表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
22/41

M22 化け物

「え?」

 突風のようなその塊は、小町の顔にヒットした。その衝撃で小町の身体が後方に倒れる。

「……っ!おっと!」

 良かった。俺、瞬発力があって、本当に良かった――……。

 小町の身体が地面に激突する直前で、何とか抱きとめる。

「何だ……。いまの……」

 突然飛んできた『黒い塊』の正体を突き止めるべく、辺りを見回すと、小町を抱きかかえた志信(しのぶ)の後方でマグノリアが香箱座りをしている。

「まさか……お前か?」

「っいったぁぁ……」

 一瞬の出来事で、自分の身に何が起こったのかわからない様子の小町であったが、遅れて痛みがやって来たらしく、目を瞑って顔を押さえている。

 そして、いまの状況――志信に抱きかかえられていること――を理解したらしい。

「あれ?ごめんね。谷山君が受け止めてくれたんだね。ありがとう」

 目の辺りを押さえながら身体を起こす。志信の支えなしでしゃがむ状態になったところで、小町から離れ、志信はマグノリアに歩み寄った。

「マグノリア……。いまのお前か?」

「にゃおん」

「にゃーじゃねぇよ。お前なんだな?」

「にゃおん」

「にゃーじゃねぇ!いままでこんなことなかっただろ?」

「もういいよ、谷山君。私あんまり動物に好かれないんだ……」

 左目を押さえた小町が寂しそうに言った。

「大丈夫か……?目、どうかしたのか?」

「大丈夫大丈夫。ちょっとコンタクト、落としちゃったみたいで」

 コンタクトしてたのか……。

「ないと不便だろ?探すよ」

 そう言って、身を低くする。

「いいの。家にまだ予備あるし」

「でも」

「いいの!……本当に。それに、見つけても傷ついてるかもしれないし」

 小町にしては珍しく、強い声だった。

「それなら……いいけど。とりあえず、その状態だと危ないし、送るよ」

「ありがとう」

「なんか……ごめんな」

「谷山君のせいじゃないよ。きっとやきもち焼いたんだよ。あの猫ちゃん、雌でしょ」

 左目から手を離さずに、小町は歩き出した。

「わかるのか?」

「さっき、マグノリアって呼んでたから。最初私の名前かと思って返事しちゃったけど」

 さっきのは小町の声だったんだ……。でも、小町の声だったか?

「ああ、飼い主さんが白木蓮の木の上で会ったみたいで、そんで、その名前になったんだよ」

「そうなんだ……」

 小町は頑なに左目から手を離そうとしない。

 大丈夫かな。猫の毛とか入ってなきゃいいけど。

 ほとんど何も話さないまま、あと数メートルで小町の家だ。

 しかし……せっかく小町と話せるかと思ったのに、残念だな。

 

「私も、残念」

「え?」

 またも心の声に対する返事が聞こえ、驚いて小町を見る。

 小町は志信の視線を感じて立ち止まる。

「ちょ、どうした?」

 志信も立ち止まり、小町と正面から向かい合った。

 しばしの沈黙の後、小町が口を開いた。


「谷山君、もし私が、化け物だったら、どうする?」


「は?何言ってんだ?」

 左目を押さえていた小町の手がゆっくりと離れる。

 閉じていた左目がゆっくりと開く。

 長い睫毛に縁どられた大きな瞳。

 その左目の色は、ガラス玉のように透き通ったエメラルドグリーンだった。


「小町……。お前、本当はそんな目なんだな。そんなことで化け物なんて言うなよ」

 いきなり化け物なんて言うから焦ったぜ……。

「いきなり化け物なんて言うから、焦った?」

 え?

「谷山君、私のこと、どう思ってる?」

「どうって……。クラスメイトで……。隣の席で……」

 ちょっといいなって思ったりもして……。でも、賢太のことが好きなんだろ……。

 俺は、賢太みたいに見た目も良くないし、振る舞いだって……。

「最上君のことは好きだよ。でも、谷山君はもっと自分に自信持ちなよ」

「え?ちょ、さっきから何だ……?お前……」

「言ったでしょ?化け物なんだよ、私は」


「私はね、裸眼だと人の心が読めちゃうんだよ。そういう化け物なの」


「人の……心……?」

「そうだよ。私に心を読まれちゃうと、谷山君の心が石になっちゃうんだって」

 小町はそう言うと、左目から涙を一粒零し、家に向かって走り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ