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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
40/41

M40 賢太にお任せ!

 賢太は鞄の中から小さな折り畳みの鏡を2枚取り出した。100均で買えそうな安っぽい鏡だ。「あそこでごめんねって握手でもしててくれりゃこんなことしなかったのになぁ」とつぶやきながら鏡面に触れないよう慎重に開く。

 鏡面を上にして机に置くと、睦と夕夏(ゆか)の目をまっすぐに見た。

「これに両手の指紋付けて」

「え?」

 声を発したのは夕夏だった。咄嗟に両手を後ろに隠した。

「俺の親父ね、鑑識官なんだ。わかる?ドラマとかで指紋ポンポンやってる人」

 賢太はまたにっこりと笑った。

「そんな……」

「ちなみに~、俺はビニール袋を手に被せて拾ったから、俺の指紋はついてないからね。まぁ、靴屋さんの指紋はあるかもしれないけどさぁ……。でも、さすがに友達でもさ、靴の甲とか裏に触ることなんて普通ないじゃん?あんな風に切り刻むなら、絶対ベタベタ触ってると思うんだよなぁ」

 賢太は楽しそうに笑って「俺、名推理じゃね?」と志信(しのぶ)の方を見た。

「で?指紋は?どうすんの?それとも、ゴメンナサイする?」

 再度2人に向き合ってにこりと笑ってみせる。

「人のものを壊したり傷つけたりって、器物破損罪ってのになるんだよね。これ、親父からすっげぇ言われたから覚えてるんだ、俺。3年以下の懲役又は30万円以下の罰金だぞーって。親父に指紋提出したら、さすがにそういう話になっちゃうんじゃねぇかなぁ……」

 宙を見つめ、噛みしめるように言う。さすがに未成年だし、そこまでにはならないと思うのだが、睦と夕夏をびびらせるのには充分だったようだ。

「ごっ、ごめんなさい!」

「あたっ、あたしも、ごめんなさい!」

 真っ青な顔で睦と夕夏は頭を下げた。ただし、その方向は間違っている。

「俺にじゃないでしょ?誰に謝るの?」

 賢太は諭すように、ゆっくりと言った。その言葉で2人は下を向いたまま小町の方へ身体を向け、さっきよりも小さな声でごめんなさい、と言った。

「いいよ、もう。それでも、仲良くしてくれてありがとう」

 小町はだいぶショックを受けていたはずだが、それでも笑った。

「はいはーい、そんじゃ一件落着ってことでぇ~。何かちょっと霞んじゃったけど、ここのカップル誕生に皆さん拍手~」

 賢太はパンパンと手を叩きながら立ち上がり、重苦しい教室の空気を吹き飛ばすような明るい声でクラスメイトの拍手を促す。その言葉でパラパラと手を叩く音が聞こえ始め、やがてそれは徐々に大きくなっていった。

「おぉ?何だ何だ。何盛り上がってるんだ?」

 拍手の溢れた教室に怪訝な顔をして関が入ってくる。立花聡が「ノブと小町が付き合うって!」と説明する。

「何だ、谷山、やるじゃないか。んじゃ、そんなハッピーボーイは今日俺の雑用な」

「何でそうなるんすか!」

 理不尽な命令に思わず立ち上がると、関は右手で『座れ』のジェスチャーをしながら「独身男の僻みかな」と笑った。

 口をとがらせて座りながらちらりと小町を見る。

 ごめんな、何か大事にしちまって……。

 小町は顔をくしゃっとさせて笑った。


「まさかお前の父ちゃんが鑑識官だったとはな」

 昼休み、さすがにもう睦と夕夏のところへは行きづらく、小町も一緒に昼ご飯を食べている。

「え?ああ、そんなわけないじゃん」

 賢太はストローをくわえたままニィっと笑った。

「は?だってお前あんなにすらすらと……」

 暗記がめっぽう苦手な賢太の割に、器物破損罪の件はやけに流暢だった。

「あー、それは本当だよ。俺、ちっちゃい頃から落ち付き無くてさぁ、しょっちゅう家のもの壊してたから、親父に人のもん壊したら大変だぞって毎日言われてたんだ。俺の親父はふつーのサラリーマンだよ~ん」

 へっへっへと笑って紙パックを持ったまま人差し指をくるくると回す。

「お前……、結果オーライだったから良かったけど……」

 とんだハッタリ野郎だ。すげぇな、コイツ。

「ふふん。名演技だったろ?俺、推理物のドラマとか漫画とか好きなんだよなぁ~」

「最上君、役者さんみたいだね」

 小町も楽しそうに笑っている。

 何はともあれ、これで良かったんだろう。

 

 あとは、小町の目だけだ。


 志信は、未だ眼帯の取れない小町の顔を見つめた。



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