―ヨ―クから追って来るのだという事に気付いてなかったのである。
続く