M31 turn off the love
少しでも早く櫻井家に着かなければ。ここで下手に説明してしまったら、道中が無言になる危険性がある。
校内で信吾の話はしづらいので、仕方なく、雑用係の苦労話を語ってみる。
ネタが尽きかけると、関のネクタイピンに話題をスライドさせる。今日は肉球だったよな、というと小町も気付いていたらしく、かわいかったね、と笑った。
「そうそう、関先生のネクタイピンなんだけど、どこのブランドか知ってる?」
珍しく、小町から問いかけられる。
「ブランド……。そう言えばそういうのって聞いたことないな。ていうか、アレ全部同じブランドなのか?」
「ちょっと気になっちゃって、関先生に聞いてみたの、そしたらね……。谷山君、びっくりだよ」
そう言うと、小町は軽く顎を引いて上目づかいになり、いたずらっぽく笑った。
やべ、すげぇ可愛い……。上目づかいなんて媚び売ってるみたいで嫌だって思ってたのに、何だよ、なんでこんな可愛いんだよ。
無意識にそう思ってしまい、慌てて、取り繕うように次の言葉を探す。
「び、びっくりってなんだよ」
「全部ではないみたいなんだけど、ほとんどが『turn off the love』ってブランドのみたいなのね。で、そのブランドのデザイナーさんっていうのが……」
「いうのが?」
「何と!」
「……随分もったいつけるんだな」
「ふふ、ごめんごめん。あのね、『ORANGE ROD』のAKIさんなんだよ!」
「……っえ?ええ?マジ?」
「マジだよー。ネクタイピン以外にもあるのかなって、ネットで調べてみたら、ホームページに普通に書いてあってね」
「多才だな……。ツアーグッズのデザインしてるのは知ってたけど、普通にデザイナーだったんだな」
「みたいね。でも、『turn off the love』の方は完全にAKIさん個人でやってるみたいだから、ORANGEは無関係みたいだよ。特にコラボ商品ていうのもないみたいだし」
「なんか、AKIさんらしいな。あの人、すっげぇ寡黙なんだよな。コーラス以外しゃべらないんだよ」
「そうなの?コーラス以外って、テレビとかは?」
「もともとあんまりテレビ出ないユニットだし……。あのユニットはヴォーカルがしゃべり担当だから。つうか、本職もアナウンサーだしな」
「え?SHOWさんってアナウンサーなの?」
「あれ?知らなかったか?あのユニットって、もともと朝の情報番組の企画で結成したんだよ。まさかここまで売れるとは思わなかっただろうけどな」
「そうなんだ……。知らなかった……」
「まぁ、時間的に俺らは見れないけど『シャキッと!』ってやつと、あと、深夜も『極楽音楽』って番組でMCやってるよ」
「なんか意外……。あんなロックな人がスーツ着てMCするなんて……」
小町は口に手を当てて、固まっている。相当驚いたのだろう。
志信もそれを知った時、朝の番組を録画して見てみたことがあるが、頭のてっぺんからつま先までまるで別人のようで、にわかには信じられなかった。
しかし、その番組の最後でしっかりとニューアルバムのリリース情報とそれに伴うライブツアーの告知をしており、アナウンサー用と公言している伊達眼鏡を外すと、ステージで見せるような色っぽい目つきで「よろしく!」と言い、得意のウィンクだ。スタジオからはコメンテーターやスタッフ達のわざとらしい黄色い声援が上がり、照れくさそうに眼鏡をかけると「それでは、また明日!」とアナウンサーの声で締めた。
「何ていうか……。色々と不思議なユニットだよね。次々と私の知らないことが出てきて面白い……」
「だろ?なんつーか、アナウンサーとロックヴォーカリストのギャップがまたいいんだよ。あとはさ、あの二人って、ルームシェアしてんだぜ?」
「ルームシェア?」
「SHOWさんって、まったく料理できないみたいでさ。で、AKIさんは料理がプロ級なんだと。で、逆にAKIさんは掃除関係が不得意で、SHOWさんが綺麗好き、と」
「すごい、補ってるね!」
「一緒に住んでると曲作りの時も楽みたいだよ、やっぱり」
「なんか、いいねぇ。楽しそう」
そう言って笑う小町も楽しそうだ。良かった。ORANGEの話題なら、いくらでも話せる。
「で、そう言えばさ『turn off the love』って、ネクタイピン以外もあったの?」
「え?あ、ああ。えーとね、メンズもレディースもいろいろあったよ。でね、意外とそんなに高くないの!ちょっと頑張れば高校生でも買えそうなくらい。ネクタイピンも5000円くらいだったかなぁ……」
「デザインは?……って、グッズの感じからして、悪いわけないよな。でも、レディースのデザインもあるってのは意外かも。AKIさんもSHOWさんもいっつもごついのつけてるし」
「メンズのは結構大振りでごつごつしてる感じだったけど、レディースのは、メンズのをそのまま少し細目にした感じっていうか……。うーん、これは口で説明するの難しいかも」
「そっか。帰ったら、パソコンで見てみるわ。店舗はやっぱ東京かなぁ。夏休みにでも行ってみるかなぁ。AKIさんはさすがにいないだろうけど」
「えっ!私も行きたい!一緒に行こうよ!」
「そうだなぁ……。賢太の合宿がかぶってなければ誘えるかな……」
「最上君も誘うの?最上君もORANGE好きなの?」
「いや、アイツとはそういう話ってしないな。あんまり音楽に興味ないっていうか……」
「それじゃ、誘っても意味ないよ」
「でも、怒るんじゃね?さすがに二人っきりはさ……」
「……何で最上君が怒るの?」
「何でって……それは……」
「おや、お帰り。志信君」




