M33 僕でも読めたよ
飲み物が運ばれ、騒がしい二人がリビングに戻ると、急に静けさが襲ってくる。
何をどう話したらいいのだろう。
そう思って小町をちらりと見ると、小町の方でも、これから一体何が始まるのかと警戒しているように見えた。
「2人とも、そんなに緊張しないで」
信吾だけはいつもと変わらない。暖かい日だからか、今日は冷えた麦茶の入ったコップが3つトレイの上に並べられている。各自、自分の物がわかるように、という配慮からか、それぞれの色が違う。
信吾は淡いブルーのコップを取ると、一口含み、またトレイの上に戻す。
ふぅ、と軽く息を吐くと、ゆっくりと小町の方を向き、口を開いた。
「いきなりこういうことを言うと、びっくりするかもしれないし、気味が悪いって思うかもしれないけど、とりあえず、最後まで聞いてくれるかな」
いつものように穏やかな語り口で、話し出す。小町は、信吾の雰囲気にすっかり呑まれているようだった。
「右目も……何かつけているよね」
突然の指摘に驚いたのだろう、一度、小町の目が大きく見開かれる。信吾は小町からの返答を待たずに続けた。
「いま、少しだけ外せる?あれ?それって、そんなに気軽に外しちゃいけないものなのかな」
「え?えぇっと、大丈夫……です。でも……」
「心配しないで。僕は大丈夫だから」
その言葉に後押しされ、小町はゆっくりと右目のコンタクトを外した。外したレンズはどうするのだろう、と志信が見ていると、「谷山君、鞄の中にケースが入ってるんだけど、取ってくれないかな」と言った。
小声で「失礼します」とつぶやいて小町の鞄を開ける。きちんと整頓されているその中に、小さなプラスチックのケースがある。
「コレ?」と渡すと、エメラルドグリーンの瞳でじっと見つめた後、にこりと笑って受け取った。外したコンタクトをその中にしまう。
「久しぶりに見たよ。綺麗な瞳だね」
それだけ聞くと、まるで口説き文句のようだ。信吾の口からそんな台詞が出てきたなんて祥太朗が知ったら、何て言うだろう。
「久しぶり……ですか……」
「ああ、君の瞳ではないんだけどね。僕は君と同じ子達に会ったことがあるんだ」
「私と……、同じ……」
「さて、ここには志信君がいるわけなんだけど、いろいろ話しても大丈夫かな。もし君が聞いてほしくなければ、席を外してもらうけど」
小町はちらりと志信の方を見た。
小町、俺はさ、お前が嫌なら聞かねぇよ。……ほんとは聞きたいけどさ。
……って、これ読まれてんのか!やべぇ!
拗ねたように口をとがらせた後で、明らかに動揺している志信を見て、小町はくすくすと笑った。そして、信吾の方を向く。
「大丈夫です。谷山君がここにいても」
「それなら、良かった。あと、志信君、いまのは彼女じゃなくても僕でも読めたよ」
「読めたって……、何を……?」
「君の、心だよ」
信吾は目を細めて笑った。




