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メドゥーサの彼女  作者: 吉國 冬雪
20/41

M20 観察対象

 思い続けていれば案外それが普通になるもので、ひと月も経つころには、しっかりと『仲の良い男友達』という立ち位置を確立した。

 小町は夕夏(ゆか)と睦でつるむことが普通になり、その2人の力なのか、クラスの女子とも交流が増えた。男子からの人気は高いものの、賢太が目を光らせているからか、表立ってアプローチを仕掛けてくる猛者はいなかった。


「なぁ、志信(しのぶ)さ。結局小町ちゃんとはどうなったわけ?」

 いつものように後ろを向いて菓子パンをかじりながら賢太が聞く。

「どうもこうもなってねぇよ」

 男友達の自覚はあるものの、志信はやや投げやりに答える。

 ふと、誰も座っていない小町の席を見る。小町はやや離れた夕夏の席へ椅子だけを移動させて3人で弁当を食べていた。

「ふーん。俺てっきりお前らくっつくんだと思ってたけど」

「俺は、小町はお前に気があると思ってるけどな」

「……何でそう思うわけぇ?」

 賢太は左手で紙パックのジュースを持ち、人差し指を志信に向けてくるくると回した。

「いっつも賢太のこと見てんだよ」

「で、志信がそれを知ってるっつーことは、いつも小町ちゃんを見てるってことだな」

 人差し指をぴたりと止め、志信を指差し、ニヤリと笑う。

「隣なんだし、それくらいわかるだろ」

「俺、隣のやつのことなんて見てねぇけどな」

「お前はいいんだよ。とにかく、小町はお前のことじっと見てんぞ」

「ふーん。でもさ、なんか違うんだよな」

「違うって何がだよ」

 志信は空になった弁当箱を元通りに包み直す。今日は珍しく母親が弁当を作ってくれたのだった。

 いつもは購買の菓子パンで済ませるが、やはり、手作りの弁当は格別だ。

「俺に恋してる女子の顔じゃあないんだよなぁー」

 賢太は紙パックを机に置くと、上半身を捻って、教卓の前で談笑している小町を見た。

「何だよそれ」

「まぁ、あんまり言いたくないんだけどさ。もうだいたいわかるんだよな。あ、この子、俺のこと好きだなってさ」

 また志信の方に向き直り、頬杖をつく。

「わかるもんなのか」

「場数が違うんだよ。なめんなよぉ?俺様をぅ」

 賢太はモテる。とにかくモテる。それはわかってる。

 ただ、いまのところ本人にその気がないだけだ。

 サッカーが恋人なんて嘘だ。

 単に、こいつのお眼鏡にかなうやつが現れていないだけだ。

「まぁ、とにかくさ。具体的にどう違うとかまでは俺も説明できないけど、違うんだって。何か観察されてるみたいな感じよ」

 涼しい顔でそう言い、ずるずると音を立てて残りのジュースを飲んだ。

「観察かぁ……。たしかに賢太は見てて何か面白いしな」

「えっ?マジ?そうなの?」

 賢太は目を見開いて志信を見つめる。

「何だろうな。たまにすっげぇツボに入る時あるよ。たぶんお前は真剣にやってるんだろうけど」

「何だよぅ。俺なんか恥ずかしいやつじゃん!」

「たぶん、そういうところがまた『最上君カッコイイ!』なんじゃねぇの?知らねぇけど」

 身近にそういうタイプが2人もいるからな。

「うぅ……。俺はもっとクールな感じでモテたいのに……」

「あきらめろ。お前は天然系イケメンなんだよ」

「俺、20歳になったら、煙草吸うわ……」

 賢太は頬杖をついて大きくため息をついた。

「お前の中のクールな感じって喫煙なのかよ。しかも、きっちり年齢は守るんだな」

「俺の頭で思いつくクールなんて煙草がいいとこよ」

「でもいまって喫煙者はだいぶ肩身狭いみたいだぞ。高いし。俺の父さんも結局止めたしな」

「そっかぁ~。じゃ、もう打つ手なしだな。仕方ない、このまま生きるわ」

「……あきらめんの早くね?」

「俺、じっくり考えんの苦手なんだよなぁ」

 賢太は紙パックのストローを口でくわえたまま引き抜き、人差し指と親指で挟んで息を吐きだす。

「それだとシャボン玉だぞ」

「可愛いだろ?俺」

「あざといな」

「へへっ」

 最初の話からはだいぶそれたが、どちらも戻そうとはしなかった。


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