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鉄路の護り  作者: 鐵太郎
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2016年8月4日09時22分 国鐵東海道本線国鉄201系電車内

『次は神戸、神戸です。降りられるお客様はお忘れ物のないようにご注意願います。本日も国鐵をご利用いただきありがとうございました』

車内に響く放送で目が覚めた。昨日散々な目にあった体は正直なもので、ホテルに帰り着いた途端にベッドの上で意識を失った。シャワーも浴びず、制服から着替えないで眠りこけて、目が覚めたのは深夜3時。そこからシャワーを浴びて着替えて再度就寝したが、やはり響いた。眠い。クハ201の先頭付近、運転室横の扉から神戸駅に降り立つ。通勤利用も減って構内は割と空いていた。駅階段に向かう途中で線路脇の標識に目が止まった。0kmポスト。神戸駅は日本の大動脈、国鐵東海道本線の終着駅であり、同時に国鐵山陽本線の始発駅なのだ。589K340Mと書かれた標識や枕木がそれぞれの線路にある。一番立派な標識の横には『ようこそ神戸へ』の看板が設置されている。毎日見ていた東京駅の東海道線0kmポストよりもよっぽど豪華だ。貨物駅の跡地を再開発したショッピングモールを眺めつつ神戸鉄道公安室目指して階段へと足を向けた。

神戸鉄道公安室は総員50名程度の東京や大阪に比べると小規模な公安室だが、国際港たる神戸港に直結した神戸臨港線や貨物駅など重要警備対象が広いため他の地方の公安室に比べれば規模が大きい。昨日の大阪での一件で学習した俺はまず公安室に入る前に『しっかりと』今から迎えに行く職員のファイルを読むことにした。『篠栗 優花 女性 年齢:二十四 出身:兵庫県神戸市 経歴:私立摩耶学院高等学校卒 国鐵へ現業入社 NR鉄道大学校一般公安職員課程修了後神戸鉄道公安室警備課警ら班に配属、大型警備対応の為、大阪中央鉄道公安室警備課特殊警備班に異動』……。あれ。大阪中央鉄道公安室……?

「ちょっと訓練でここ外してんねんけど……今日中に会わなあかん?」

そんな疑問をよそに生まれも育ちも神戸だという神戸鉄道公安室の和田山室長は言った。「もし今日中に会いたいっていうんやったら、こっからちょっと行った摂津本山駅で降りて、ずーっと下に降りたとこにある海自の基地まで行かなあかんねんけど……どうする?」

「すいません!ちょっと待ってください。今書類を確認したら篠栗は大阪中央鉄道公安室の所属になっていたのですが……」

「ん?そうやけど……?あーなんでこっちにおるかって?所属は確かに大阪やけど、元こっちの人間で、こっちの警備するから向こうから出向って形で結局変わらずこっちにおるんよ」

うん、よく喋る人だ……。「そうなんですね、わかりました。では、海自の基地まで行ってきます」

そう俺が言うと和田山室長はニヤッと笑いながら「気ぃつけてな!」

と言った。

この辺りの国鐵線は常に私鉄との戦いに晒されてきた。何と言っても関西私鉄王国のど真ん中である。神戸市内を東西に走る路線は国鐵線を含め3線ある。市の中心部では市営地下鉄が2線加わり競争はとどまるところを知らない。最近では国鐵山陽本線の支線、和田岬線に対抗するように神戸市営地下鉄海岸線が開業した。リニアモーター推進の地下鉄で車両限界を小さく抑えているのが特徴だ。ただこっちとしては非常に短いとはいえ大手企業の通勤路線として黒字の和田岬線を廃止のする利点もなく、また新型の215系の製造元である川重からの新造車両の甲種輸送経路にもあたっており廃止する利点は全くなく、結局バチバチと火花を散らしているのである。

摂津本山駅にコバルトブルーの201系が到着したのは昼前だった。青い瓦葺きの駅舎は戦前からのものらしい。改札口で身分証を示し通り抜けると職員から社用車を使っていいとの通知が来ていることを伝えられ、車の鍵をもらう。「いやーよかった!」

小浜が言うと、「ほんと、この炎天下4kmも歩くとか……ありえないですよね!」

氷見も即座に同意した。こいつら結構いいコンビかも……。

小綺麗な駅の南のロータリーを回り、『下』へ向かう。神戸の方では北に行くことを『上に行く』、南に行くことを『下に行く』ということがあるらしい。最初は地図的な意味で北が上で南が下なのかと思っていたが、市内を移動するうちにだんだんと本当の理由がわかった気がした。「それにしても神戸は分かりやすくていいですね」

運転席に座る小浜が言った。「何が分かりやすいんだ?」

「どっちが北か一発でわかるとこですよ。山がある方が北じゃないですか」

言われて見たらそうだ。六甲山やら摩耶山が神戸市の真ん中を東西に走っている。そのおかげで北区や西区を除く市内では北の標高が高く、海に近づく南の標高が低い。北が上で南が下、というわけだ。

「そろそろ着きますよ」

小浜がそう言うと同時に道の奥に民間とはどことなく雰囲気のことなる営門が見えてきた。

車止めの前で停めて俺一人で下車し警衛所で身分証と連絡書を示し入門した。最後に書類を返却し篠栗がいるという建物への道順を教え、最後に警衛の海曹は言った。「ようこそ、海上自衛隊神戸基地隊へ!」

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