M9 和服、眉目秀麗
「難しいなぁ。僕、特に何もしてないと思うんだけど」
そう言って、信吾は考え込んでしまった。
信吾は、志信の目から見てもかなりのイケメンである。若いころはさぞかしモテただろうし、もしかして、一目惚れしたのは佳菜子の方なのではないのか、と思う。
そうなると、髪型でなんとかごまかしているレベル(と思う)の志信が、信吾から手ほどきを受けたところで通用しないのではないのかと思うのだ。何せ、相手はめちゃくちゃ可愛いハーフの女の子である。
明日、小町が教室に登場したら争奪戦が始まるのは目に見えていた。
「祥太朗さん、俺と信吾さんでは持ってるものが違いすぎて、たぶん、意味ないと思います」
「そうか?結構イケてると思うけどな、俺は」
謙遜気味に言う志信に、祥太朗はさらりと言う。
「祥太朗さんにそう言ってもらえるのは嬉しいですけど……。俺、こんなにカッコよくないし……」
ちらりと信吾を見る。信吾はまだ考えているようだ。俯いて握りこぶしを口元に当てたままぴくりとも動かない。
「父さんは……まぁ、たしかにイケメンだけど、和服の雰囲気もあると思うけどな。お前も着てみたら?」
祥太朗はいたずらっぽく笑う。
「無理っすよ。着付けとか」志信もそれにつられる。
「ま、それは冗談だけどさ。お前、歌すっげぇうまいじゃん。そういうとこ見せたら?ぐっときちゃうんじゃねぇの?俺が女だったら一発なんだけどな」
「歌……は、ちょっと自信ありますけど……。でも、学校では歌わないようにしてるんすよ」
「もったいねぇ!何でだよ!」
「何か、周りの雰囲気っつーか、そういうんじゃないんですよね、ウチのクラス」
「じゃ、彼女の耳元で歌ってやれって。イチコロだぜ」
そう言って祥太朗はニヤリと笑う。
「父さん、もういいよ。俺が悪かった。アドバイスは俺がしたから、もういいや」
祥太朗は信吾の肩を軽くゆする。信吾はやっと顔を上げた。
耳元で歌う、これが祥太朗のアドバイスらしい。そんなんできるわけないだろ!
「声ってのは、結構いい武器になるんだぜ。母さんも父さんの声は素敵だっていつも言ってるしな」
「えぇっ!」
信吾が驚いた声をあげる。こんな声をあげるのは珍しい。見る見るうちに信吾の顔が赤くなっていく。
「佳菜子が……僕の声を……?」
「あれ?初耳?」
「……祥太朗さん、信吾さん耳まで赤いっす」
「……うわ、マジだ」
「……コレ、言っちゃダメなやつだったんじゃないですかね」
「……だったかもな。うわー、すげぇこんなの初めて見る。レアだぞ、志信。よく見とけ」
祥太朗さん、あなたもさっきこんな感じでしたよ。
まったく、この親子は何なんだ。こりゃ女の方が放っとかないでしょ。
志信はだいぶぬるくなったコーヒーを一気に呷った。




