結
《ハッキングが通るようになった!黒瀬、やったのか!?》
「…いや、まだだ」
《あ?どういう事だよ?》
「先に行っててくれ。後で必ず追い付く。必ず」
《おい、何が起こっ…》
携帯端末の電源を落とした。ハッキングが通るようになったのは、神器を持った人間が持ち場を離れたからだろう。…そう、目の前にいる人間のことだ。
このコロニーにおいて、やり残したことなど無いと思っていた。たとえあったとしても、それは思い出すに足らない無価値なものであると。
しかし、そんな筈は無かった。眼前の目的に目が眩んで、大切な事でさえ覆い隠してしまっていただけだった。あるいは、難しいことだと諦めていたのか。
どのような事が原因であったにせよ、最早その事実を悔やむ必要は無くなっていた。
黒瀬は神など信じていなかった。だがこの時初めて思った。
神様、感謝致します。
自分に、このような機会を与えてくれたことを。
「沢渡、准将閣下」
噛み締めるように、その名前を口に出した。心なしか、少し声が震えているような気がした。決して恐怖の為ではない。むしろ、武者震いにも似た何かであった。
「おどろきました」
仮面の向こうにある表情は想像さえつかない。だが声色は、相変わらず奇妙で子供じみているような、それでいて歴戦を潜り抜けてきた老獪の如き恐ろしさを秘めたものであった。
「あの小さな子供が、ここまでせいちょうし、帝国に反旗をひるがえすことになろうとは」
黒瀬は紅蓮の柄を握り締めた。
「覚えて、いるのですか」
「ええ、鮮明に」
黒瀬は少し俯いて、その顔には陰がかかっていた。
逆に沢渡はやや上を向き、過去を懐かしむようにしていた。
「皇族を殺めたけいけんは、後にも先にもあのときだけでした。だから覚えていたということもありますが」
黒瀬は俯いたまま、目は閉じずに眼前を直視していた。何を見ているわけでも無かった。遠く、遠くを見つめていた。
「皇族が手をむすび、鬼塚がみずからの手での保護を懇願してきたこども。…ほんの少しだけ、貴方にきょうみが出てきていたのも、嘘ではありません。じっさい、貴方が少佐になったと知ったときには、おどろきとともにほんのりとした納得もありました」
「そうですか」
感情の見受けられない、平淡な返答だった。
「帝国軍にしょぞくしていれば、一度は耳にしたことはあるでしょうが…いえ、貴方にはあの時、ちょくせつ言ってしまいましたね。私は、帝国軍の中でも、汚れた仕事をこなすことが多い」
「はい」
「だから、上官からめいれいを受けて翠様を殺したのだと、そう言った記憶があります」
「…」
その言葉を聞いているとき、翠を殺されたショックで、既に黒瀬の意識は半分無かった。しかし後日になって、自分の耳に入ってきていた言葉を、確かに思い出してしまった。だから黒瀬は、その言葉さえも鮮明に記憶していた。
「あの発言には、誤りがあります」
「…え?」
「私は、めいれいの内容を完全に無視しました。『拘束せよという任務は、出来ることなら拘束せよという意味である』と述べましたが、あれはうそです。拘束せよとは、絶対に拘束せよ、殺めることは許さないという意味です」
黒瀬は、沢渡から告げられる文章を、理解できずにただ受け止めていた。深い思考を持てば、その真意に指先だけ触れられる気がしたが、自ら手を離した。出来ればそれを、知りたくはなかった。
「しかし私は、翠様によい印象を持っていませんでした。いや、脱走したじてんで帝国軍内によい印象を持つものはいなかったでしょうが、私は格別でした。皇族という特別な立場にありながら、自らの能力、その責任をかんがえようともせず、ただ自分の感情と思い付きによってだけこうどうする、身勝手さに心底苛ついていました。同じ皇族でも、現在の東京皇帝は聡明です。常に日常会話に駆け引きを織り混ぜ、それでいて自分の真意を悟られまいとしている。自分がなすべきこと、取るべき行動を常に考えている、実に面白い人間です」
黒瀬は呆然と立ち尽くしていた。沢渡の口から出でる言葉の一つ一つが、胸に深く突き刺さってきた。そして、その痛みは熱く身体を刺激して、次第に身体が震えてくるようになってきた。
「それに比べ、翠様はひどくつまらない人間でした。思考もみらいも何も無い。ただ彼女の見ている『現在』のじょうほうだけで動いていた。帝国にいるだけで、悪因子となる存在でした」
黒瀬の心は、沸騰してしまうかというほどに熱くなっていた。あと一歩、何かのはずみで爆発してしまうような危うささえあった。
「ようするに私は」
沢渡はそこへ、
「ただのエゴイズムで、彼女を殺したのですよ」
自ら進み入り、火を放った。
「屑がっ…!」
小さく呟くと同時に、紅蓮を鞘から引き抜いて飛び出した。全速力で沢渡に接近する。
身勝手だ、つまらないだ?翠を拘束していたのも、責任を持たざるを得ない立場にさせたのも帝国軍だろうが。あの歳の普通の女の子が、自分のやりたいことを求めて、自分の行きたい場所を求めて行動することの、何が悪いというのだ。身勝手なのは翠ではなく帝国軍、そしてお前だ。殺す。必ずお前を殺して、翠の仇を討つ!
紅蓮の加護を受けたダッシュの速度は言うまでもない。コンマ一秒と待たずに沢渡に密着し、紅蓮を振り抜くだろう。
そう、猶予はコンマ一秒と無い筈なのだ。にも関わらず、黒瀬は。
「魅せてくれよう」
沢渡が、ゆっくりとした口調で自らの神器の名前を呼ぶ声を聞いた。
「月光」
紅蓮の刃が沢渡を切り裂いた。そう、切り裂いた筈である。沢渡は避けなかった。二人は密着していた。この世の道理を鑑みて、避けられる理由は無かった。
「…ぐっ…!?」
しかし、斬られていたのは黒瀬の方であった。沢渡は紅蓮の刃を恐れる気配も見せず、悠々と黒瀬の横を通り過ぎ、いつの間にやら抜いていた刀によって肩口を切り裂いていった。
黒瀬の肩から血が飛び散る。前のめりになって一歩よろけた。
「心のあんていは、勝敗を分ける一番おおきな…技術や、神器の良し悪しよりもはるかにおおきな要因です。とくに、私とたたかうならば」
切り抜けて黒瀬の後方に立っていた沢渡は、振り返って刀を構え直す。
「あなたの心は昂っている。それでは私に勝てない」
沢渡が刀を振りかぶった。真っ直ぐ真上に刀が掲げられる。上から下へ、一閃に切り裂く構えか。
傷の痛みを意識の外へ追いやりながら、黒瀬は沢渡の攻撃を凝視する。今まさに降り下ろされている刀の、その刃の根本を焼き切ろうとし、黒瀬は横一文字に紅蓮を振るった。
またしても、切り込んだ感触が得られなかった。
「がぁっ…!」
黒瀬の横腹に、一太刀入れられた。浅くはないが、致命傷になるものでは無かった。攻撃が当たらなかったと分かった瞬間、沢渡から離れるように身体を捻った。それが功を奏したのだ。
沢渡の刀…月光と呼んでいたか。その刃に紅蓮をぶつけた瞬間のことを、黒瀬の視界は捉えていた。まるで幻影のように、ゆらりと揺れて紅蓮の刃は月光を通り過ぎた。水を斬っているような感覚だった。
そして逆に月光の刃は、こうして自分の腹を切り裂いた。実体が無い訳では決してない。だが、こちらからの攻撃が当たらない。
「神器を持つ者同士のたたかいは、忍耐と思考によってしょうはいが分けられる」
沢渡は先程と同じように、くるりと振り返って黒瀬に向き直った。
「如何にして、相手の能力を知るか。如何にして、自分の能力を相手に知られずにいるか。如何にして、自分の能力を知られないままに相手をころすか。神器は一発限りのマジックです。ネタが知れれば、対策を練ることは容易な場合が多い」
沢渡がにじり寄ってくる。黒瀬は、未だに沢渡のまやかしにも似た攻撃の原理が分からなかった。当然、距離を稼ごうと交代する。
しかし、今度の攻撃は見えなかった。沢渡は、黒瀬の初速には及ばないまでも、先程までのゆったりとした攻撃からはかけ離れた速さで、黒瀬の横を駆け抜けた。
咄嗟に紅蓮によるガードを行った。反撃が通らないならば、せめて防御だけでも。急所となる首から胸のあたりに、紅蓮を置いて防ごうとする。
その動きは読まれていた。黒瀬は右足の膝から下を切断された。
「…っ!?」
声すら出ない痛みだった。バランスを崩して、床に手をついた。
「あなたの神器のタネはわれている。私がしらべたからです。私の神器のタネを、貴方はしらない。私が隠し通しているからです。このじてんで、戦況ははっきりとしている」
紅蓮を握り締め、沢渡を睨み付ける。地を這っている姿勢からのそれは、むしろ滑稽にも見えた。
沢渡は、おもむろに仮面を外した。黒瀬は、驚愕のあまり息をすることすら忘れた。
目が、無い。白目になっているとか、開いていないとかではない。両眼があるはずの位置に何も無く、ただ皮膚がべったりと貼り付くように存在しているのだ。
「冥土の土産に教えてあげましょう。これが、タネです」
沢渡は再び仮面を付けた。
「私は神器を手にする段階で、視力を失うせんたくをしました。その代わりに何を得たか。視力にとらわれない感覚と…相手の視力をあやつる能力」
懐かしむような口調だった。
「貴方に注意深い観察眼があれば…いや、貴方はもっていたでしょう。しかし、はっきできなかった。私のやすい挑発で、心を乱してしまった」
沢渡は月光を振り上げた。
「まあ、安心なさい。人のじんせいなどこんなものです。つまらないと思っている間はおわらないものです。欲しいものが出来た時にはおわってしまうものです。そういう、かんたんなものです」
黒瀬は紅蓮を掲げていたが、最早諦めかけた心情になっていた。ここまで追い詰められてしまっては、心の安定も成すことはできない。片足を失っては逃げることも出来ない。反撃も、恐らく通らないだろう。
しかし、いい。少しの時間しか稼げなかったが、恐らく安堂達は大門を越えている筈だ。…越えているだろう。
それなら、いい。自分一人が死のうが、どうでもいいのだ。皆が逃げのびることが出来るのなら。
そうだ。
いいんだ。
―少佐殿!
いい…のか?
「!?」
沢渡の刃が届かない。黒瀬は虚ろになっていた意識の中で、違和感を覚えた。攻撃の届くまでが長すぎる。自分は走馬灯という奴でも見ているのだろうか。
「なっ…どこへ、いった?」
沢渡は、目の前でそう言った。黒瀬は意識を確かにして、その姿を見つめた。沢渡は降り下ろすはずの月光を自分の元へ戻して、狼狽えている。何が起こっているのか。
『黒瀬君!』
その瞬間、透き通るような、少女の声が聞こえた。それだけで分かった。忘れるはずも無かった。
翠だ。
『あの時は…黒瀬君が私を守ってくれたから…』
黒瀬が自身の足元を見やると、右足が光に包まれ、完全に治癒してしまっていた。肩の傷も、腹の傷ももう無かった。
『だから、今度は私が黒瀬君を守るから!』
黒瀬は飛び出した。未だに困惑している沢渡の懐に潜り込み、その胸を紅蓮で一突きにした。
「がっ!?」
痛みを感じて初めて、沢渡は目の前に黒瀬がいた事に気がついた。その時には既に、沢渡の心臓は貫かれていた。
状況は悟れずとも、自分の行く末については悟った。
「じんせいなど…こんなもの…か…」
笑った。血を吐きながら。
黒瀬が、突いた刃を上に向け、沢渡の身体を切り裂いた。沢渡はそのまま後ろに倒れ、絶命した。
黒瀬は、自分の鼓動の激しさを感じながら、肩で息をしてその死体を見つめていた。
そして気づいたように、周りを見渡していた。
「翠!」
無機質な通路で、前も後ろも上も下も、何度も振り返って少女の姿を探した。
「翠!」
返事が返ってくることは無かった。自分の声のみが響き渡る空間で、黒瀬はただ一人、立ち尽くした。
* * *
幽霊は本当に存在するのか、という問いがある。
皇帝はこの問いに対し、「幽霊などという曖昧な定義の物を確定させることは出来ない。が、類似したものを作り出すことは出来る」という結論を出していた。
人間には、一人一つの魂が宿っている。皇帝はそれを感じることが出来た。神器を授ける力を持つ者ならば、誰でも感じることが出来るだろう。神器を発現するのは厳密に言えば人間ではなく、その魂自体である。
人間の意識もまた魂に宿っており、肉体はそれを体現するための装置に過ぎない。肉体が死んだとき、魂は独立して肉体から離れていく。魂は、その時に強烈に感じることが出来る。
ならば肉体が死んだときに、出で来る魂のみを引き留めて保存することは出来るか?答えとしては、理論上は出来る。だが、実践するにはあまりに難しすぎた。初代東京皇帝ほどの力があれば、あるいは可能だったかもしれない。
だが、そもそもの魂が特殊で、ある程度の強度を持ったものならば、多少強引にでも捕まえることが出来るかもしれない。具体的に言うならば、皇族。それも、自分と同じ力を持った。
そしてある時偶然、自分に近しい皇族の死ぬ所を「視て」しまった。魂を保存しようとしてみると…出来た。出来てしまったのだ。
その時から既に、皇帝には野望があった。胸の奥に隠していた野望。その野望の為に彼女を使うことを決めた。
「もう一度、黒瀬君に会いたい」
見返りとして、その願いを受け入れることとした。必ずいつか会わせてやると誓った。
彼女は肉体にとらわれない行動をすることが可能だった。神器さえ与えることが可能だったのだ。アカデミーの者と新世代計画の脱走者に、それぞれ与えた。
加えて彼女は、ステルス能力という極めて強力な特殊効果を、神器に付与させることが出来た。死んでしまったのが、本当に悔やまれるところであった。その能力は、アカデミーの者を上手く動かすことに、大いに役に立った。
身体や神器の気配を消すことは、「感覚」のみを感じ取って行動する沢渡の目を眩ませることと同等の行為だった。常に注意深い観察眼を持っている沢渡も、戦闘中に突然気配が消えるなどという事象には対応できなかった。
二人の人間に神器を与えた後の彼女には、もう意識を維持するための力が残っていなかった。皇帝がその魂を保存するのにも限界が来ていた。
皇帝は最後に、彼女に自由を与えた。
彼女は最期に、想い人に恩返しを果たした。
そうして、幽霊の物語は終わった。
* * *
黒瀬は何となく、翠がこの世から居なくなってしまったことを悟った。小さく祈りを捧げて、それで終わりとした。
入り口の方面へと振り返った。思っていた以上に時間を食った。早急にブラッドストーンと合流しなければならない。
だがその時、背後には一人の男が佇んでおり、その男とぴったり目が合った。
「大佐」
見慣れていた、強面の男がそこには居た。
「自分を、討ちに来ましたか」
「いや、違う」
黒瀬はその返答を怪訝に思った。自分は帝国に逆らったレジスタンスである。その征伐のためにやって来たのではないのか。ならば、何のために。
「俺は、お前の思いを尊重する。お前が帝国から抜け出したいのなら、そうしたらいい」
黒瀬は内心驚いていた。鬼塚に対して、私心や恩情よりも、大義や命令を重視するタイプだと思っていたからだ。
「では、何故ここに」
鬼塚はしばらく黙った。
「謝りに来た」
「謝る?」
そこでまた驚いた。ただ単に別れの言葉を言いに来た訳でもないらしい。
「俺はお前に、何もしてやれなかった」
「そんなことは。自分の為に尽くしてくれました」
鬼塚は首を振った。
「お前の自由に、お前の思うように生きさせてやりたいと思っていた。だがそれは、俺の責任を放棄していたのと同じだ。…お前の想っていた人を助けるのにも、手助けをしてやれなかった」
「…雅はどうしたって、助かりませんでした。それに、大佐に何の責任があったと言うのですか?」
鬼塚はその言葉に、胸を締め付けられる想いだった。
「大佐は無償で自分を拾って、育ててくれました。アカデミーにだって入れてくれた。そんなことをする責任も義務も無かったのに。それだけで、自分は感謝してもしきれません」
「…そう、か」
本来ならば嬉しい筈の言葉だったが、今の鬼塚にとっては、心を突き刺す鋭利な刃物でしか無かった。
その通りだ。自分に責任など無かった。子を捨てた親に、子を束縛する責任などある筈もない。それなのに、黒瀬をここまで見守って、育ててしまった。
一重に、自分のエゴイズムだった。
結局、父親面がしたかっただけなのだ。
今更父親だと名乗る資格は無いと、そう言い訳して、隠し続けた。隠しながらも黒瀬と関わり続けた。これ以上ないほどに狡猾な選択だった。
黒瀬に対し申し訳ないと思うならば、最初に自分の素性を明かすべきだったのだ。ただひたすらに謝り、懺悔し、その上で黒瀬と共に生きていくことの許しを得るべきだった。得ようとするべきだったのだ。自分にはその勇気が無かった。
心の内で苦しみ続ける鬼塚は、長い間黙っていた。その内、黒瀬が切り出した。
「もう、時間が無いので、行きます」
「…ああ」
引き留めることなど出来ない。
黒瀬は鬼塚の横を通り過ぎ、入り口に向かって歩いていく。黒瀬より一回り大きなその背中も、威厳を失ってしょんぼりとしていた。
黒瀬の足音だけが響いていく。このまま、一生息子と会えなくなってしまうのか。
「黒瀬!」
振り返らないままに、その名前を呼んだ。懇願に近かった。
黒瀬は足を止めた。やはり、振り返りはしなかった。
「俺は」
声が震えていた。
「俺は、お前の」
父親だ。父親なのだ。今まで黙っていて済まなかった。お前を息子として誇りに思う。これまでのことを、父親として謝らせてくれ。息子として、叱ってくれ。出来ることなら、「父さん」と呼んでくれ。
俺は、お前の、父親なんだ!
「お前の事を、…本当の、息子のように、思っていた…」
言葉尻は、ほぼ呟きのようになり、掠れるほど小さい声になっていた。
結局最後まで、勇気が足りなかった。自分という人間の小ささに、自分で呆れ返った。
「自分も」
黒瀬が返答した。半ば朦朧としている意識の中で、鬼塚はそれを聞いた。
「…俺も、貴方のことを、本当の父親のように思っていました」
鬼塚は目を見開いた。そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。
「だから、今から言うのは、俺のただの戯言です。最後に、言わせてください」
黒瀬は右足を踏み出すのと同時に言った。
「ありがとう、父さん。さようなら」
鬼塚は振り返った。そこにはもう、息子の姿は無くなっていた。全ての感情を含有したような心持ちで、ぼんやりと、その通路を見つめ続けた。