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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
39/41

M39 VS!

「おはよ……」

 相変わらず小町は来客用のスリッパで教室に入ってきた。

 俯き加減なのは、スリッパであることの恥ずかしさか、はたまた昨日の電話のせいか。

「おはよ」

 志信(しのぶ)は軽く手を挙げて小町に挨拶をする。小町の目をじっと見つめて、ゆっくりと頷いた。

「……ぉ、おはようっ、志信君」

「おはよう」

 そう言ってにこりと笑う。心の中で、よくやった、とつぶやいた。

 案の定食いついてきたのは既に教室にいた睦だった。いかにも仲の良さそうな笑みを浮かべて近づいてくる。

「あれぇ~、小町、おっはよぉ~。いつの間に谷山君とそんなに仲良くなってんのぉ~?」

 昨日までは好意的に見えた仕草や話し方も、今日は白々しく見えて腹が立つ。

「おはよう、睦ちゃん……」

 小町は笑顔を作っているが、それが無理やりだというのはすぐにわかった。

「仲良くなったのは、昨日からだよ。俺ら、付き合うことにしたんだ」

 そんなに大きな声で言ったつもりはないが、そういう話が大好きなお年頃である。1人が聞きつけると、あっという間に教室中に広まる。

「何それ……。小町……?」

 睦は引き攣った笑いを浮かべて小町を見つめた。何よ、話が違うじゃないとでも言いたげである。何だ、心って案外読めるもんなんだな。

「なぁ、だからさぁ、橋田の気持ちは嬉しいけどさ、俺、ぜんぜんお前のこと好きじゃねぇし、ごめんな」

「……っはぁ?い、意味わかんないし!あたしが谷山君のこと好きとか、マジありえないんすけど。っつーか、自意識過剰ってやつぅ?」

 明らかに動揺している。真っ赤な顔をして、目が泳いでいる。

「ふぅん。別に俺の勘違いならそれでもいいけどさぁ。そっかぁ、俺と小町が話してる時に『あたしの谷山君から離れなさいよ、このブリッコ』って聞こえたのは空耳かぁ」

「えっ……?」

「あとさぁ、昨日見せてくれたCDだけどさ、ちゃんと宇部に返しとけよ。別に無理して買えなんて俺言ってないしさ。あと、『結構谷山君って落とすの簡単』とかうるせぇよ。俺がいつ橋田に落ちたんだよ」

 机に頬杖をつき、目を細めて睦をにらみつけながら言う。もちろんこれはすべて小町が読んだものだ。

 目の前にいる睦は初めは真っ赤な顔をしていたが、隣のクラスの宇部恭介の名前が出て来た辺りから血の気が引き始めた。

「そんでさぁ、橋田、小町の靴はどこに隠したんだ?……俺はわかってるけどさぁ、いまここでゴメンナサイした方が得策だと思わねぇ?クラスの女子煽っていじめとか、陰湿過ぎんだろ、お前」

 この一言で、教室内がざわつく。ほとんどの女子は自分に飛び火しないように下を向いている。

「べ……つに、隠してなんかないし!いじめとか意味わかんない!小町の被害妄想なんじゃないの?ちょっと可愛いからってさぁ」

 睦は平静を装ってそう言ったが、膝が震えている。

「ちょっとじゃなくて、すげぇ可愛くな~い?」

 そう言いながら、賢太が教室に入ってくる。「おっはよ~。何か朝から険悪だねぇ」

 賢太は鼻歌交じりに持っていた鞄を自分の机に置くと、志信の方を見てニヤリと笑った。

「やっぱりお前らくっついたんじゃん。ごめんね、話中断させちゃって。えーっと、橋田と佐々木がつるんで小町をいじめてたって話だっけ」

 賢太には昨日の夜に連絡済みだ。

 賢太の口から自分の名前が出てきたことにどきりとしたのか、佐々木明奈が「あたしじゃない!」と叫んだ。

「わかってるって、夕夏(ゆか)の方だよ。んでさぁ、志信が言った通り、焼却炉の脇に小町の上靴捨てられてたから、回収してきたよ~」

 賢太は部活用のスポーツバッグから、ビニール袋に入った上履きを取り出して見せた。透明な袋の中の上靴は刃物でズタズタにされ、見るも無残な状態になっている。

 このタイミングで教室に入ってきた夕夏は賢太が持っているビニール袋を見て、短い悲鳴を上げた。

「お、来た来た。もう1人~。別にさぁ、しらを切るならそれでもいいんだけどさぁ、俺、こういう陰湿なのって大っ嫌いだしさぁ。もちろん、そんな子を好きになる可能性なんて限りなく0だよねぇ。っつーか、マイナス?」

 賢太はニヤニヤと笑いながら靴をバッグの中にしまい、小町の方を向いて「小町、新しい上靴はさ、聡ん家が靴屋だから、ぜひそこでお買い上げよろしく~」と笑った。賢太の子の言葉で立花聡がぜひ!と言って勢いよく手を挙げると、教室内に少し笑いが起こった。

「で?どうすんの?謝るの?」

 賢太はにこにこと笑ったまま、固まっている睦と夕夏に言う。

「だって……、あたしたちがやったって、証拠なんか……」

 睦は泣きそうな顔をしながらぼそぼそと言う。

 志信がため息をついて賢太をちらりと見る。まさかここまで往生際が悪いとはな。想定はしていたものの、志信にはこれ以上の策はなかった。

 志信と賢太が黙っているのを見て、これ以上の追及はないと踏んだのか、夕夏が畳みかける。

「そうだよ!あたし達がやったなんて証拠ないのに、悪者扱いして酷いよ!あたし達、いちばん最初に小町と仲良くしてあげたのに!」

 仲良くして『あげた』って何だよ……。損得丸出しじゃねぇか。

 あのなぁ、と志信が腰を浮かせたのを賢太が右手で制する。

「そこまで言うならさ、はっきりさせようか」

 


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