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対決

 キメラは静かにそこに佇んでいた。

 静か、とはいうものの、それはまさに嵐の前の静けさというのに相応しい威圧感を備えている。

 やはり、質感、圧力が半端ではない。

 大きさこそ通常のライオン程度だが、中にはTレックス以上の大きさの何かを感じるのだ。


 ――気を抜けば一発でやられる。


 僕は相手を見据え、静かに歩みを進める。

 相手は待ちかねたようにネコ科の動物が獲物を仕留める前のように、前屈になっていく。


 こちらも剣を構え、にじり寄るように相手に向かっていく。

 次第にその距離は詰まっていく。

 息が詰まる。

 相手の呼吸が分かるほどの距離――もう、いつ飛びかかられてもおかしくない。


 一つ――。


 深呼吸をする。今、飛びかかられたら死んでいただろう。しかし、その一瞬相手が動かなかったおかげで僕の精神は落ち着いた。


 あとは、もうその場その場で、最善を追うだけだ。

 相手の呼吸音――唸り声――一つ大きく息を吸い――


 来る!


 思った瞬間にはもうその牙が目の前にあった。

 が、僕の剣はその牙に間に合った。


 二つ――。


 相手の牙に剣戟を見舞う。


 ギィン! ガイィン!

 剣から放たれたきらめきが相手の牙を――


「――!」


 剣戟は相手の牙で――『受け止められていた』


 魔力の渦を口から漏れ出し、牙できらめきをかみ砕くかのように

はさみ止めている。まずい、急いで後退し距離をとる。そして――。


「ガホゥ!」


 その受け止めた魔力を吐き出すかのように竜巻が奴の口から放たれた。まるで、ソニックブームのように。 


 三つ――四つ――五つ!


 こちらに向かってくる、繰り出される限りの暴風を剣が切り刻んでいく。

 考えがまとまらないうちにもう相手は次の攻撃態勢に入っていた。

 二股に分かれた尻尾からこちらへ――風の合間を縫って――。


「!」


 見覚えのある閃光。それが『二種類』。


 一つは、あすかを傷つけた刃のような煌き。もう一つは――


「エリスの!?」


 そう、エリスの使った火の魔術。それと酷似した煌きがこちらへ向かってきている。

 言いしれない不安がどんどんと胸の奥で膨らむのを必死に無視する。

 今、これに押し潰されたらお終いだ――。


「はあああああああ!」


 振るった一振りは同時に二つの煌きを弾き返す。

 よし、まだいける。

 最初は弾き返せない事態も想定したが、キメラの技の一つ一つはこちらのカウンターの威力で全て相殺出来そうだ。

 魔力の総量は相当なものだが、繰り出せる技はどれもこの剣のそれと大差ない。ただ、そのバリエーションの豊富さが引っかかる。まるで、複数の武器を――。


 キメラの動きが止まる。僕の疑問に反応するかのように。

 僕は瞬時に、踵を返す。


 ――死ぬ。


 直観的にそう悟った。

 エネルギーの、魔力の塊がどんどんと奴の中で膨れ上がるのを感じる。

 距離を取らねば。この間合いでは――いくら、この剣でも。

 振り返るとキメラの全身が鋭く光った。

 その光はキメラの口に向かって集まり、巨大な光球を――


 間に合わない!


 反転し身構える。二十メートルほどは離れているが十分な距離だとは思えない。それでももう、迎撃しなければ死んでしまう。キメラは、その光球をもの凄い勢いで吐き出した。

 

 風が、熱が、溶岩のような圧力を持って向かってくる。

 

「うあああああああああああああああああああ!」


 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。

 後には無数の剣戟と、光球のぶつかった音だけが――。


     ◆


 洞窟を歩く、二つの人影。


「おらっ、ちんたら歩くな!」


 痛い。


「荷物くらいまともに運べってんだ。たくうぜえウジ虫野郎が」


 また後ろから蹴りを浴びせられる。お尻も……足の脛も痛くて堪らない。


「へっ……何が起きたか知らねえが、皆ざまあねえぜ!」


 中谷要はそう言って嗜虐的な笑みを見せた。

 クラス一の不良。不登校児の彼は内申の為に今回の登山に無理やり参加させられていた。


「……少し、休ませて」

「ああ!? なま言ってんじゃねーぞ!」


 蹴られる。足を。腰を。


「う……」

「けっ、俺様と違って学校通いしている生徒様のくせに貧弱だなあ? そんなこっちゃここで生き残れねーぞ。あ、別に死んでも構わねーけど! お勉強を頑張ってまじめに暮らしてたってのに、火山の爆発で死ぬなら最初から努力なんかしなきゃいいのによ! ぎゃははははは! 無駄な努力おつかれちゃーん!」

「……何がおかしいの?」

「あ?」

「君は、なんで努力してる人を馬鹿に出来るの? そんな権利なんて……」

「ああ!? 何口答えしてくれちゃってんの!?」

「ぐえっ……」


 殴られた。顔が、焼けるように痛い。頭がキーンとなって何も考えられない。


「弱っちい癖に口答えしてんじゃねーぞ! テメーは俺の荷物持ちだけしてりゃいいんだよ!」

「いた……い」


 僕は 弱い。


「人間はなあ、持って生まれた才能がすべてなんだよ! テメーを産んだ親のせいでそんな貧弱な身体になっちまってんだ! 努力しても俺に一生喧嘩じゃ勝てねえ! ゴミはゴミらしく大人しくしてりゃいいんだよ!」


 蹴る。更に蹴られる。痛い。気持ち……悪い。


「げええええええええええええええ……」

「はぁ? 何吐いてんだよきったねえ……」


 もう……駄目だ。


「お、おい?」


 ……。


「冗談はよせよ……おい……」


 ――。


「ひ、ひいいいいいいいいいいい!」


 少年は去っていく。倒れたもう一人の少年を残して。

 その同時刻。エリスと遼平を襲った落盤の音が鳴り響いた。



短いですがきりがいいので。

複数同時進行する話なので微妙に長さの尺が上手くいかないこともあるかと思いますがご容赦下さい。

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