俺はお前を知ってるんだ
商品パンフレット作成の打合せで、本社に呼ばれた紅子は、モンブラン栗林が会議室に座ってグレンと楽しそうに話しているのを見た。
ちょっと、やめて。
どうしてモン栗がいるのよ。
モンブランはグレンに下手くそな英会話で何を話しているのか、紅子の耳に『ニュ―ヨ―クは良かった。ブロードウェイでミュージカル観て………』
と聞こえて来た。
ニュ―ヨ―クの話をしているんだわ。
グレンもまんざらでも無さそう。
コケシそっくり。外人ってコケシみたいな日本女性好きなのよね。
「よぉ、相変わらず忙しそうだな」
山田課長だ。
「おかげさまで」
紅子はそっけなく答えた。
「今は、どんな男と?」
「は?」
「寝ては振って、寝ては振って、を繰り返しているんだろう?まあ、俺もそのうちの振られた一人だけどな」
山田課長は過去に紅子と関係を持った。他の男同様、すぐに振られたのだ。
彼は紅子の胸の開いたセ―タ―からはみ出しそうな豊満なバストを、いらやしい目付きで舐め回すように見た。
そして耳打ちした。
「グレンはやめろ」
「何のこと?」
「親しくするな」
「なぜですか?」
「なぜだと思う」
紅子は黙った。
「彼の気持ちを傷つけて欲しくない。彼にはずっと本社に居てもらわなければならない。何かのきっかけで、アメリカに戻られては困るんだ。せめて、彼に気を持たせるような態度は止めろ」
「何もしてませんけど」
「何もしないのに、最後は必ず男が泣く。お前に関わると」
山田は、未練がましい態度で紅子を見つめてから、隣の会議室へ移動した。
ふん、何よ、いやらしぃ。
山田と紅子の会話を、研造社長は衝立の裏で盗み聞きしていたのであった。
「やっぱり、アレだな。グレンと飲みに行くべや」
続く