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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
30/41

M30 目撃、放課後

 小町は、賢太の心も読んでいるのだろうか。

 賢太はこういう時何を考えているんだろう。

 小町は、その賢太の心を読んでどう思っているんだろう。


 ああ、クソッ!ほんと俺って女々しいやつだな!

 

 小町には筒抜けかもしれないが、せめて賢太には気取られないように、いつも通りの表情を作る。

 たぶん、いつもの俺ならこういう時『やれやれ』みたいな顔をしてるんだろ。

 どうやらそれは正解だったらしく、賢太は「またそんな顔する~!」といつものように右手の人差し指をくるくると回しながら、笑った。


 ほとんど無意識にだったが、何となくいつもよりも丁寧な字でノートを取っていることに気付く。


 後から見直す時に見やすいようにしてるだけだからな!

 別に小町に貸すかもしれないとか、ぜんぜん考えてねぇし!


 自分自身にそう言い訳していると、隣から「ふふっ」と息が漏れたような小さな声が聞こえた。

 普段なら、教室のどこかから聞こえてくる咳払い並に聞き流すようなものだが、聞こえてきたのが隣の席である以上、無視できるものではない。

 ……聞かれたな……。

 おい、心を読まないようにするんじゃなかったのかよ。

 横目でこちらを見ている小町に視線を重ねて、眉をしかめ、そう念じてみる。こういう時は便利だな。疎通ができればもっと良かったけど。

 小町はゆっくりと瞬きをしながら軽く頭を下げた。やはり、伝わったようだ。

 そうだ、そういえば……。

 そのままの状態でもう一度念じてみる。

 おい、小町、今日空いてれば、ちょっと会って欲しい人がいるんだ。

 不思議そうな表情で見つめる小町の目を凝視して、強く念じる。

 あれ?読めてないのか?おい、おいってば。

 いつの間にか授業そっちのけで完全に身体を小町の方へ向けていた志信(しのぶ)は、背後に忍び寄る関の影に全く気付かない。

 パコン!

 後頭部に軽い衝撃。

「いっ?」

 頭を押さえて振り向くと、丸めた教科書で2発目の構えを取っていた関の姿があった。

「せ、先生……」

「谷山ぁ……。お前は授業中になーに熱視線送ってんだよ。小町もドン引きじゃねーか」

 関の言葉で教室が笑いに包まれる。

 志信がいたたまれない気持ちで頭をさすっていると、関は小声で「それも青春だがな」と言ってニィっと笑った。きらりとシルバーの肉球付ネクタイピンが光っている。

「じゃ、そんな谷山には、罰として俺の雑用手伝ってもらうかなー。放課後の、資料運び手伝ってくれ」

 関は志信の背中を軽くたたいた。

「はい……」

 当然拒否権などあるわけがない。

 関は丸めた教科書を元通りに直しながら、すたすたと教卓へ戻る。そして、何事もなかったかのように授業は再開された。

 小町のせいだぞ。

 怒り、というほどでは無いものの、この気持ちをどう処理してよいのかわからず、矛先を小町へ向けてみる。

 小町もそれを読んだのだろう。申し訳なさそうな顔をして肩をすくめた。


 俺から誘っておいて、まさかこんなことになるとはな。

 志信は関の雑用――資料運び――を終え、駆け足で教室に向かいながらそう思った。

 小町、待ってんのかな。それとも、もう帰っちまったかな。

 壁にかかっている時計を見ると、もう1時間は経過している。

 むしろ、ここまで待たせちゃったら、帰ってくれた方がありがたいかも……。

 と思いつつも、もしかして、という思いでそぅっと教室のドアを開ける。


 人気のない、静まり返った教室。

 そこに、小町はいた。

 でも、いたのは小町だけではない。

 もう1人、背の高い男。

 そいつは志信に背を向けて立っていたが、それが誰かなんて志信にはわかりきっている。

 いつもいっしょにいる、アイツ。賢太だ。見覚えのあるジャージ姿。

 小町と賢太は志信の対角線上で向かい合っている。

 音を立てずにドアを開けたからだろう、2人は志信の存在に気が付いていない。

 どうしよう、俺……。でも、鞄置きっぱなしだしな……。

 とりあえず、声をかけようかと思った。

 その時――。

 

 小町が、左目の眼帯を外した。

 志信からは見えないが、おそらく、あのきれいなエメラルドグリーンの瞳で賢太を見つめている。

 そして賢太もおそらく、その瞳をじっと見つめているのだろう。

 

 何だか見てはいけないものを見ているような気がして、とりあえず仕切り直そうとドアに手をかける。 そして、開けた時と同じようにゆっくりと音を立てずに閉めた。

 それでも、視線は最後まで2人の姿を捉えていた。

 2人の姿が閉じるドアで遮られる瞬間、賢太が小町の両肩に手をかけ、顔を近づけるのが見えた。

 

 ……っ、はぁー。

 ドアを完全に締め切ると、途端に力が抜けた。入り口の前でしゃがみこんでため息をつく。

 最後まで見なきゃよかった……。いや、アレが最後とは限らない、か……。

 たぶん、アレって、アレだろ?キスってやつなんだろ?どうせ。

 なんだよ、やっぱり賢太なんじゃん。そんで、賢太も小町なんじゃん。

 まんざらでもねぇんじゃん。何が『お前らくっつくんだと思ってたけど』だよ。

 くっつくのはお前と小町じゃねぇか……。

 はぁ……。

 もう一度ため息をつく。

 どうすっかな、鞄。つうか、賢太部活じゃねえの?

 ふぅっと強めに息を吐き、気合を入れて立ち上がる。

 別に失恋なんかじゃねぇよ、俺。『友達』だしな。

 そう言い聞かせて、今度は気持ち強めにドアを開ける。


 頼む!キスの真っ最中じゃありませんように!


 志信の心配は杞憂に終わった。

 小町は先ほどと同じ場所に立ってはいたが、賢太は部活用の鞄を背負ってこちらに歩いて向かってくる途中だった。

「お、雑用係。お勤めご苦労さん!」

 ニヤニヤと茶化すように笑う賢太は、いつもと何ら変わりない。

 ……これだから、モテ男ってやつはよ。何だよ、平常心かよ。

 心の中で毒づきながらも、志信もいつも通りに返す。

「おかげさまで、無事、お勤め果たし終わりましたよ、っと」

 すれ違いざまにハイタッチする。

「頑張れよ、部活」

「おうよ」

 いつもの短いやり取りが終わると、賢太は教室を出て、部活へと向かった。

 教室には小町と2人きりである。

 どんなに繕っても、どうせ心を読まれてしまうのだ。

 だったら――。

「小町、待っててくれたってことでいいんだよな?もしよかったら、ちょっと会って欲しい人がいるんだけど、今日時間大丈夫か?」

 考える間もなくしゃべってしまえばいいんだろ?沈黙は駄目だ。余計なことを考えちまう。

「時間は、大丈夫だよ。でも、会って欲しい人って?」

「とりあえず、歩きながら話そう。仕度は……大丈夫そうだな」


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