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鉄路の護り  作者: 鐵太郎
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4.5

2016年8月4日12時02分 兵庫県神戸市東灘区 海上自衛隊神戸基地隊内

営門の門柱には基地の名前の書かれた看板とともに所在している部隊の看板もかけられている。仕事の関係上、時々こう言った場所には来るが今回は結構レアな部類だ。『海上自衛隊神戸基地隊』と大きくかかっている。わかる。その横、『第42掃海隊』ここにいる掃海部隊のものだろう。その横、プラスチックにテープ貼りというチープな作りでできるだけ目立たないようにしました、とでも言いたげな他の看板よりふた回り程小さい看板にはこうあった『特別立入検査隊 神戸先遣隊』。「特別立入検査隊……?」

飯田が不思議そうな声を上げると氷見が即座に反応した。「特検隊を知らないんですか⁉」

そりゃ知らんだろうさ普通の国鐵職員の何割が知ってるか逆に気になるくらいだ。そんな俺の思いはつゆ知らず車内でミリヲタが堰を切ったように語りだした。「特別立入検査隊、英語ではSpecial Interception Unitと表記され略称はSIU、さっき言ったように特検隊とも言われる海上自衛隊の特殊部隊ですよ!15年位前に某国が領海に入ってきてドンパチする事件があって——」

あぁ、あったなぁ。確か北の……。「それがきっかけで米国のNavy SEALsをモデルにして設立されたのがSIUなんです!ただ任務内容は結構秘密なんですよね~。こんな小さな基地でまさかSIUを見れるなんて……」

飯田は「……?」という表情でハンドルを握っている。どうやら付いて行けなかった上に大して興味を惹かれなかったようだ。布教に失敗したミリヲタはと言うと、よだれを垂らしながらにやにやしている姿がちらっとルームミラーに映った。どうやらSIUが見れることで脳内麻薬が出まくっているようだ。これから仕事なんだけど……。

妙に広い駐屯地や基地独特の道路を右左、しばらく進んだ先にある体育館のような建物の前で車を止めた。閉所戦闘訓練場、とだけ書かれた大柄な建物には無言の威圧感があった。「ここですよね?」

飯田が確認する。「あぁ、確かここだ」

車から降りて頑丈な鉄扉の前に立つ。無造作にぶら下げられたプラスチック製の札には「訓練中 立入禁止」。どうしようもなくボケっと1,2分立っていた。誰かが出てくることを期待して。

よく考えれば俺はここで何をしているのだろう。3日前に会議終わりに呼び出されたと思ったら特殊部隊とか何とか言われて部下をつけられて——それも変人、そして神戸くんだりまで出てきた挙句に今は本物の特殊部隊の訓練場で炎天下、突っ立っている。海辺だからまだましなもののアスファルトからの照り返しがきつい。

背中や首を流れる汗に耐え兼ね、せめて日陰に入るか車の中で待とうと後ろを向いた、その時、鉄扉の向こうでガチャリという音がして、隙間が空いた。そしてヌッと姿を現したのは黒の戦闘服にタクティカルベスト、半長靴、レッグホルスターやらマグポーチを装着し、頭にはバラクラバにESSかどっかのシューティンググラス、そして88式鉄帽を装着したどっからどう見ても立派な特殊部隊員だった。手には89式5.56mm小銃を持っている。そんな男たちがぞろぞろと出てきたのだ。そして皆、我々のほうをちらっと見ると忌々しげな目をして横に捌けていった。最後に出てきた部隊長らしき人の鉄帽の正面には青い塗料が付いていた。ペイント弾……。「基準隊員、基準!短間隔四列横隊集まれ!気を付け!番号、はじめ!」

いきなり隊長とは別の人が叫びだした。それに呼応するかのように男たちはザッと整列すると番号を順に叫び始め、最後には「5の"サンケツ”」と列中の隊員が叫んだ。あたりが急に静かになった。部隊長らしき人が指揮を執っていた隊員の近くへ行き、お互い向き合う。敬礼を交わす。「1小隊、総員18名、事故なし、集合終わり!」

報告が済むと列中に入っていった。報告を受けた部隊長は「休め」と部隊に下命した後、車のほうで小さくなっていた俺と部下の方にやってきた。「国鐵鉄道公安室の方ですか?」

突如として話しかけられた俺はかなり驚いてしまった。「は、はいっ!そうですが……」

「お宅の隊員は強いですな」

そういうと、踵を返し小隊のほうへ向かっていった。お宅の隊員……?何のことかさっぱりわからない。氷見ならわかるかと思ってそっちを向いてみても怪訝な顔をしている。「右向けー右!駆け足、進め!」という号令が響くと同時に海自の特殊部隊——SIUの隊員たちは駆け出して見えなくなった。彼らが俺のほうに背を向けた時皆一様にどこかに青い塗料が付いているのが気になった。どうもとんでもないやつがこの建物には居るみたいだ。

その時もう一人の人影が訓練場の扉に現れたことに俺はまだ気が付いていなかった。

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