M3 転校生、マグノリア・小町・バレー
「すっかりお待たせしまして」
志信に話しかける時とは明らかに違うトーンの関の声だ。
先客がいるのか。
顔を上げ、関の背中越しに室内を覗く。
2人掛けのソファが2つ。間に大きいテーブルが置いてあり、中央には邪魔にならない大きさの花が活けてある。
その2入掛けソファには、女性が2人腰掛けていた。1人は真新しいこの学校の制服を着た少女だ。髪の色がやや明るい。
もう1人はおそらく彼女の母親だろう。関に気付くと素早く席を立ち、丁寧に頭を下げた。
「お掛けになってください」
関が促すと、女性は会釈をしながら、またソファに座った。
関は母親の真向かいに座り、志信はその隣に座る。
志信は、向かいに座っている少女を見た。一度もこちらを見ることもなく、ずっと下を向いている。
どうやらそれを関も凝視していたらしい。母親は決まりが悪そうな表情を浮かべる。
「すみません……。ちょっと人見知り……というか……」
「あ、ああすみません。こちらこそ……」
関はそう言うと、持参していた紙袋から書類を取り出し、母親に渡す。
俺、何でここにいるのかな……。
志信は目の前の少女が顔を上げるのをじっと待っていたが、そのうちあきらめ、ぼぅっと窓を眺めていた。帰りに本屋に寄らないとなぁ。
聞くともなしに聞こえてきた情報によると、どうやらこの子はイギリスからの転校生らしい。
すげぇな、帰国子女ってやつか。日本語大丈夫なのかな。あー、でも母親が日本人みたいだから、イケんのかな。
「――……で、学校生活でわからないことはここにいる谷山に聞いて」
「はぃっ?」
明後日の方向を向いて考え事をしていた志信は、突然聞こえてきた自分の名前に驚いた。
「谷山、話聞いてたか?」
「え?……いや……えっと……、すみません……」
慌てて前を向くと、いつの間にか少女は顔を上げていた。
志信が慌てているのを見て、ちょっと笑っている。
何だよ。めっちゃ可愛いじゃん……。
「あのな、明日から、ウチのクラスに入る『マグノリア・小町・バレー』さんだ。いろいろ教えてやってくれ」
「へ?何で俺なんすか?委員長とかいるじゃん」
「……お前の家が一番近かったんだ」
「そんだけっすか?」
「あと、お前の席の隣空いてるだろ。あそこに机置こうと思ってな」
「……確かに空いてるけど……」
「それに、お前割と暇だろ?」
「ぐっ……。それは……」
「谷山君……でしたっけ。なんか……ごめんなさいね……」
このやり取りで母親の方は、すっかり萎縮してしまっている。
「あ、いえ、ぜんぜん、そんな……」
大げさに両手を振って否定する。
「大丈夫です。こいつは女子からも男子からも好かれてますし、要領いいやつなんですよ」
「マギーのこと、よろしくお願いします」
母親は深々と頭を下げる。それにつられて、志信も頭を下げた。
ゆっくりと顔を上げると、少女はまっすぐ志信を見つめている。
「……小町」
「え?」
か細い声で、少女が言う。
「小町って呼んで。マギーじゃなくて」
「ああ、そうね。日本だものね。先生、よろしくお願いします」
「小町さん、ね。わかりました。それで……どうしますか。少し校内を案内しましょうか」
「それが……、私はこの後ちょっと用がありまして……」
「そうですか……。じゃあ……、どうしようか。小町さんだけでも少し見てくかい?谷山に案内させるけど」
「え?ちょっ、先生?」
「せっかくだから、見せていただいたら?帰りはママが迎えに行くから」
母親にも勧められ、少女は静かに頷いた。
マジかよ……。




