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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
3/41

M3 転校生、マグノリア・小町・バレー

「すっかりお待たせしまして」

 志信(しのぶ)に話しかける時とは明らかに違うトーンの関の声だ。

 先客がいるのか。

 顔を上げ、関の背中越しに室内を覗く。

 2人掛けのソファが2つ。間に大きいテーブルが置いてあり、中央には邪魔にならない大きさの花が活けてある。

 その2入掛けソファには、女性が2人腰掛けていた。1人は真新しいこの学校の制服を着た少女だ。髪の色がやや明るい。

 もう1人はおそらく彼女の母親だろう。関に気付くと素早く席を立ち、丁寧に頭を下げた。

「お掛けになってください」

 関が促すと、女性は会釈をしながら、またソファに座った。

 関は母親の真向かいに座り、志信はその隣に座る。

 志信は、向かいに座っている少女を見た。一度もこちらを見ることもなく、ずっと下を向いている。

 どうやらそれを関も凝視していたらしい。母親は決まりが悪そうな表情を浮かべる。

「すみません……。ちょっと人見知り……というか……」

「あ、ああすみません。こちらこそ……」

 関はそう言うと、持参していた紙袋から書類を取り出し、母親に渡す。

 俺、何でここにいるのかな……。

 志信は目の前の少女が顔を上げるのをじっと待っていたが、そのうちあきらめ、ぼぅっと窓を眺めていた。帰りに本屋に寄らないとなぁ。

 聞くともなしに聞こえてきた情報によると、どうやらこの子はイギリスからの転校生らしい。

 すげぇな、帰国子女ってやつか。日本語大丈夫なのかな。あー、でも母親が日本人みたいだから、イケんのかな。

「――……で、学校生活でわからないことはここにいる谷山に聞いて」

「はぃっ?」

 明後日の方向を向いて考え事をしていた志信は、突然聞こえてきた自分の名前に驚いた。

「谷山、話聞いてたか?」

「え?……いや……えっと……、すみません……」

 慌てて前を向くと、いつの間にか少女は顔を上げていた。

 志信が慌てているのを見て、ちょっと笑っている。

 何だよ。めっちゃ可愛いじゃん……。

「あのな、明日から、ウチのクラスに入る『マグノリア・小町・バレー』さんだ。いろいろ教えてやってくれ」

「へ?何で俺なんすか?委員長とかいるじゃん」

「……お前の家が一番近かったんだ」

「そんだけっすか?」

「あと、お前の席の隣空いてるだろ。あそこに机置こうと思ってな」

「……確かに空いてるけど……」

「それに、お前割と暇だろ?」

「ぐっ……。それは……」

「谷山君……でしたっけ。なんか……ごめんなさいね……」

 このやり取りで母親の方は、すっかり萎縮してしまっている。

「あ、いえ、ぜんぜん、そんな……」

 大げさに両手を振って否定する。

「大丈夫です。こいつは女子からも男子からも好かれてますし、要領いいやつなんですよ」

「マギーのこと、よろしくお願いします」

 母親は深々と頭を下げる。それにつられて、志信も頭を下げた。

 ゆっくりと顔を上げると、少女はまっすぐ志信を見つめている。

「……小町」

「え?」

 か細い声で、少女が言う。

「小町って呼んで。マギーじゃなくて」

「ああ、そうね。日本だものね。先生、よろしくお願いします」

「小町さん、ね。わかりました。それで……どうしますか。少し校内を案内しましょうか」

「それが……、私はこの後ちょっと用がありまして……」

「そうですか……。じゃあ……、どうしようか。小町さんだけでも少し見てくかい?谷山に案内させるけど」

「え?ちょっ、先生?」

「せっかくだから、見せていただいたら?帰りはママが迎えに行くから」

 母親にも勧められ、少女は静かに頷いた。

 マジかよ……。



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