M20 観察対象
思い続けていれば案外それが普通になるもので、ひと月も経つころには、しっかりと『仲の良い男友達』という立ち位置を確立した。
小町は夕夏と睦でつるむことが普通になり、その2人の力なのか、クラスの女子とも交流が増えた。男子からの人気は高いものの、賢太が目を光らせているからか、表立ってアプローチを仕掛けてくる猛者はいなかった。
「なぁ、志信さ。結局小町ちゃんとはどうなったわけ?」
いつものように後ろを向いて菓子パンをかじりながら賢太が聞く。
「どうもこうもなってねぇよ」
男友達の自覚はあるものの、志信はやや投げやりに答える。
ふと、誰も座っていない小町の席を見る。小町はやや離れた夕夏の席へ椅子だけを移動させて3人で弁当を食べていた。
「ふーん。俺てっきりお前らくっつくんだと思ってたけど」
「俺は、小町はお前に気があると思ってるけどな」
「……何でそう思うわけぇ?」
賢太は左手で紙パックのジュースを持ち、人差し指を志信に向けてくるくると回した。
「いっつも賢太のこと見てんだよ」
「で、志信がそれを知ってるっつーことは、いつも小町ちゃんを見てるってことだな」
人差し指をぴたりと止め、志信を指差し、ニヤリと笑う。
「隣なんだし、それくらいわかるだろ」
「俺、隣のやつのことなんて見てねぇけどな」
「お前はいいんだよ。とにかく、小町はお前のことじっと見てんぞ」
「ふーん。でもさ、なんか違うんだよな」
「違うって何がだよ」
志信は空になった弁当箱を元通りに包み直す。今日は珍しく母親が弁当を作ってくれたのだった。
いつもは購買の菓子パンで済ませるが、やはり、手作りの弁当は格別だ。
「俺に恋してる女子の顔じゃあないんだよなぁー」
賢太は紙パックを机に置くと、上半身を捻って、教卓の前で談笑している小町を見た。
「何だよそれ」
「まぁ、あんまり言いたくないんだけどさ。もうだいたいわかるんだよな。あ、この子、俺のこと好きだなってさ」
また志信の方に向き直り、頬杖をつく。
「わかるもんなのか」
「場数が違うんだよ。なめんなよぉ?俺様をぅ」
賢太はモテる。とにかくモテる。それはわかってる。
ただ、いまのところ本人にその気がないだけだ。
サッカーが恋人なんて嘘だ。
単に、こいつのお眼鏡にかなうやつが現れていないだけだ。
「まぁ、とにかくさ。具体的にどう違うとかまでは俺も説明できないけど、違うんだって。何か観察されてるみたいな感じよ」
涼しい顔でそう言い、ずるずると音を立てて残りのジュースを飲んだ。
「観察かぁ……。たしかに賢太は見てて何か面白いしな」
「えっ?マジ?そうなの?」
賢太は目を見開いて志信を見つめる。
「何だろうな。たまにすっげぇツボに入る時あるよ。たぶんお前は真剣にやってるんだろうけど」
「何だよぅ。俺なんか恥ずかしいやつじゃん!」
「たぶん、そういうところがまた『最上君カッコイイ!』なんじゃねぇの?知らねぇけど」
身近にそういうタイプが2人もいるからな。
「うぅ……。俺はもっとクールな感じでモテたいのに……」
「あきらめろ。お前は天然系イケメンなんだよ」
「俺、20歳になったら、煙草吸うわ……」
賢太は頬杖をついて大きくため息をついた。
「お前の中のクールな感じって喫煙なのかよ。しかも、きっちり年齢は守るんだな」
「俺の頭で思いつくクールなんて煙草がいいとこよ」
「でもいまって喫煙者はだいぶ肩身狭いみたいだぞ。高いし。俺の父さんも結局止めたしな」
「そっかぁ~。じゃ、もう打つ手なしだな。仕方ない、このまま生きるわ」
「……あきらめんの早くね?」
「俺、じっくり考えんの苦手なんだよなぁ」
賢太は紙パックのストローを口でくわえたまま引き抜き、人差し指と親指で挟んで息を吐きだす。
「それだとシャボン玉だぞ」
「可愛いだろ?俺」
「あざといな」
「へへっ」
最初の話からはだいぶそれたが、どちらも戻そうとはしなかった。




