M5 帰り道、ORANGE ROD
「んじゃ、行こうか」
並んで歩くと、なんか照れるな。
なんて考えてみるものの、おそらく、向こうではそんなこと意識してないんだろうな。
無言になるのが気まずくて、必死に会話のネタを探す。
「あのさー、髪、意外と黒っぽいんだな。俺、ハーフの子って金髪とかなのかと思ってた」
「……やっぱりそう思うよね」
ちょっと声のトーンが下がる。
ヤバい、こういうのってあんまり触れない方が良かったのかな。
「……ごめん、もしかしてハーフとか言われんの、やだったり、する?」
「ううん、ハーフなのは事実だし。たぶん、明日からも言われるだろうから、慣れておかないと」
そう言って笑ったが、その顔はやはりちょっと無理しているように見えた。
「……それでも、やっぱごめん。俺、考えなしで……」
「いいの。謝らないで。髪はね、こういう色も結構多いんだよ、私が住んでたところでは、むしろブロンドの方が少なかったんだから」
「そういうもんなのか」
「そういえば、私の友達がね、すっごく綺麗なブロンドだったんだけど、アジア人の黒髪に憧れて、真っ黒に染めたことがあったのね」
さっきまでの暗い表情とは打って変わって、明るい顔で小町が話し始める。
「私は見慣れないから、やっぱり前のブロンドの方がいいなって思ってたの。でもその子はとっても気に入っててね……」
「うんうん」
「でも、しばらくしたら、金髪が生えてくるわけでしょう?頭の真ん中だけ金色で、すっごく目立ってて……。皆から笑われちゃって。その子もそれで、もう黒髪になんてしない!ってもう大笑いで」
「それは確かにすっげぇ目立つな。回り真っ黒で中心が金だろ?こう言っちゃあれだけどさ。ちょっと……河童みたい……」
「河童!そう!それ!やっと出てきた……。名前が出てこなかったんだぁ……」
小町は顔を真っ赤にして笑っていた。
何だよ、結構笑う子じゃんか……。
笑いすぎたためか、少し涙も出てきたらしい、指で涙をぬぐっている。
「面白いね、谷山君」
「いやいや、面白かったのは小町の話だからさ。笑った方が絶対いいよ。話しかけやすいしさ」
「そうだね。頑張る」
そう言って微笑む小町は、本当に可憐で可愛いと思う。
いやいや、転校生が可愛くって、家が近くて、席が隣って、何このベタな展開!これ完全に好きになっちゃうパターンじゃねぇの?
そんなことを考えると、小町の顔をまともに見られなくなる。
どうしたものかと思っていると、ちょうど寄ろうと思っていた本屋が近いことに気付いた。
「ちょっとだけ寄って良い?雑誌買いたいのあって」
「いいよ」
自動ドアをくぐり、店内に入る。まっすぐ音楽雑誌のコーナーに向かう。
ちょっと寄るだけ、と言ったからか、小町は後をついて来ていた。
別についてこなくてもいいんだけどな。
そう思いつつも、可愛い女の子をつれて歩くというのはちょっとした快感だ。
今月号の『ROCK NOW』を手に取る。毎月買っているわけではないが、今月号にはお目当ての『ORANGE ROD』が載っているのだ。読みたい気持ちをぐっとこらえ、レジへ持っていく。
会計を済ませ、店を出る前に「小町は何か見たいの無いの?」と一応聞いてみたが、特にないらしい。
この本屋を通過すれば、家まではもうすぐだ。なんとなく名残惜しい気もする。
「谷山君、そういう音楽聞くの?」
買った雑誌のタイトルを見たのだろう。小町が問いかける。
「ああ、まぁ、そんないろいろ知ってるわけじゃないんだけどさ、最近はまったユニットがあって。イギリスの方じゃ聞いたことないと思うけど」
そう言って、袋から雑誌を取り出し、表紙に書かれたユニット名を指す。
「えーと、『ORANGE ROD』?オレンジの棒?」
「その辺の意味は俺もファン歴浅いからよくわかんない」
「ねぇ、どういう感じの音楽なの?」
「んーと、平たく言うと……、ロック、かな。女の子にウケるかはわかんないけど、アニメの主題歌になったりもして聞きやすいのもあるよ」
「そうなんだ……」
「小町は普段どんな音楽聞くの?」
「割と何でも聞くよ。ポップスもクラシックも聞くし、パパが演歌好きだから演歌も聞くよ。もちろん、ロックも。イギリスにもロックバンドはたくさんいるし。ねぇ、もしよかったら、私も聞いてみたいな、そのユニット」
「あ、じゃ、明日CD持ってくよ」
「ありがとう。楽しみにしてる」




