捨てた人
ある六月の空の下で、草陰の一角にきらきらしているものがあった。
近づいていって拾い上げると緑色のフィルムだった。
陽射しに透かしてみると、水色になったり桃色になったり橙色になったり藤色になったり、角度を変えると、少しずついろんな色になった。
僕は妙だけど面白いものを拾ったと思い家に持って帰った。
その日の夕方に、ノックの音が三回あった。
ドアを開けると深くかぶられたハットにモスグリーンのコートを着た男が立っていた。
「困るんですよ」
「いきなりなんですか?」
「昼間、拾ったでしょ。あなた」
僕はすぐに緑色のフィルムのことを思いついたのだが、男の不気味さを警戒してほんとのことを話すタイミングを逃してしまった。
しばらくは同じようなやり取りの問答が続き、あるとき男がため息を一つついて、ぼそりと言った。
「あれは私の捨てた心なんですよ。だから、そっとしといていただけませんか」
僕は観念して緑色のフィルムを男に渡した。




